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■■■ 曼荼羅を知る [2019.2.21] ■■■
五色 法界力

曼荼羅図絵の解説では、尊像のシンボリックな色として五色が強調されるが、実際に眺め、オリンンピックの五輪旗のような色分け(白・赤・黄・黒・青)をすぐに感じることはできない。
歴史的美術品はおしなべて古色蒼然状態だから、当然ではあるものの、特に青色は緑系としてしか映らない。それに、日本現存の金剛界曼荼羅図絵の五仏の身体はどう見てもすべて白肉色。ヒンドゥー教の原色肌の尊像を知るだけに、佛像に五色感は全く生まれない。この五色以外の、緑・紅・縹・紫・金・銀が各所に使われているのも見ればすぐわかるし。

しかし、同時に、五色の思想が籠められていることにも気づかされる仕掛けはできている。白・青・黄・赤・黒の導線が描かれているからだ。図絵のパターンからすれば、尊像からの発光色(光明)を意味していそう。

小生は、これが密教曼荼羅における表現で一番重要な箇所と見る。
そう思うのは、1027年に藤原道長が享年62で逝去した際の五色糸シーンを思い起こすからである。(「栄花物語」)法成寺阿弥陀堂にて、阿弥陀如来像の手と自分の手を五色糸で結んで、北枕で西側に向き臥し、親族が囲んだなかで読経念仏とのシーン。病状から考え、実情は異なるだろうが、理想的な臨終の姿なのであろう。

明らかに、聖と俗を五色糸が結ぶという概念が確立していたことがわかる。
密教曼荼羅で言えば、聖の中心は宇宙そのものの大日如来である。その加持力は俗に五色の光となって降り注いでいることになる。
修行者はその光に感応することができると、功徳力が生まれるのである。
そして、その場は一変し、法界力が満ち溢れることになる。呪術に理論的根拠が与えられたとも言えよう。
おそらく、この論理が、日本の風土と合致したので密教が浸透したのだろう。

平安中期に大日如来を示すために始まった五輪塔にも、この五色があてられている。ただ、石塔なので色は塗られないことが多いようで、種子(梵字)や宗派の題目が刻まれていたりする。
【五輪/元素】
  [青]空綸…宝珠形
  [黒]風輪…半月形
  [赤]火輪…三角
  [白]水輪…円
  [黄]地輪…四角

上記は五行と混淆させた可能性もあろう。
【五行】
  [白]Ⓦ 金 白虎 秋
  [黄]Ⓒ 土
  [青]Ⓔ 木 青龍 春
  [黒]Ⓝ 水 玄武 冬
  [赤]Ⓢ 火 朱雀 夏

と言っても、インドは亜大陸で風土はゴチャまぜだったろう。しかも密教は北のガンジス流域ではなく南の発祥とくる。天竺が五行と同じ配色だったかは何とも言いかねる。
日本の古代コンセプトは赤⇔黒と青⇔白ということもあり、黄色は後付けのように見えるせいもあるが。
水信仰が古そうだが、白が大陸の河川の色とは言いかねるし、海に囲まれたという思想からすれば青になってもよさそうなもの。一応、透明ということで穢れを祓う白と言えないことはないが、雪山源流とでもしないと、水を白と見なす文化的背景がよくわからない。

一方、その青は、ラピスラズリーに傾注した古代人の心情からすると重要な色だったに違いなさそう。多分、悪霊祓い的な意味があったのだろう。
ただ、インド亜大陸では黒の代用色として使われている可能性も捨てきれない。皮膚の色が白い支配者層のアーリア系人種に対し、被支配者層のドラヴィダ系人種はすべて薄黒い肌である。その問題を払拭するには信仰場面では尊像の身体の色には黒を使わず青で代替していることも少なくなさそうだから。
日本では青の概念は広く、紺から緑まで含まれるが、緑はイスラムのシンボルであるので、そこには溝があると思われる。

ザッとあげておこう。諸説ありとの記載が多い上に、色彩についての出典を記載しない解説しか見かけないのであてにはならないが。・・・

【仏法広宣印】日本仏教会 [「小部経典」]
  [青]定根…頭髪色  [(緑)]
  [黄]金剛…身体色
  [赤]精進…血液色
  [白]清浄…歯色
  [樺]忍辱…袈裟色  [⇒黒(正色), 橙(旗), 紫(幕)]
【五根/五力】大般涅槃経 (上座部)三十七道品
  [白]信
  [赤]勤(精進)
  [黄]念
  [青]定
  [黒]慧

【真言密教 五佛】@真言宗智山派, 諸説あり
  [白]大日如来
  [青]阿如來
  [黄]宝生如来
  [赤]無量寿如来/阿弥陀如来
  [黒]不空成就如来
【真言密教 五智/五法】@真言宗智山派, 諸説あり
  [青]大円鏡智  [(紫)]
  [赤]平等性智  [(金)]
  [黄]法界体性智
  [白]妙観察智
  [黒]成所作智

【天海僧正(天台系)五色@江戸】
  [白]大日如来⇒目白不動
  [赤]宝幢如来⇒目赤不動@駒込
  [黄]開敷華王如来⇒目黄不動@三ノ輪
  [青]無量寿如来⇒目青不動@太子堂
  [黒]天鼓雷音如来⇒目黒不動
胎蔵曼荼羅図絵の壇線は白・赤・黄・青・黒である。

【西蔵砂曼荼羅】
  [白]大日如来
  [青]阿如來
  [黄]宝生如来
  [赤]阿弥陀如来
  [緑]不空成就如来

【六道輪廻】
  [白]天界
  [黄]人界
  [青]修羅界
  [緑]畜生界
  [赤]餓鬼界
  [灰]地獄界


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