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尾索動物の話  2018年4月18日

さいづちぼや の話

 生き急ぐ 変貌嫌い 泳ぐ玉

海鞘の名前がついているし、その仲間とされているが、似ているのは幼体。成体は他とは違って幼体そのママの姿で漂泳し続けるので、固着する他とは全く異なる。
お玉杓子型といえばそうではあるが、頭-胴-尾という形状ではなく、基幹部の腹から真下に、その3〜4倍はありそうな長さの細い尾が下がっている姿である。口はあるが開けっ放し。

もちろん代表種は自明。
  御玉海鞘

その特徴を素人がRecapしたところで、ほとんど価値が無いから、ご興味ある方は専門家の解説をお読みになる方がよかろう。・・・
"オタマボヤの紹介"
   大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻西田研究室

思うに、一番の特徴は、生殖様式が錯綜していないこと。2つ並べてみるとその違いがわかる。
【海鞘Ascidiacea
 受精卵
 ↓
孵化
 幼生…浮遊幼生期のみ尾索
 ↓
基盤固着底棲化
 単体成体→卵
 ↓
クローン増殖
 連鎖群体化個体
 ↓
 有性個体
 ↓
 卵

【御玉海鞘Larvacea or Appendicularia
 受精卵
 ↓
孵化
 幼生…有索
 ↓
変態・成熟(雌雄異体)
 単体有性成体…終生有索・漂泳
 ↓
♂♀生殖
 卵


但し、"♂♀生殖"と記載した点に注意が必要である。確かに有性生殖なのだが、1個体に精巣と卵巣の両方が具備。
海鞘は、どういう免疫機構が働いているのかはわからぬが、両性具備でも自家受精できないとされている。(確認実験や観察の話は読んだことが無い。1個体飼育では受精しないというだけの話かも。)

しかし、そこらをすっきりさせた種が皆無という訳ではない。
👫 性別が 新たな意義を 創り出す
♂個体と♀個体に別れているそうだ。海鞘の仲間ではおそらく唯一。
  別御玉海鞘

くり返すが、海鞘の仲間は、普通は、極めて短いが尾を持つ幼生の期間持つもの。ただ尾を使って泳いで遠くに行くというほどの行為が見られる訳ではない。すぐに定着してしまい、変態を開始して尾が無くなり、以後移動することはない。(すでに取り上げたように、例外的に無尾の種もいるが。)
ところが、御玉海鞘の仲間は、固着せず、遊泳し続ける訳だ。尾は移動のための重要な器官という訳で、同然ながら筋肉を制御するために神経管が備わっているし、尾を支える軸として"索"も不可欠となる訳だ。固着する海鞘は、その機能が不要なので退化したことになる。極めてわかりやすいボディプラン構想と言えよう。

そう考えるなら、御玉海鞘は幼生ママの成熟タイプではなく、海鞘の祖先体そのものと見た方がすっきりとしている。
素人からすれば、祖魚のボデイプランを彷彿させるからである。

軟体動物や刺胞動物は、脊椎動物とかけ離れた様相を呈しており、固着型の海鞘にしてもその外見だけなら同じように脊椎動物とは異質との印象を与えるが、御玉海鞘の形態なら違和感は和らぐのではなかろうか。
尾索だけに注目しがちだが、全体を眺めると、海鞘は確かに脊椎動物の祖先臭紛々なのである。

・餌濾し獲り器官とはいえ、体内に鰓が存在。
  鰓裂から出水。
・消化器は、胃→腸→肛門が完備。
・循環器は、心臓→血管(血球)の仕組み。
・生殖器は、卵巣と精巣(基本雌雄同体)。
  産卵時精子放出。非自家受精。
・筋膜が発達。
・炭酸カルシウム骨片を造る種も。[紅海鞘]


ついでながら、御玉海鞘の神経系だが、尾の付け根に"節"がある。ここから尾の先端まで神経が繋がっている。
口の周りにも神経が環状に走っており、こちらは口の後背部に当たる箇所にある"節"に繋がる。そこには耳石があり、感覚器官を制御しているのだろう。そして、口耳系と尾筋肉系は繋がっているという。

ともあれ、御玉海鞘の仲間の生活は、特殊な部類である。
なかでも、食餌の技法が跳びぬけて特異。"house"と呼ばれているゼラチン質を作り、駆動力を発揮する尾に付属し、残った全身を覆うことで、餌を捕集するのである。
海鞘類と同じように"house"のフィルターで微細生物を越し取るのだが、体内の鰓ではなく、対外に作成した膜を用いる訳だ。このフィルターは極めて微細で1μ以上はひっかかるという。
と言うことは、貧栄養の外洋表層を漂っている、直径5μ程度の単細胞の円石藻をターゲットにしている可能性が高い。競合は少ないのではなかろうか。

