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魚の話  2017年11月10日

どろめ の話

🎣  どや顔の ダボハゼ釣りも また楽し
 道具無しに、誰にでも釣れる魚が居た時代は遠かりし、

ダボハゼとは、本来的には、ドロメのことである。
  泥目

辞書では、必ずしもそうは書いてはいない。ドロメが抜けていたりすることもあるが、普通は、他のハゼも含めて、何種かを並べて書いてある。実際、世の中では、そのように使うから間違いではない。

このダボハゼという用語だが、ビジネス場面でよく使われている割に、"ダボ"の由来ははっきりしていない。・・・
木工用語のダボは穴塞ぎの細い円柱材/Dowel rodを意味するが、これは独語の"Dübel"から来たもので、どう考えても無関係。
一方、ダボシャツは"だぶだぶ"と似た意味の"だぼだぼ"から来ていると思われる。これも、ハゼの名称に使われる理由が思いつかない。
そうなると、一番確からしいのは、"アホ"代替語説。兵庫県南部特有の方言である"ダボ"[松本修:全国アホバカ分布考―はるかなる言葉の旅路」太田出版1993年/新潮文庫1996年]が発祥と考える訳だ。(鳥取のダラと大阪〜京都のボケを重ねたダラボケの省略語と考えるとよさそう。)
そこの漁民が江戸に出て来たとも思えないから、藩屋敷関係者が江戸湾ハゼ釣りに凝っていて、その言葉を多用したので定着したということになる。・・・という見方が提起されているかは、実は調べていない。

ダボの本来の意味がどうあれ、ダボハゼとは、ハゼ釣り用語である。
  真鯊→[2008.4.11]
要するに、外道。

従って、釣り場によって種類も違うから、いくつか並べ、このような魚種を指すと説明することになる。これを、辞書的な文章に直したのが、"誰にでも簡単に釣れるような価値のない雑魚"[「大辞林」第2版]
この書き方は誤解を呼ぶ。もともと、ハゼ釣りとは、まともな釣道具など用意する必要などなく、それこそ餌無しで針を下げても喰いつかれたという話があるほど、初心者が釣果で愉しめる遊び。つまり、狙っている真鯊自体が貪欲体質であり、"簡単に釣れる"のは外道ならではと言う訳ではない。

しかしながら、ダボハゼという名前が生まれた当初の、江戸期に於ける真鯊釣りの外道は泥目以外には考えられぬ。元禄の頃など、船を出すほど、ハゼ釣りは大流行していたのだから。こんな具合。・・・
江河處處采之。
江河之  芝江-浅草川-中河-小松川等 最多。夏秋間 漁網之。
此魚性沉近干泥砂。
故 釣者 鉤上之綸二三寸 着鉛錘丁筒。
其錘 如弾丸 或 如小鐘。 重者不適四五銭。
 :
江都士民好事游嬉者。
棹扁舟擁蓑笠 載茗酒 而 横竿垂綸 競 而 相釣是。
江上閑凉 忘世之樂。

→「本朝食鑑」卷之八 鱗介ノ部 江海有鱗類三十五種 波世魚 元禄10年/1697年

ドロメは、現代ではタイドプールにいたりするが、江戸湾のハゼ場には必ずいた筈。
真鯊が沢山いる場所以外にわざわざ行く必要もないから、(痩せた真鯊を獲りたいと思う人はいまい。)外道と言えば泥目だったのは間違いないのである。現代の釣りは、整備がそれなりに進んだ河口の汽水域で行われることが多く、そこは必ずしも真鯊や泥目が多い場所ではない。そんな場所でよく釣れるのは、小さくて茶色系統の魚。もちろん、誰も食用にしよううとは思わない手のもの。純粋なフィッシングでの遊びになってしまったのである。
このような小さなハゼも江戸期に釣れていただろうが、誰もダボとは呼ばなかったであろう。食用にならないからである。その場で、即、捨てられただけ。
  知々武
  沼知々武…淡水域に多い。
もっとも、結構な釣果と大喜びの時もないではない。場所変えして、別な魚の餌として使おうとの目論見。大きさ的に、真鯊や泥目より好都合だったりするからだ。

魚長だが、真鯊は15cmくらいにはなる。水族館でえらく可愛がられ、確か26cmにもなった特大が育ったりしたこともあり、食材としてはまさに狙い目。泥目は、そこまではいかないが、十分に匹敵するの大きさに成長する。ところが、味的には今一歩。だからこそ、釣れたりすると"アリャ〜、ダボ野郎か。"となったのである。

ドロメはどうもそのような扱いを受けやすいようで、分類においても、代表とは見なされていない。外見は極めてよく似ており、小振りというだけの種がその地位を獲得している。
  顎鯊
もっぱらタイドプールでお目にかかる種との説明を見かけるが、それはドロメの幼魚の可能性もあろう。素人には、両者の違いなど、ほとんどわからないと言ってよかろう。もっとも、今日日、タイドプールには滅多に魚もいないという話もあり、我々が眺めることができるのは図鑑の世界でしかなくなりつつあるから、致し方ないが。

そうそう、大きさという点で、外道として忘れてはならない魚種があった。
  虚鯊[ウロハゼ]

