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「我的漢語」講座

第5回 簡体字 2010.7.22
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〜 日本の漢語は特異中の特異と言えよう。 〜
 四回に渡って簡体字ベースでの中国語の話を書いてきた。
 何故、こんなことに興味を覚えるのか、我ながら不思議な感じもする。古事記や万葉集に関心を持つと、自然とそうなるのかも。
 この感覚、おわかりになるだろうか。

 小生は、漢字を日本語の表記文字に決めた古代の為政者は慧眼の持ち主と見た。おそらく、そう考えるのは少数派だと思うが。なにせ、日本語はローマ字表記にすべしという人や、英語に変えるべしという人がいる位だから。
 なんといっても優れていると思うのは、意味を持たない文字を非漢字的な仮名文字を使うことに決めた点。標準化と簡素化を一気に行った訳であり、味な施策。
 これを国風化と見なすらしいが、一寸違うのでは。万葉集の時代から、“和”の発想を生かしての漢字導入であり、方針が変わった訳ではない。全面的中国語化など、始めから追求していない。ただ、中華文化への憧れからの中国語化が発生したり、それが過ぎて下火になるというだけの話だろう。

 そんなことより注目すべきは、日本における漢字の読み方が一通りでない点ではないか。もちろん、主流は漢民族国家“唐”の頃のものだが、それ以後ではなく、それ以前の南方国家“呉”の発音をそのまま伝えているのだ。しかも、漢音とは異なる新時代の唐音/宋音も並存している。なんともまあ、という感じがする。(呉音は奈良仏教時代の音だから、和歌が続く限り消えることはなかろう。唐音/宋音は多分当時の貿易用語だから、モノがある限り消えまい。)もちろん、それぞれの文字の意味に相当する日本語読みもあるし、音を利用した外来語の当て字も豊富だ。しかも“米国”といった、発音とは全く異なる簡素化も平然と行なう。
 漢字の新語作りはお得意なのである。日本は、漢字のこの利便性を120%活用してきたと言えよう。“経済”や“西洋哲学”関連の語彙は、ほとんど日本発祥ではないかと思うほど豊富。
 ともかく、途方もなく面倒な言語体系であるのは間違いない。
 お蔭で、学ばされる方はたまったものではない。ところが、どういう訳か文句はでないし、それをほとんど全員が身につけてしまうのだ。驚異的。
    → 「日本語は最古言語かも」[続] (2009年8月27日/9月10日)

 それはそれとして、漢字の嬉しさは、なんといっても表意文字である点。お蔭で、古い書籍でもなんとか意味がわかる。それを現代的文章に直すことも容易で、先人の学びに触れることができる訳だ。ここら辺りが、Far Eastのそのまた辺境の地でありながら、知恵で食べていく国をつくりあげることができた秘訣かも。

〜 漢語の標準は事実上簡体字だ。 〜
 国語を英語にせよと語る方もいるのは、まあ、わからないでもない。明らかに、現代のグローバル経済下で、英語無しで国を発展させることなどほぼ無理なのは明らかだからだ。
 だが、古代も東アジアでは同じような状況で、そこは漢語が標準化された世界だったと見てよかろう。
 南はベトナム、北は朝鮮半島とその北部まで、海を通じた漢語文化圏ができていたのは間違いあるまい。それぞれに地域毎に言語は違うが、漢字を使えば、どこだろうと筆談で意思疎通が可能だった筈。実にインターナショナルな世界だった。
 その世界の再来はあり得るかも。中国語圏の人口は余りに巨大だからだ。しかも、世界の至るところに華人・華僑が住んでおり、話言葉は統一はされてはいないが、読み書きは漢語である。
 それなら、本来なら、日本人も、そのなかにも入っておかしくない筈。それがお嫌いなら別だが。(ベトナムと朝鮮半島の国家は、中華文化を嫌い外れてしまった。大損では。)

 ただ、そうは言っても、実際に漢語圏に入るというのは、簡単ではない。英語と漢文を習っているから、基本文法はわかるし、日本語的な形容の仕方で活用がないので、たいした障害もなくは入れそうに思うがそうならないのだ。その最大の理由は、漢字といっても、字体が変わってしまったから。日本、中国、台湾、香港では字が異なるのである。(下記参照文献の[表]をご覧あれ。)
 なかでも、中国共産党が、強引と思われるほど簡素化した簡体字が普及している点が超難関。日本人にはわからない文字が溢れかえってしまったのである。

 人民の数の力で戦ってきた中国共産党からすれば、最重要施策だったことはわかるが。・・・ほとんど読み書きできなかった“人民”も、毛沢東語録の勉強を通じて一気に識字率を上げただろう。
 お蔭で、漢語の標準字体は事実上簡体字になってしまった。エリートが読む人民日報が繁体字という時代は終わりを告げたのは間違いない。ただ、中華文化の粋とされる書では、毛沢東も縦書きの繁体字だったから、これは変わるまい。

〜 日本人が読むための簡体字習得方法がありそうだが。 〜
 ところが、この簡体字を学ぶ方法がよくわからない。
 当たり前だが、簡字体だけを学ぼうという人は稀。普通は、中国本土の“普通語”習得の一環である。従って、どうしても会話的な文章から始まるし、日常的なシチュエーション別レッスンが主体。構文解説書も沢山あるが、初心者にはえらく面倒。読書に興味がある人向けの簡単なものがどうも見当たらないのである。
 要するに、先ずは、簡体字と日本で現在使われている漢字がどう対応しているか、ざっと知りたいのだが、適当なものが見つからないということ。

