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2004.1.16
 
 


おいしい牛乳の意義…

 「おいしい牛乳」(2002年4月全国発売)がヒットをとばしてから、商品改良競争が発生し、市乳の味が相当改善されたという声を聞くことが多い。
 市乳メーカーが、酪農家サイドでなく、消費者サイドの要求に応える姿勢に変わるきっかけをつくった、という点で、画期的な商品と言えるかもしれない。
  (http://www.meinyu.co.jp/product/milk/oishii/)

 日本の牛乳が美味しくないのは、原乳そのものが美味しくないからである。元が美味しくないものを、どれだけメーカーが頑張ったところで、それほど大きな差はでない。
 しかし、小さな差しかないにもかかわらず、メーカーは挑戦した。というより、不味くなりそうな要因(空気酸化)を抑制した、と言った方が正確だろう。
 [風味を悪くする主な原因は、細菌由来の異常風味、含有酵素による脂肪分解臭、空気酸化臭、加熱で発生するこげ臭さ、であることは良く知られている。]

 ともあれ、発売後の反応は凄まじかった。
 消費者は「おいしい牛乳」に絶大なエールを送ったのである。

 これで、美味しいものが売れることがはっきりした、と語るジャーナリストが多いが、他の飲料では官能検査をベースとした製品開発は日常業務である。極く当たり前のことが、牛乳だけはできなかったのである。
 美味しくない原乳でも、メーカーに引き取らせる仕組みができあがっていたからだ。というより、メーカーに勝手な評価をさせなかった、というのが実情である。

 しかし、消費者の要求がはっきり示されれば、酪農家においしい原乳生産競争をさせることも可能になる。メーカーとしては、美味しく原乳と不味い原乳の購入価格に差をつけることができる。
 もし、このような競争の仕組みが動き始めれば、数年で牛乳は格段に美味しくなる。
 「おいしい牛乳」は、この点で、極めて大きなインパクトを持つ商品といえる。

 もっとも、現実には、この方向には進んでいない。
 酪農の産業構造を変える動きを恐れる人達が多いからである。

 よく知られているように、今もって、酪農業は保護産業である。競争力の無い酪農家でも生きていける施策が採用されている。お蔭で、コスト削減は進まないし、質の向上も限定的である。
 要するに、余程の低品質でなければ商品として認めてくれる仕組みなのだ。品質についても、細かい詮索をしないよう、暗黙の了解ができあがっている。
 今までは、乳脂肪量で価値を決めていた。消費者側の要求とはなんの関係もなく、業界で品質価値を決めた訳だ。この数字が高ければ高い価格で売れる仕組みを作ったのである。この数値なら、競争力が無い酪農家でも対応できるからだ。
 メーカーに官能評価をさせなかったのである。

 そして、日本の酪農業は、未だに、この仕組みを守ろうとしている。
 しかし、それは無理筋である。このまま進めば、おそらく、多くの酪農家が自滅することになろう。

 もともと、日本の酪農業にコスト競争力は無い。安価な海外産LL牛乳が入ってきたら、太刀打ちできないのである。
 (LL牛乳は完全滅菌しており常温流通可能だ。一般市乳は殺菌処理で菌数を抑えただけだ。大きく違うように見えるが、両者共に苛烈な超高温処理を行うから、品質はたいして変わらない。)
 [尚、LL牛乳は常温保存可能にもかかわらず、自動販売機販売でさえ認可が必要である。]

 従って、牛乳を美味しくしたいなら、「おいしい牛乳」のヒットを契機に、美味しくて新鮮な原乳を提供する体制構築を始めるべきなのである。この仕組みができれば、安価な海外のLL牛乳が入って来ても、日本の酪農/乳業メーカーも十分戦える筈なのである。

 残念ながら、酪農業界は、せっかくのチャンスを生かす気がないようだ。


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