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2008.12.25
 
 


保守本流経済政策の復活…

 12月の日銀短観で、大企業[製造業]の業況判断指数が急落し“-24”。(1)メーカー在庫が積みあがっているし、どこの下請けでも受注残がなくなったと言い始めたから、実態を正直に示した数字と言える。
 この数字の推移からみて、経営者は事態を甘く見ていたことがわかる。

 その結果、いまや悲観論一色。もちろん、日本だけでなく、世界中同じようなもの。

 こうなると、中央銀行はゼロ金利と量的緩和に動くしか手がない。そして、政府は大規模財政出動。
 この政策が奏功すれば、2009年末頃には、経済成長プラスに転換するだろうという読みだろうが、一過性の回復と見る人は少なくない。
 そこで、行き過ぎた悲観論を止めよと言う人もでてきているようだが、すでに、誰も聞く耳持たぬというところ。

 だが、それも当然。
 今までの不況とは質が決定的に違うからである。別に「百年に一度」という意味ではない。経済がグローバル化しているからだ。気候変動、テロ対策、と同様に、一国政府が対応できるレベルを越えているのだ。

 日本など、すでに政策金利は下げられるだけ下げた状況であり、なんのインパクトも与えないことは明らか。再び量的緩和したところで、影響など微々たるもの。(2)
 それに、円高で輸出が急減しており、財政支出をいくら拡大したところで、これを相殺できる量を投入しない限り焼け石に水。

 欧州の先進国にしても、移民を受け入れているとはいえ、成熟社会だから、日本同様に成長余力は僅少。新興国への経済規模拡大で成長路線を歩んできたから、国内経済刺激でなんとかなる問題ではない。
 それに、英国を見ればわかるように、政府と中央銀行にポンド暴落を止める手立てなど無く、市場を見守るしかないのである。
 こんな時に、擬似社会主義化を進めたところで、事態打開の糸口にもならない。社会主義国の経済とは、結局のところ、腐敗した一部の勢力が謳歌できる仕組みでしかないことが実証されてしまったのだから。

 こんな状況で、経済回復の道を歩むことができるのは、世界に通用する紙幣を大増刷できる国だけなのではないか。
 もともと、米国政権はドル安を放置し続けており、ドルの価値が落ち続けているのは厳然たる事実。代替通貨がないから、皆、しかたなくドルから離れられないだけのこと。
 もっとも、ガラガラポン好みの冒険主義的政治勢力が出てくればどうなるかわからぬが。

 ただ、そのドルの優位性を生かして米国経済が復活しできるかは、なんとも言い難い。
 経済政策が効く前提が崩れているかも知れないからだ。例えば、・・・
  ・政治力を発揮できる組織や業界が、甘い汁を吸おうと一斉に動くかも。
  ・金融業界が、正当なリスク評価を行うビジネスから足を洗っているとしたら。
  ・多くの企業が、経理操作で利益を出す体質に陥っていないだろうか。
  ・監督機関が、粉飾を黙認し、恣意的な評価をしたとしたら。

 こんなことがおきないように、“Change”が必要なのだが、新しいタイプの政治指導者が現れたから大丈夫とは言えまい。

 似たような現象は、日本の小渕内閣で経験済みである。ケインズを信奉する大物蔵相と人気評論家の経済企画庁長官を登用し、大胆な政策転換を図ったが、その結果はどうだったか思い出すとよい。大金をバラマクだけで、改革には一切手をつけないのだから、なにも得られないどころの話ではない。
 そんな流れを何時までも続けようというのだから、それを阻止すべく、“Libertarianism”が力を持つようになったのは当然ではないか。たとえどんな副作用がでようと、その手しかなかろう。

 そして、今、麻生政権は、小渕内閣流のケインズ政策に戻すつもりのようである。
 既得権益維持のため、なにがなんでも旧来の慣習を守り続けようという、保守本流経済政策が復活した訳である。

 --- 参照 ---
(1) 「第139回 全国企業短期経済観測調査」 日本銀行調査統計局 [2008.12.15]
  http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/tk/yoshi/tk0812.htm
(2) David Pilling(Asia edition editor): “Outside Edge: Dick-man and the Bank of Flames” Financial Times [2008.12.21]


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