 と言っても、十分調べた訳ではない。その範囲では、帯に短し襷に流しの感じがしただけ。

 と言うことで、自分で漢字のリストを眺め、どう対応しているのか眺めてみることにした。(言うまでもないが、簡体字は繁体字の簡素化文字。日本で使われている文字も簡素化されている。繁体字を持ち出すのは厄介だから、ここでは、日本の漢字から簡体字を作る感覚で勝手に整理している。簡素化の実態を示してはいないのでご注意のほど。)

■■■わかる文字は結構多い。■■■
まるっきり同じ文字も少なくないが、日本より簡素化に熱心なのは間違いない。建国時の人口の8割が農民で、識字率云々のレベルではなかったのだから当然だが。
 字を眺めると、すぐに書けることを最重要視視して作ったようだ。それはそれで便利なのだが、書き易くするため、傾けたりするので、デザイン的に草書型な雰囲気が生まれ違和感を覚えるからだ。明朝体の見やすい字体に慣れていると、どうも気分が悪い。
 ともあれ、簡素化の熱意は見ればわかる。
・三点/三棒を1つ割愛して1画分削減・・・なるほど。
    単→
    賎→、銭→ [偏ではなく、旁の方]
    斉→、済→ [2つとも削減]
・一部取り去り1画削減・・・なんか変だが通じる。
    変→
    呂→
・形を少し変えて1画削減・・・この手は違和感が残る。
    脳→
    骨→ [冠部の内部の鍵を左側にしてニ筆を一筆に]
・一筆に統合して1画削減・・・これは気付かない。
    免、象の上部の“ク”を伸ばして“口”の“中棒”を代替。差も同様に“縦棒”と“ノ”。
    コザトも三画ではなく、二画。
・ただ、簡素化法が違うと、結果が異なる。・・・日本と同じにして欲しかった。
    圧→
    浜→
    両→
・部首の意味で簡素化・・・気にいった。
    筆→ [竹+毛]
     ・・・毛;笔铅笔钢笔[万年筆]圆珠笔[ボールペン]粉笔[チョーク]蜡笔[クレヨン]
    「笔,墨,纸」の世界だ。 [“,”=&]
・前回述べたが、字体が一寸違うものがある。(パソコンにフォントが無い。)
    例えば、海、毎、写は簡体字は違う文字になる。

■■■なんとなく想像がつく文字も多い。■■■
一度見れば日本の漢字イメージが湧くものは少なくない。ただ、書けるためには、完全に記憶する必要があるので多少のハードルは存在する。
・簡略記号化した偏や旁は、最初はえらく気になる。
  筆記具で書くと、簡体字が圧倒的に楽ではあるのだが。
    金 食 貝 頁 言 門→钅 饣 贝 页 讠 门
    糸 魚 鳥 馬 車 歯→纟 鱼 鸟 马 车 齿
  尚、パソコンの小さなフォントだと差がわからない偏があるので注意した方がよい。
    (例えば)
    たまらぬのは点の数を減らしたりすること。偏が変わる訳である。
・ゴチャゴチャ部分を点にして省略する。これは確かに楽だ。
    傘→
    協→
    亜 唖 壷→亚 哑 壶
    点以外は、類似文字との違いが気にはなる。
    風 岡→风 冈  歯→齿
・ほんの一部だけで代表する文字は、一度見れば覚えることができそう。
    開→  関→
    類→  雑→  郷→  気→
    雲→
    業→  習→  滅→
    奮→
  この二字は一寸無理があるが、電は有名なので既知の文字だろう。
    電→
    豊→ [繁体字の「」]
  ただ、郷[]と糸偏が似ているのが少々気になる。尚、糸はダブル形。
    糸→
・他の文字と混同しそうな大胆省略文字は、完璧に記憶しておく必要がある。
    産→
  このお蔭で、混乱が生じている。これは要注意。
    広→广 廠→
    拡→
・草書体を想像すればわかる簡略化は、字は想像がつく。
  しかし、書から離れているととても書けない。
    為→
    書→
    場→
・日本語の発音から想像できるものもある。
    華→
    繊→
红卫兵時代を彷彿させる文字はよく知られているのでは。
    毛泽东 战争 帝国主义
  沢の類縁もすぐにわかる。
    択→ 訳→
  ちなみに、隷書、行書、楷書、草書、と並ぶ毛書もある。もちろんフォント有。

 と言うことで、第五回はこれまで。
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--- 参照文献 ---
兒島慶治: “日本・中国・台湾・香港の4地域を対照比較した基礎漢字字形一覧表”
http://www.cuhk.edu.hk/jas/staffpro/kojima/01-glyph-commentary.pdf
[表] http://www5.cuhk.edu.hk/jas/jas_media/staff/kojima/01-glyph-table.pdf
兒島慶治: “日本・中国・台湾・香港における漢字字体の共通性と相違性”
http://www5.cuhk.edu.hk/jas/jas_media/staff/kojima/13-common-difference.pdf
--- 丁寧な解説のサイト ---
“中国語の漢字「簡体字」について(その1〜10)” 中文研究網
http://www.chinese-lab.com/main/chinese.html


 
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