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■■■ 曼荼羅を知る [2019.2.20] ■■■
経典 三尊護法神群

「大曼荼羅」のなかから修法本尊を取り出して、その周囲に関係尊像を配置するのが"別尊曼荼羅"ということになるが、見方を変えれば、もともと存在していた、個々の修行や信仰の場毎に設置されていた様々な尊像群の図絵を一つの思想のもとにまとめ上げたのが「大曼荼羅」とも言える訳である。
今迄の修行や祭祀の儀典がすべて体系化されたとも言える訳で、教団宗教としての完成度を高めたということになろう。

そういう観点で眺めると、発祥の元としては如来と二脇侍菩薩の三尊形式があげられよう。後に、それに護法の尊像が付け加えられる訳である。もちろん、場当たり的に三尊が始まった訳ではなく、経典内容をシンボライズして可視化しただけのことではあうものの、別途規範も決められ仏教美学が生まれていくことになる。

日本の古寺ではよく見られる形態である。特に、薬師如来像は寺院本尊の定番と言えるほどで、病気平癒祈願の大医王仏として絶大な人気を誇っていたようだ。にもかかわらず、胎蔵曼荼羅・金剛界曼荼羅に薬師は全く登場してこないし、日光菩薩に該当する尊像も不明。
しかし、薬師佛と阿弥陀佛とは、一般には東方瑠璃光浄土と西方極楽浄土の両教主として知られている訳で、中心的存在の釈迦如来を加えると、素人的には極めて解り易い仏国土全体像ができあがる気になるが、曼荼羅は極めて思弁的に形成されており、そのような方向には進まなかったのである。(もちろん、阿弥陀仏の役割も全く異なる。)・・・
 《薬師如来》日光菩薩+月光菩薩 【薬師本願經】
 《釈迦如来》文殊菩薩+普賢菩薩 【華嚴經】
 《阿弥陀如来》観音菩薩+勢至菩薩 【無量寿經 観無量寿經】

つまり、それぞれ三尊形式を採用したにすぎない訳で、これらすべてを結び付ける必然性はなかったということになる。

菩薩像の三尊形式となんらかわらないことになろう。・・・
 《地藏菩薩》觀世音菩薩+地藏王菩薩 【地藏菩薩本願經】
 《弥勒菩薩》法華林菩薩/法苑林菩薩+大妙相菩薩 【仏説観弥勒菩薩上生兜率天経】

ここには「大曼荼羅」の体系構築の意図は感じられず、信仰対象への帰依あるいは修行のための本尊図絵以上ではなかろう。それらを一同に集めたところで、大陸に於ける信仰場所の名山/道場の地図を描いたのとほとんど同じことになりかねない。政治的には大いに使えるだろうが、宗教上たいした意義はなかろう。・・・
 普賢菩薩@峨眉山四川
 文殊菩薩@五臺山山西
 觀音菩薩@普陀山浙江
 地蔵菩薩@九華山安徽
 彌勒菩薩@梵淨山貴州 or 雪山浙江
 大勢至菩薩@狼山江蘇
 摩訶迦葉@足山雲南


重要なのはあくまでも思想性であり、上記の《釈迦如来》像にしても、密教的脇侍にするなら「蓮華手菩薩+金剛手菩薩」たるべしだろうし、薬師如来的な感覚での脇侍なら「藥王菩薩+藥上菩薩」となる。

当然ながら、尊像の力が大きい場合は、その周囲に従者として眷属が取り囲むことになる。見かけは曼荼羅調。・・・
 薬師仏…十二神将
 釈迦仏…十大弟子 十六羅漢
 文殊仏…(優填王 善財童子 仏陀波利三蔵 最勝老人)
 普賢菩薩…十羅刹女
 千手観音菩薩…二十八部衆
 不動明王…八大童子
 毘沙門天…八大夜叉大将


像の数が少ないのは、それほど大きな意味がある従者がいないというにすぎまい。ただ、変身と従者が混淆してくるとよくわからなくなる。変化三十三観音の存在はよく知られているが、その元たる「普門品」からすれば、もともとは三十三身な訳で、長者・居士・婆羅門〜比丘・優婆塞に夜叉・阿修羅・迦楼羅まで含んだものになっており、仏教信仰者向けの大曼荼羅になっているようにも映る。しかし、密教の理智を旨とする「大曼荼羅」とは違って思想が研ぎ澄まされているという印象は薄い。・・・
 聖者三尊 天界六尊 道外五尊 道内四尊 婦童六尊 天龍八部 金剛一尊

