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2008.1.7
 
 


パニック防止を考える時代…

 正月休みということで、2007年に出版された様々な本の推奨記事が目に付くが、宣伝臭がするものや、売れた本の解説に過ぎないものが多すぎる。
 素人の手に余る難しい本を薦められてもこまるが、読みごたえある本を、まともに紹介して欲しいものだ。

 こんな時期に、なにが読みたいかといえば、まずは経済論議の本だろう。今後どうなるか大いに気になるからである。

 なにせ、通貨ジャブジャブ政策は日本銀行だけの十八番かと思っていたら、他の中央銀行も真似をし始め、今や、円、ドル、ユーロ、ポンドすべてがジャブジャブ状態なのだ。
 とりあえず信用収縮だけは防ごうということなのだろう。
 確かに、これで株価暴落は防げたようだ。だが、3ヶ月物LIBORのスプレッドは広がったままだから、どこまで奏功しているのかはよくわからぬ。
 実態が好転している訳ではないから、いつ暴落が発生しても驚きではなかろう。

 しかし、2007年第3四半期の米国の成長率は好調。クリスマス商戦も活発そのものだった。米国の個人消費は堅調ということ。これなら、アラブマネーが金融業界に還流さえすれば、なんとかなりそうとの見方も成り立つのかも知れないという気にもなろう。
 もともと、北東アジアの国々が、米国の巨大赤字を補填し続けることで、無理矢理にドル暴落を抑える仕組みを作ってしまった。それが、世界の繁栄を実現しているのだ。
 不合理な仕組みであろうが、そこそこなんとかなるというのが、今までの現実経済だった。
 なにせ、日本のような財政破綻国が平然と経済活動を営めるのだから。

 ただ、そんなやり方がいつまで持つか。
 世界規模で過剰流動性が続いてしまえば、その先は、世界恐慌かスタグフレーションしか有り得ないと思うが。

 そんな風に見ている、経済の素人にお勧めな本といえば、「1997年――世界を変えた金融危機」(竹森俊平著 朝日新書 [2007.10]) だろう。(1)

 リアリズムに徹し、ものごとの本質を見極め、どんな方針を打ち出すべきか考えようという人にとっては一読の価値がある。
 ただ、読んだからといって、世界の仕組みへの安心感が生まれる訳ではない。
 とりあえず、通貨のジャブジャブ化でパニック化を抑えて、元凶を叩いているという状況が理解できるにすぎないからだ。

 簡単に言えば、解決できるとは限らないということである。
 サブプライム問題を契機に、すでに貸し出しパターンが大きく変わってきており、元のパターンに戻れる保証はないということだ。
 Financial Timesの経済コメンテーターMartin Wolf(2)が指摘するように、問題の根は深い。変化は徐々ではなく、断絶的なものと見た方がよさそうである。従って、パニックを引き起こす可能性は否定できない。
 厄介なのは、米国不況を予想する声が米国内部から聞こえてくること。
 パニックを避け、どう改革を実現するか問われているということだ。

 〜Martin Wolfの指摘(3)
A 金融システムの問題
 (1) Anglo-Saxonモデルは信頼できるのか?
 (2) 証券化が機能するのか?
 (3) 中央銀行は最後の貸し手たりうるか?
 (4) 米国は政府の市場介入批判を取り下げたのか?
B グローバル・マクロ経済の問題
 (5) リスク再評価が必要となった.
 (6) 米国市場に最後の買い手の力はない.
 (7) 米国不況はありうる.
 (8) 赤字補填役を回し合うことになる.

 --- 参照 ---
(1) 書評
  石山新平: “サブプライム問題の発端がここに” 日経BP 毎日1冊!日刊新書レビュー [2007年12月6日]
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20071205/142414/
  池田信夫: “最大の脅威は、リスクではなく不確実性だ” アスキードットPC 2007年12月号
  http://www003.upp.so-net.ne.jp/ikeda/dotpc0710.html
  中沢孝夫: “「不確実性」の概念を軸に金融危機への処方箋を探る” 週刊エコノミスト [2007年12月18日号]
(2) Martin Wolfのコラム[Financial Times] http://www.ft.com/comment/columnists/martinwolf
(3) Martin Wolf: “Why the credit squeeze is a turning point for the world” Financial Times [2007.12.11]
  http://www.ft.com/cms/s/0/90126fca-a810-11dc-9485-0000779fd2ac.html
(日銀の写真) Akira O. “東京発フリー写真素材集” http://www.shihei.com/tokyo_001.html


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