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海胆の話  2017年8月25日

ぶんぶくちゃがま の話


 文福の
 茶釜に化けし
 海のキモ


   北斎 狸と狐の図。

海胆の仲間には、放射ではなく左右対称型もある。

棘がとれてしまったものだと、これも海胆の殻なのか、という程度のインパクトしかないが、面白名称ということでよく紹介されている種である。
針がついた状態で、標本展示されたりする。水族館だと、生きていないと見ない人もいるが、"ホウ、コレか。"と言う声が聞こえたりするから、関心が無い訳だが、チラリと見て通りすぎるだけ。"フ〜ン、確かに茶色で毛のようにびっしりあって寝ているナ。"以上ではないのである。菓子パン[→]と違って美しさに欠けるから、誰も、じっくり眺めたりしないのである。
  分福茶釜/凹裂星海膽
分福茶釜のストーリーの核は、えらくお世話になってきた古道具屋の親爺に、茶釜に化けた狸が綱渡り演芸で儲けさせ、福を分け与えるところ。確かに、この海胆の形状は、狸と言うか、日本穴熊が丸くなっている姿のように見えないでもない。だが、そうだとしても、茶飲み話で生まれそうなアイデアの類でしかなかろう。酒席の綽名付けお遊びで満票とった名称と拝察するが、如何なものか。(俗書では菓子パン命名者の"熊さん"作と書いてあることが多いが、誤りらしい。)
学者が、そんな不埒なことをする訳が無いと仮定すれば、"はてさてどうするか?"と、一人で殻をじっと見続けていたら、採集作業の疲れがドッとでてきて、殻が動き出した感に襲われたと考えたらよいかも。

まともに素人が描写するなら、こんな感じか。・・・
殻がいびつに膨らんでいて、表面は体毛のように密に生えた長目の湾曲棘で覆われている。体には、はっきりとした前後の方向性が見られるが、口は下面前方にあり、肛門は後端。

西洋的センスでは心臓型海胆類/heart urchinsということになるが、"心臓に毛が生えている"は気分悪しということで、この手の表現は嫌ったのだろうか。日本の土壌を考えれば、単に、"大御所の言う通りに計らえ"の可能性が高いが。

ともあれ、類縁種の名前は分福を踏襲するとの掟が生まれたようだ。
大きいものになると、10cmを越えるようだ。棘が落ちきった殻だけだと、そこに"大"の文字が現れる。ただ、上に突き抜けている部分は余り目立たない。さすれば、これだけは、分福よりは、文福とした方がよさそうだ。浅海棲である。
  大文福/Broad oval shaped heart urchin
  南大文福/Keeled heart urchin
大文福をはるかに越えるよう巨大種は特別扱い。尊敬すべき師のご意向を忖度した命名だろうか。
  ウルトラ分福/牟氏脆心形海膽
平たくなってしまった種もある。円盤というほど平たくはないが、たとえそうであっても、菓子パン系には所属しない手の種である。その辺りの考え方は別途とりあげよう。
  扁文福/長拉文海膽/Elongated heart Urchin
ダイバーはこのヒラタブンブクによく出会うようで、そのお話によれば、砂のなかから急遽登場してきて、海胆とは思えぬ素早さで、棘を使って砂底をせっせと移動するそうだ。その仕草を見た人は、狸に化かされた気分を味わえるのかも。

分福茶釜のネーミングが大当りしたので、その嗜好でいこうとなったようで、ブンブクと紛らわしい名称が登場。棘が毛玉状に見えるなら、動物名でよいだろうということか。・・・
  狸分福/呂宋沐海壺
  ヨーロッパ狸分福/Heart urchin
狸とくれば、後は流れでいくらでも。どこまで本当かは調べていないが、検索すると、子狸、穴熊、山嵐、子猿、ライオン、ライオネス、…と。マ、なんでもよかったのだろうが、秋田1号といった品種的なものや、存知あげないお方の姓よりは、しっくりくる。そんな代表としてはこの2つが妥当なところ。
  狐分福
  鼠分福/海
と言っても、身体を丸めた毛玉状態というのでは、鼠色の毛ならわかるが、狸毛 v.s. 狐毛ではそれほどの違いではないから、区別になるまい。そうなると、棘がとれた状態をお面に見立てて名付けたと考えるのが自然である。お狐様の面ということになる訳だ。はたして似ているか否かだが、小生はなんとも言い難い。はなはだ主観的な問題だからだ。
ただ、本格的なお面というなら、こちら。
  阿亀分福/Sea potato or Heart urchin
これで、ヒョットコでもあれば拍手喝采モノだが、流石にそこまでは無理だろう。
凡人感覚すれば、お面より、脱色処理後の男爵芋の方に一票を投じたい。すべすべお肌の女王芋ではないということで。
ともあれ、海人の国である日本で通用させる名称だから、お面で考えようというのは、なかなかの鋭さ。浜に矢鱈に打ち上げられる分福殻は誰でもが知っているからだ。昔は、海藻集めに砂浜を散歩すれば、ついでに気にいった貝殻拾いならぬ、分福拾いが愉しめたのである。今ではとても考えられぬが。
拾えば、福を分けてもらえるゾ、ということで、なかなかお洒落ではないか。

名称は、さらにゴタゴタする。フェイクが存在しているのだ。
  分福擬/Pyramid sea urchin
厄介な話だが、白亜紀辺りの化石形も分離しておく必要があるのでもう一つ名称が必要になる。
  偽分福

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