ドロメより大きいこともママある魚だが、こちらはダボハゼとされていないかも。釣れる時刻がもっぱら夕刻の遅い時間帯だからだ。ハゼ釣りに、という風物詩の情景には不適なのである。
環境から考えると、それなりに美味しい可能性があるが、いかんせん夕方から夜にかけての釣りとなると、敬遠せざるを得ない魚種といえよう。
尚、大きさという点では真鯊の仲間の鯊口がトップかも知れぬが、有明海&八代海産だから、泥臭いだろう。マ、皆、避けるのではないか。

と言うことで、真鯊と、その外道のグループを眺めてみた。鯊本流のなかに位置付けられる一群である。

上記の種は、すべて"真鯊、等が所属するグループ"に入っている。・・・

┌─ツバサハゼ類
├─ドンコ類
├─カワアナゴ類
↑【ハゼの古流無吸盤(左右胸鰭分離型)の淡水棲息系[Sleeper]

┼【ハゼの現行主流
│├捻じ棒類
│├藁素坊、等が所属するグループ
│├鬚鯊、等が所属するグループ
│├真鯊、等が所属するグループ
││   - 汽水域泥鯊 -
││  真鯊類
││  顎鯊・泥目類
││  知々武類
││  虚鯊類
│├跳鯊、等が所属するグループ
│└坊主鯊、等が所属するグループ

↓【擬似ハゼ
├─幼魚体型類[Infantfish]
├─ダーツ体型類[dartfish]
├─蠕虫体型類[wormfish]
├─チンアナゴ的[半身砂穴露出]体質類
└─リグラー[ぼうふら/wriggler]的体質類
(上記の【ハゼの現行主流】は6グループにしているが、捻じ棒類は外れた記載もあるが、わかりにくいので"鬚鯊、等が所属するグループ"に入れることにした。これにかかわらず、研究途上臭紛々だから、固定的に考えない方がよさそう。)
チチブ類には、縦縞の種が所属しており、外見的には違和感ありだ。ただ、珍しい種ではないようで、牡蠣養殖場に矢鱈に群れているようだ。隠れ家として、牡蠣殻を選んだのか、はたまた、産卵場を牡蠣殻に決めうったからかは、調べていないのでわからぬ。牡蠣殻鯊としたらよさげ。
もっとも、そこだけ見ているからそう思えるだけで、汽水〜海水の転石地域棲らしい。しかし、そのうち分化して、牡蠣殻鯊が生まれるかも。どの位のタイムスパンが必要かは知らぬが。
  縞鯊
つまらぬことを言うのは、正確には、これは以下の2種をまとめたものだからだ。
   霜降縞鯊
   赤帯縞鯊
前者は高塩分濃度棲タイプで、後者は低塩分濃度棲タイプということ。[明仁,他:「シマハぜの再検討」魚類学雑誌別冊36,1989年]
見かけはそっくりだが、なんと、海水棲と汽水域棲で分化していたのである。進化フェチな魚と言ってよかろう。

上記を、全体に入れ込むと、こんな感じになる。(素人作成なので、間違いが多いことを前提に眺めて頂きたく。)・・・

[Rhyacichthyidae]・・・古代的様相 ツバサハゼ類
[Odontobutidae] ドンコ類
[Eleotridae] カワアナゴ類

↑無吸盤(左右胸鰭分離型)の淡水棲息系

[Gobiidae]【ハゼの主流】
《Amblyopinae》・・・藁素坊、等が所属
《Gobiinae》・・・鬚鯊、等が所属
《Gobionellinae》・・・真鯊、等が所属
│ - 汽水域泥鯊 -
│  ○Acanthogobius・・・マハゼ類
│   真鯊/黄鰭刺鰕虎魚/Yellowfin goby(flavimanus)→[2006.2.17]
│   南足白鯊(insularis)
│   足白鯊/乳色刺鰕虎魚(lactipes)
│   鯊口/長身鯊/Jevelin goby(hasta)@有明海&八代海
│   (elongatus)
│   -/棕刺鰕虎魚/(luridus)
│  ○Chaenogobius・・・アゴハゼ類
│   顎鯊/Forktongue goby(annularis)
│   泥目/Gluttonous goby(gulosus)
│  ○Tridentiger・・・チチブ類
│   知々武/暗縞鰕虎魚/Dusky tripletooth goby(obscurus)
│   沼知々武/短棘縞鰕虎魚/Japanese trident goby(brevispinis)
│   ナガノゴリ/黄斑縞鰕虎魚/(kuroiwae)
│    (縞鯊)/紋縞鰕虎魚/Striped tripletooth goby(trigonocephalus)
│   霜降縞鯊/雙帶縞鰕虎魚(bifasciatus)
│   赤帯縞鯊(trigonocephalus)
│   鍾馗鯊/髭縞鰕虎魚/(barbatus)
│   白知々武/裸項縞鰕虎/
│  ○Glossogobius・・・ウロハゼ類
│   虚鯊/暗鰭舌鰕虎魚/Flathead goby(olivaceus)
│   顎髭鯊/雙鬚舌鰕虎/(bicirrhosus)
《Oxudercinae》・・・跳鯊、等が所属
《Sicydiinae》・・・坊主鯊、等が所属

↓擬似ハゼ
[Schindleriidae]幼魚体型類
[Ptereleotridae]ダーツ体型類
[Microdesmidae]蠕虫[wormfish]体型類
[Kraemeriidaechinn]チンアナゴ的体質類
[Xenisthmidaeリグラー[wriggler]的体質類
(分類参照) JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC

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