■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[15釋蟲]■■■
「爾雅」は見かけ漢字の註解書であるにもかかわらず、全体構造の論理的構築がなされていないことが一大特徴。考え方の違う編纂者の成果物を合本化しているだけかも。
つまり、全体統括的リーダーシップは発揮されず、巻毎のプロジェクトチームが纏めた書の寄集め。

その進め方の特徴を端的に表しているのが巻九釋蟲。

"蟲"とは「說文解字」でわかる通り(虫䖵蟲の峻別に考慮が払われている。)、毛羽鱗裸(ヒト)といった<分類>ができる動物の総称であるが、「爾雅」には分類観も無ければ総称が示す概念を考慮している訳でもなく、単に通俗的(選良中の選良のコミュニティ)な用語(文字ではない。)をママ記載。現代の通俗的(高度な学びを欠く一般大衆)なハウツー本の編纂方針と同じで、グループ分けや網羅性には関心が無く、とりあえず読者の気になりそうな語彙を並べただけ。
(普通の分類観とは、先ずは、目で見た第一印象から始まる。大きさ、全体あるいは頭の色、形状と表面質感。その上で、棲息環境・動き方(肢や翼)や存在誇示方法・食性・等の特徴が付随し、ヒトの生活との係りでのポイントが特記的に続く。これをどう階層構造にするかが腕の見せ所。
それを踏まえて、初めて呼名を云々できる訳だが、名称の付け方は、信仰、比喩、オノマトペ等々千差万別であるから、A=Bと書いたところで、ほとんど知る人ぞ知る的な備忘録にしかならない。このため、記載にあたっては、分類的なグループの示唆が重要となるが「爾雅」はこれを回避。)


例えば、冒頭は<螜 螻  蜚 蠦 蜰>と並ぶが、「說文解字」的発想で眺めることで、おそらく<螻蛄>関連であろうと推測するしか手はなかろう。それに沿って、用例を引いて解釈するしかなく、逆ではない。
厄介なのは、次の文字として、<螻蛄>的なグループを続けようとはしない編纂方針である点。
<螾𧊔 入耳>は、おそらく、耳が入るので自明な説明とされているのだろうが、どうしてそうなるかを考えずに取り上げているから、後世の人々には不可思議な比喩と受け取られることになる。
さらに<蜩 蜋 蜩>と来るが、蝉のことかなと思うものの、それ以上ではない。
・・・この3行のバラバラ感は半端ない。と言うか、漢語とは官僚統制の丸暗記強制言語だから、この書き方こそが正統。選抜された官僚が場当たり的にバラバラに記載する訳はなく、天子の意向に沿った形で並べているに過ぎない。
ユニバーサルな分類観を隠そうともしない、「說文解字」は画期的と考えるべきだろう。(文字の発明は天子ではなく、官僚であるとの指摘は鋭い。中華帝国の常識的記載なら、官僚ではなく当該王朝の帝とみなされるが、敢えてそれを避けたのである。)

お蔭で、「說文解字」の考え方を取り入れれば、釋蟲の読解もなんとか可能ということになろう。
"虫"を構造部品に用いていない文字は一見無理そうに思ってしまうが、それなりに見えてくる。・・・
諸慮 奚相 …癭蚊@山藤虫瘤
傅 負版 ⇒蝜蝂
<次蟗 鼅鼄 䵹鼄 鼄蝥 土䵹鼄 草䵹鼄> …≪黽≫部
果臝 蒲盧 ⇒蜾蠃 …細腰蜂
熒火 卽炤 ⇒螢
密肌 繼英 ⇒𧓓英 …蓑衣蟲

≪釋蟲 第十五≫
螜 天螻
蜚 蠦蜰
螾𧊔 入耳
蜩 蜋蜩 螗蜩 蚻 蜻蜻 蠽 茅蜩 蝒 馬蜩 蜺 寒蜩 蜓蚞 螇螰
蛣蜣 蜣蜋
蠍 蛣𧌑
蠰 齧桑
諸慮 奚相
蜉蝣 渠略
蛂 蟥蛢
蠸輿父 守瓜
蝚 蛖螻
不蜩 王蚥
蛄䗐 強䖹
不過 蟷蠰 其子 蜱蛸
蒺蔾 蝍蛆
蝝 蝮蜪
蟋蟀 蛬
蟼 蟆
螁 馬䗃
蛗螽 蠜 草螽 負蠜 蜇螽 蜙蝑 蟿螽 螇蚸 土螽 蠰谿
螼蚓 蜸蚕
莫貈 蟷蜋 蛑
虰蛵 負勞
蜭 毛蠹
蟔 蛄蟴
蟠 鼠負
蟫 白魚
䖸 羅
螒 天鷄
傅 負版
強 蚚
蛶 螪何
螝 蛹
蜆 縊女
蚍蜉 大螘 小者螘 蠪 打螘 螱 飛螘 其子蚳
次蟗 鼅鼄 䵹鼄 鼄蝥 土䵹鼄 草䵹鼄
土蜂 木蜂
蟦 蠐螬
蝤蠐 蝎
蛜威 委黍
蠨蛸 長踦
蛭蝚 至掌
國貉 蟲蠁
蠖 蚇蠖
果臝 蒲盧
螟蛉 桑蟲
蝎 桑蠹
熒火 卽炤
密肌 繼英
蚅 烏蠋
蠓 蠛蠓
王蛈蟓
蝝 桑繭 雔由 樗繭 棘繭 欒繭 蚢 蕭繭
翥 醜鏬 螽 醜奮 強 醜捋 蜂 醜螸 蠅 醜扇
食苗心 螟 食葉 蟘 食節 賊 食根 蟊
  ━━有足謂之蟲 無足謂之豸
  

     

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