■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[16baa釋魚]■■■
「爾雅」釋魚は分類観を欠いている様に映る。
とは言え、≪魚≫部所属文字に、現在、ほとんど絶滅状態の淡水棲イルカ"鱀 是鱁"[白鱀豚/揚子江河鯆]が収録されており、それなりに特徴的な種は取り上げようとしているのは間違いなさそう。(もっとも、同じ歯鯨類に属す洞庭湖棲息スナメリ[窄脊江豚/長江砂滑]は記載されていないが。)

しかしながら、現代常識では、鯨族であるイルカやスナメリは基本海水棲であり、珍しい種ではない。淡水棲が例外的存在な訳で、河海豚しか採り上げないと、字書としては奇異な印象を与えてしまうことになろう。しかし、あえてその方針を貫いているとも言えそう。

「爾雅」で提示している<海>文字のイメージは②で、「說文解字」の①と言うことかも知れない。・・・

<海/海/𣳠/𣴴>
①陸⇔海 sea (大洋 ocean)
        祖天地之左海也 [「禮記」鄉飲酒義]
   海(咸)水  seawater…海鹽
   池/湖 lake
②海≒晦 mare…大暗區
   中國⇔四海 border…荒遠之地
③⇒ 天海(十星) 東海郡/海州 etc.

海の生物には関心が薄いだけでなく、"海"文字自体、ほとんど使われていないと言ってよいだろう。
「爾雅」
@釋地齊有海隅━━十藪 九夷 八狄 七戎 六蠻 謂之四海
@釋水江 河 淮 濟爲四瀆 四瀆者…【發源注海者】
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@釋草海藻  組 似組 東海有之
@釋鳥秩秩 海雉

一方、「說文解字」は対照的で、"海"文字だらけ。
ヒトは海には棲めないものの、そこはすべての"水"の行き付く先であり、それは"天"の水溜まりでもあろうとの宇宙観が根底にありそう。(小篆の字体から推定した訳ではないだろう。)
ただ、海棲生物の概念としては、ヒトに擬えて、陸から海に出て行った種ということにしているようで、名称は"海〜"とならざるを得まいと考えていたようだ。
「說文解字」
天池 以納百川者
@≪水≫ 注海 入海 于海 〜海 @≪邑≫≪山≫≪石≫ 東海 郣海
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@≪虫≫
 螊:海蟲
 蜃:雉入海 化爲蜃
 𧊧:蜃屬 有三 皆生於海
 。:蚌屬 似螊 微大 出海中
@≪黽≫
 鼇:海大鼈
@≪魚≫
  "海魚"
○≪貝≫:海介蟲
@≪隹≫
 雉:有十四種  秩秩海雉
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@≪木≫:海中大船
@≪目≫:望 聲海岱之闊珮セ曰睎
@≪玉≫:珊瑚 色赤 生於海 或生於山
@≪山≫:海中往往有山可依止 曰㠀
@≪鹽≫:海鹽

中華帝国とは大陸国家であるから、官僚にとって海への関心が薄くて当然と言えよう。
従って、漢字愛好者が暗記したがる"海〜"文字は余り使われていなかった可能性が高い。海に面する現地では、独自仕様の文字か、発音的当て字が使われている筈だし。
ただ、帝国領域拡大に応じて、天子が貢ぎ物を食す祭祀の重要性が高まるため、"海〜"という珍味素材名称はジャーゴン的に広まっただろう。しかし、未公認のご当地文字を避けただけの話でもあり、文字規定にたいした意味はなかろう。
【"海〜"例】
海草 海苔 海布 海蘿 海髪 海松 海蘊
海豚 海牛 海馬 海鼠 海狗 海狸 海驢 海獺 海象 海豹 海豚 海兔
海胆 海老 海月 海星 海鞘 海扇 海鰻 海参 海綿 海蛆

  

     

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