■■■ 「說文解字」「爾雅」検討[16haa釋魚]■■■
今は余り見かけなくなったが、鮨屋では、魚河岸的風情を高めるため、上がりの湯飲み茶碗は全面魚文字だった。さらに、外人客用として、サンプル写真に英語と魚文字が副えたポスターが張られていたこともある。お店によれば、どちらも好評だったらしい。
このセンスを「說文解字」「爾雅」読みに生かせるかだが、鱈といった情緒感溢れる国字を楽しむことに目を向け過ぎるのは逆効果と考えがち。
しかし、こうしてみてくると、そうとも言えないと思う様になった。

その辺りをご説明するため、"鰯"を採り上げておこう。

この文字創成だが、極めて古いことが木簡出土で判明している。コレ、魚に比較的興味がある素人には大いなる驚き。
イワシが日本固有種であって、大陸のイワシ似の魚とは異なることを正確に認識していたことを意味するからだ。

・・・そう思って、 眺めるとすぐに気付く箇所あり。
[飲而不食 刀魚 九江有之] <鮤 鱴刀>
  ⇒鰶 鯯

ソリャそうだ。
日本列島で大陸と似た地域は1つしかない。日本の河川とは、大陸では滝の如きと言わざるを得ず、そうでないのは筑後川-有明海のみ。そこでの地域固有種こそが、中国イワシ。(常識的には、その手の固有種は大陸から日本列島が分離した際の湾内棲[汽水域産卵]種の残存と考えることになる。)逆に、鰯は日本列島固有種ということ。
中国イワシは、体色錫色で刀魚と呼ばれていたに違いないが、小刀にもかかわらず、江戸期から魛は太刀魚にされてしまうことに。本草の"実証的"見解の素晴らしさが喧伝されている以上、この先も、この見方が変ることはなかろう。

そんなこともあるのか、民俗学でもエツは軽視されていそう。・・・九州地区に大陸から入植するなら、故郷に似る有明海が選ばれた筈とは考えていないことがよくわかる。大陸では、エツは祭祀のご馳走になる魚というに。(勿論、倭でひととき繁栄したろうが、一過性で終わること必定。大陸河川の洪水とは訳が違うからだ。)

そのご馳走という点では、真鰯系の方が正統かも。
文字としては、鰣であるから。日本列島は、小湾だらけなので、ボラに当たることになろうが。ともあれ、大陸の海の様な河川だと、とんでもなく膨大な数のイワシ系の群れが突如押し寄せる訳で、とても比較にならない。(もっとも、現時点では、ボラなど一匹でも滅多に出会えないし、大陸でもイワシ系の大型群など消えてしまったから、そんな環境を想定できる人は稀だろう。)

当然ながら、この手の魚の語彙を文字書が省く道理が無い。・・・
  鯦[當互] <鯦 當魱>

現代分類だとこうなる。
┌───鱭/鮆/魛/刃形魚エツ@有明海
│     鯷*ヒシコ[比之古]/カタクチイワシ[片口鰯]/
│      キビナゴ[黍女子]slender sprat
└┤ ┌鰮/脂眼鯡セグロイワシ[背K鰯]/ゴマメ[五万米]
 │ │【anchovy(沙丁)】ウルメイワシ[潤目鰯]
 │┌┤  圓腹鯡ギンイワシ[銀鰯]rainbow sardine
 ││└寶刀魚オキイワシwolf-herring
 └┤
  │┌鰳/曹白魚ヒラ[平]elongate ilisha
  └┤
   └鯡ニシン[鰊/鯟]Pacific herring
      (斑點莎瑙魚)@日本マイワシ[真鰯]/[両口]【anchovy(沙丁)】
      鰣/鯦/當魱/河洛魚/三鯠n.a.Chinese shad
      窩斑鰶/海鯽仔コノシロ[鰶/鮗/鯯/鱅]dotted gizzard shad
      青鱗仔/青瀾サッパ[鯯]/ママカリ[飯借]Japanese shad

 大陸"マエツ" 朝鮮半島 有明海の3種と見たい向きもあろう。ハゼが日本海側と太平洋側で表皮模様が異なることがわかったのが平成期だが、こちらは種が異なるとはされないが、五島列島-有明辺りが分岐域となる。尚、片口鰯とは尾が二又か尖頭状かで異なっている。
* 鯷は日本では魚文字として使わない。おそらく、ナマズ冠トーテム族を意味する文字だから。(「今昔物語集」琵琶湖侵攻譚)
 "沖鰯"は通常の海産物名称としては似ても似つかぬニギス[似鱚](料理店用語:白鱚)を指す。イワシ系のwolf顔であっても、決して特殊な魚ではなく、広く食用にされている。ただ、日本列島では極めて珍しいから、隠岐産の種という意味かも。

  

     

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