■■■ 小篆文字検討@「說文解字」「爾雅」[秋蝗]■■■
トーテム時代にクローズな場でのみ使われていた呪術祭祀用文字と、オープンな規格化を指向する国家公定文書用文字の連続性を、アプリオリに、当然視するのは止めた方がよいのでは。"いなご"文字を通じて、その辺りにふれておこう。・・・

"蝗"は甲骨文字では使われていなかったことは間違いなさそう。この昆虫の表記文字がなかったとは考えにくいから、秦あるいは競合国で何らかの目的があって創成されたと見るしかないと言うことになろう。
:螽   螽斯(子孫繁栄の蟲)@「詩經」國風 周南
  /𧕠/𧑸/𧑄いなご
  ≒蝝:復陶(蝮蜪)…幼蟲(蝻)
    劉歆說:蝝 蚍蜉子  董仲舒說:蝗子

これだけだと、まるで、稲子には名前が付けられていなかったことになりかねないのでは。
そんなことがあり得るとは思えまい。

しかしながら、素人感覚だと、対応する甲骨文字は甲骨の編纂書を眺めればすぐに見つかる。・・・
"秋"の甲骨はいなごの象形ではあるまいか、甲骨と小篆の字体連続性は無いと判断するしかないが、それはできない相談。存在する異体字を起用して、連続していると見なすことになる。そこに無理矢理感は無いものの、根底となっているコンセプトが同じとは限らないのでご注意あれ。
≪禾≫秋🅱㊎[殷]🆂:禾穀孰/秌/𤇫
   /[甲骨対応]𬟏
    艸冠が触角の翅昆虫的躯体線画文字。@孫海波[編]:「甲骨文編」
      (飛蝗や蟋蟀的生殖器があると説く昆虫学者も。)
   /龝/𪚼/穐
   /𥤛/[籒文体対応]𪛁
   /[隷書体対応]𪔁/𥤠

異体字のイの一番は"𬟏"で龜の頭頂部を艸冠化にしている。龜形バッタなどいないからナンだかねの世界に映るが、該当甲骨文字はバッタの簡素な象形線文字。
龜の意味はこれではわからぬが、他の異体字では、<龜+火>が用いられており、<禾>の豊凶卜占(その後蝗害祈祷へ転換)という見方ができよう。蝗害の凄まじさを踏まえて考えると、この文字設計には納得させられるものがある。

しかし、小篆創成官僚の方針は脱呪術的卜占。甲骨字体との関連性は無いとみた方がよいのでは。但し、秋の<火入れ>とはバッタ対策でもある。(虫害はイナゴ種だけではないし、日本列島のイナゴと大陸の大規模虫害のバッタは種が異なる可能性もあろう。)

こうして眺めると、"𬟏"の甲骨はturtle系と言うよりはyoung dragon with hornsとの字義で生まれた字体と見た方が本質を捉えていそう。つまり、この文字は一匹の昆虫としての<種>を意味している訳ではなく、地から生まれた数百万匹の衆としての<巨大竜蛇>を指すと解釈する訳だ。この竜が登場すると数百万人規模の餓死を招くことになる。除竜祭祀は国家の最重要事業ということになろう。

要するに、秋の元義を示す一番適切な文字は合字の𥤠。一方、小篆創成官僚が設定した原義は<禾穀孰>。これは、"𬟏"と見なされる甲骨文字が源流と言えなくもないが、無関係と見る方がよいと思う。

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