比較のために胎蔵曼荼羅 中台八葉院、金剛界曼荼羅、十七尊曼荼羅を並べてみよう。・・・
●胎藏曼荼羅 中台八葉院 5尊【大日経】
 大日如来 普賢菩薩 文殊菩薩 観自在菩薩 彌勒菩薩

●金剛界曼荼羅 37尊【金剛頂経】
 毘盧遮那(大日)如来 金剛波羅蜜 宝波羅密 法波羅蜜 羯磨波羅蜜
 阿如來 金剛薩 金剛王 金剛愛 金剛喜
 宝生如来 金剛宝 金剛光 金剛幢 金剛笑
 無量寿如來 金剛法 金剛利 金剛因 金剛語
 不空成就如來 金剛業 金剛護 金剛牙 金剛拳
 -四内供養- 金剛嬉 金剛鬘 金剛歌 金剛舞
 -四外供養- 金剛焼香 金剛華 金剛燈 金剛塗香
 -四摂- 金剛鉤 金剛索 金剛 金剛鈴

●十七尊曼荼羅【理趣經】
 金剛薩
 欲・触・愛・慢 (金剛菩薩)
 華・香・灯・塗 (内供養菩薩)
 嬉・笑・歌・舞 (外供養菩薩)
 鉤・索・鎖・鈴 (門護菩薩)

○参考【金剛頂瑜伽理趣般若經經】
文殊師利菩薩 觀自在菩薩 金剛手菩薩 金剛拳菩薩 虚空藏菩薩 虚空庫菩薩 發心即轉法輪菩薩 降伏一切魔怨菩薩

いかにも、教義をもとにした視覚化を究極にまで詰めた図絵という印象。個々の信仰対象を纏めたものではないのであり、そこに至るまでには思索的に突き詰める過程があったと見てよさそうである。
つまり、三尊や眷属群といったレベルから一歩進んだという話ではないと考えるべきだということ。

従って、その思想的系譜は経典に触れていない素人には創造が付きかねる。
しかし、そのトレースを感じとることはできないでもない。経典毎に僅かに残る曼荼羅的な集合尊の存在が確認できるからだ。参考迄にそのような例をあげておこう。もちろん網羅的ではないし、検索論理がわからないままでの情報収集だが、宗教専門家による一定の見方で集めてはいないから感覚的に"曼荼羅"の系譜を感じとることはできよう。・・・
【藥師琉璃光如來本願功コ經】
文殊師利菩薩 彌勒菩薩 觀世音菩薩 大勢至菩薩 無盡意菩薩 寶檀華菩薩 藥王菩薩 藥上菩薩
【七佛八菩薩經】
文殊師利菩薩 跋陀和菩薩 觀世音菩薩 大勢至菩薩 得大勢菩薩 虚空藏菩薩 救脱菩薩 堅勇菩薩
【法華經 十四品】
彌勒菩薩 文殊菩薩 藥王菩薩 妙音菩薩 常精進菩薩 無盡意菩薩 觀音菩薩 普賢菩薩 四供養菩薩 四摂菩薩
【法華經 從地涌出品第十五】
上行菩薩 無邊行菩薩 淨行菩薩 安立行菩薩 
【華嚴經】
法慧菩薩 功コ林菩薩 金剛幢菩薩 金剛藏菩薩
【八大菩薩曼荼羅經】【佛説八大菩薩經】
文殊/妙吉祥菩薩 普賢菩薩 觀自在/觀世音菩薩 金剛手菩薩 虚空藏菩薩 地藏王菩薩 彌勒菩薩 除蓋障菩薩
【舍利弗陀羅尼經】
光明菩薩 慧光明菩薩 日光明菩薩 教化菩薩 令一切意滿菩薩 大自在菩薩 宿王菩薩 行意菩薩
【般若理趣經】【般若三昧經】
文殊菩薩 觀世音菩薩 金剛手菩薩 金剛拳菩陸  虚空蔵菩薩 虚空庫菩薩 才發意轉法輪菩薩 摧一切魔菩薩


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