🐈杓子より お玉がピッタリ 猫世界
        才槌だけは 尻には合わぬ

マ、デコッパチ海鞘と命名する訳にもいくまい。
  才槌[サイヅチ]海鞘

御玉海鞘の類縁と目される種の数は多いが、インターネット検索でかかってくる情報は乏しいので、さっぱりわからない。
こちらを眺める位で我慢するしかなさそう。
[Photo-PDF] ゴマオタマボヤ類(1種), テクティルラリア類(テクティルラリア), フリチルラリア類(蟻才槌海鞘, 他5種), カサオタマボヤ類(1種), フォリア類(1種), オイコプレウラ類(1種)・・・Mirna Batistič, et al.:"Changes in Adriatic non-crustacean zooplankton community - influence of hydroclimatic changes" Univ. of Dubrovnik - Inst. of Marine & Coastal Reserach 2016

【尾索動物/Urochordata or Tunicate
┼┼┼御玉海鞘 or 尾虫Larvacea or Appendicularia
┼┼┼┼┼-Fritillariidae
┼┼┼┼┼ {Appendiculariinae}
┼┼┼┼┼┼○Appendicularia・・・ゴマオタマボヤ類
┼┼┼┼┼┼┼胡麻御玉海鞘(sicula)
┼┼┼┼┼┼┼(tregouboffi)
┼┼┼┼┼ {Fritillariinae}
┼┼┼┼┼┼○Tectillaria・・・テクティルラリア類
┼┼┼┼┼┼┼テクティルラリア(fertilis)
┼┼┼┼┼┼┼(taeniogona)
┼┼┼┼┼┼○Fritillaria・・・フリチルラリア類
┼┼┼┼┼┼┼細才槌海鞘(haplostoma)
┼┼┼┼┼┼┼(aberrans)
┼┼┼┼┼┼┼北才槌海鞘(borealis)
┼┼┼┼┼┼┼(charybdae)
┼┼┼┼┼┼┼(formica)
┼┼┼┼┼┼┼蟻才槌海鞘(fraudax)
┼┼┼┼┼┼┼(gracilis)
┼┼┼┼┼┼┼本才槌海鞘(haplostoma)
┼┼┼┼┼┼┼(megachile)
┼┼┼┼┼┼┼(messanensis)
┼┼┼┼┼┼┼才槌海鞘(pellucida)
┼┼┼┼┼┼┼嚢才槌海鞘(tenella)
┼┼┼┼┼┼┼太角才槌海鞘(venusta)
┼┼┼┼┼-Kowalevskiidae
┼┼┼┼┼┼○Kowalevskia・・・カサオタマボヤ類
┼┼┼┼┼┼┼ノロ御玉海鞘(tenuis)
┼┼┼┼┼┼┼(oceanica)
┼┼┼┼┼-Oikopleuridae
┼┼┼┼┼┼○Bathochordaeus・・・オビロオタマボヤ類
┼┼┼┼┼┼┼(charon)
┼┼┼┼┼┼┼(stigins)
┼┼┼┼┼┼○Mesochordaeus
┼┼┼┼┼┼○Althoffia
┼┼┼┼┼┼┼(tumida)
┼┼┼┼┼┼○Mesoikopleura
┼┼┼┼┼┼○Pelagopleura・・・ペラゴプレウラ類
┼┼┼┼┼┼┼薄腹御玉海鞘verticalis)
┼┼┼┼┼┼○Sinisteroffia・・・シニステロフィア類
┼┼┼┼┼┼┼(scrippsi)
┼┼┼┼┼┼○Chunopleura
┼┼┼┼┼┼○Folia・・・フォリア類
┼┼┼┼┼┼┼(gracilis)
┼┼┼┼┼┼┼(tuberculata)
┼┼┼┼┼┼○Megalocercus・・・メガロセルクス類
┼┼┼┼┼┼┼大御玉海鞘(huxleyi)
┼┼┼┼┼┼┼(abyss)
┼┼┼┼┼┼○Oikopleura・・・オイコプレウラ類
┼┼┼┼┼┼┼別御玉海鞘(dioica)
┼┼┼┼┼┼┼尾長御玉海鞘(longicauda)
┼┼┼┼┼┼┼尖御玉海鞘(fusiformis)
┼┼┼┼┼┼┼丸御玉海鞘(rufescens)
┼┼┼┼┼┼┼沖御玉海鞘(albicans)
┼┼┼┼┼┼┼硬御玉海鞘(cophocerca)
┼┼┼┼┼┼┼北御玉海鞘(labradoriensis)
┼┼┼┼┼┼┼(villafrancae)
┼┼┼┼┼┼┼(cornutogastra)
┼┼┼┼┼┼┼(gracilis)
┼┼┼┼┼┼┼(intermedia)
┼┼┼┼┼┼┼(parva)
┼┼┼┼┼┼○Stegosoma・・・ステゴゾーマ類
┼┼┼┼┼┼┼細御玉海鞘(magnum)

(分類参照) ママでなく、素人が改編
JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC


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