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「我的漢語」
2015年6月27日

座右の銘

日本は、誰が言ったのか知らぬが、現代座右銘大国だそうな。
大相撲力士が四字熟語を表だって使いだしたのは、不撓不屈、一意専心あたりからで、古くからあったようには思えないが、今やそれなしでは横綱になれないかのよう。最近は、精神一到、全身全霊、一生懸命といった具合だが、日本語の堪能さには驚くばかり。勉強時間がよくあるものだ。
人気力士はおそらく何千枚と色紙を書くのだろうが、もらう側が嬉しいのは本当のところは文字より手形。そして、力士に赤ん坊を抱きあげてもらうのが最高な訳で。この習慣を変えるのは難しかろう。

政治家も、頼まれて色紙を何枚も書く必要がある。示偏と衣編の区別がつかぬ宰相はいかにもありそう感だったが、漢字読めずで有名になったマンガ総理の書が達筆で驚かされたことがある。幼少期に徹底的に鍛えられたのだろうから、その気分がわかった感じがした。 ともあれ、政治家は色紙用言葉を準備しておかない訳にはいかない。それは、マスコミ向けの話題作りとしても重要な要素を占めているのは間違いないし。たとえ、漢文など全く興味がなかったとしても。
  大久保利通 「為政清明」
  森  善朗 「滅私奉公」
  小泉純一郎 「無信不立」 [論語]
  福田 康夫 「光而不耀」 [道徳経/老子]
  麻生 太郎 「天下公為」 [礼記]
  松下政経塾 「素志貫徹」
  安倍 晋三 「初心不可忘」 [花鏡/世阿弥]
若い層は大相撲的な、一所懸命的なところが無難なのであろう。まあ、タレントの卵の常套句にしても、「ワタシなにもできないけど、頑張りま〜す!」であり、どこでも同じようなもの。老人のしがみつくしぶとさとは一寸違い、肉体的に頑張るということなのだろう。
そういえば、異質なのが「友愛」。今思えば、「反米愛露」の前半2文字を削った意味だったのかも。

伊藤博文は四文字ではなく、詩を書いたことが多かったとか。どこまで本当かはわからぬが。そんな一例。

     「與于襄陽書」 韓退之
  七月三日。將仕郎守國子四門博士韓愈、謹奉書尚書閤下。
  士之能揚大名顕当世者、莫不有先達之士、
   負天下之望者、為之前焉。
  士之能垂体光照後世者、亦莫不有後達之士、
   負天下之望者、為之後焉。
  莫爲之前、雖美而不彰。
   莫爲之後、雖盛而不傳。

韓愈は、四門博士という地位を得たものの、官僚としては最下位。どのような手紙か想像がつくが、言いたいことはずっと先で、ココはその前段。博文の書は、ここで終えているところがミソ。次の文章は、「是二人者、未始不相須也。」だからだ。
どんな人達と一緒だったかわかろうというもの。

日本だけ「座右銘」が目立つのは、大陸では、知識人絶滅を狙った文革の毛沢東語録を思い出してしまうからか。昔はそうでなかった筈である。

     「座右銘」 子玉「昭明文選」第五十六巻銘]
  無道人之短、無説己之長。
  施人慎勿念、受施慎勿忘。
  世譽不足慕、唯仁為紀綱。
  隱心而後動、謗議庸何傷。
  無使名過實、守愚聖所臧。
  在涅貴不、曖曖内含光。
  柔弱生之徒、老氏誡剛彊。
  行行鄙夫志、悠悠故難量。
  愼言節飲食、知足勝不祥。
  行之苟有恆、久久自芬芳。


白楽天は大いに気に入ったようだし。

     「續座右銘序」  白居易
  崔子玉座右銘、余窃慕之。
  雖未能尽行、常書屋壁。
  然其間似有未尽者、因續為座右銘云。

     「續座右銘」  白居易
  勿慕富與貴、勿憂貧與賤;
  自問道何如、貴賤安足云?
  聞毀勿戚戚、聞譽勿欣欣;
  自顧行何如、毀譽安足論?
  無以意傲物、以遠辱於人。
  無以色求事、以自重其身。
  遊與邪分岐、居與正為鄰;
  於中有取捨、此外無疏親。
  修外以及内、敬養和與真;
  養内不遺外、動率義與仁。
  千里始足下、高山起微塵;
  吾道亦如此、行之貴日新。
  不敢規他人、聊自書諸紳;
  終身且自勗、身沒貽後昆。
  後昆苟反是、非我之子孫。


そうなると、白居易のどの言葉が座右銘としてよく取り上げられるのか気になる。当てにはならないが、風評的には以下か。

     「放言五首 其三」  白居易
  贈君一法決狐疑、不用鑽龜與祝蓍。
  
試玉要燒三日滿、辨材須待七年期。
  周公恐懼流言日、王莽謙恭未時。
  向使當初身便死、一生真偽複誰知?


花好きな日本では、五首ではこちらの方に人気があるようだ。確かに、木槿の花とはそういうもので、日本的感覚からすれば愛でるものではない。

     「放言五首 其五」  白居易
  泰山不要欺毫末、顔子无心遭V彭。
  松樹千年終是朽、
槿花一日自爲榮。
  何須戀世常憂死、亦莫嫌身漫厭生。
  生去死来都是幻、幻人哀樂系何情。


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