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2004.10.21
 
 


冷菓の飛躍…

 2004年の夏は、耐え難いほどの暑さが延々と続いた。
 こうなることは予測されていたのだが、わかっていても個人としては対応のしようがない。
  → 「気候/気象科学は進んだが 」 (2004年7月27日)

 ようやく涼しくなって、夏商品を冷静に見る余裕が生まれたので、猛暑で追い風が吹いた冷菓を眺めてみた。

 各社の製品ラインは見事なものである。

 実際、店に行くと、特徴を謳う様々な商品が並んでいる。しかも、季節ごとのモデルチェンジが普通になっている。コンビニは、POS情報で常時アイテムの入れ替えが行われているから、熾烈な開発競争が繰り広げられている訳だ。

 しかも、コンビニ間の競争が激しいため、ストア独占の差別化商品が続々と投入されれいる。

 そのなかで、じっくり見ると、強そうな小型ブランドがそれなりに健闘していることがわかる。

 そうした商品の「本気さ」には圧倒される。

 言うまでもないが、お金と時間をかければ、美味しい商品は開発できる。ところが、こうした商品は、そのようなタイプではない。
 細かなところへのこだわりが徹底しているのである。嬉しがるお客様がいると、面倒であっても、どこまでも喜びを追求する姿勢を感じる。完璧なまでに、商品を仕上げるのだ。
 「ここまでしなくても」という、こだわりの頑固さがある。

 高級品で言えば、典型は「クリームベリー」(1)だろう。
 作るのが、恐ろしく面倒そうな商品である。「新鮮なイチゴをくりぬいて北海道産の練乳と生クリームを使用したミルクアイスを詰め込んだ」ものだ。冷凍から半分溶けた状態で口にすると、味と食感が素晴らしい。
 おそらく、好きな人は止められない。

 ワンコインで買えそうな廉価品でも、文字通り、息を呑むような商品がある。

 名前は、「スイカバー」(2)
 メーカーの言う通り、「見た目も味も本物そっくり!」
 スイカ果汁入りで、チョコレート製の種が並ぶ。しかも、みずみずしくフルーティー。

 このような商品を開発できるのは、日本だけではないだろうか。

 こうした商品をバラエティ化の流れ、とは呼べまい。

 基本形(プラットフォーム)に新しいフレーバーを加えたり、特別の原料使用、という類の多品種化とは根本的に違うからである。
 基本形そのものが、全く違うものが登場してくるのだ。
 しかも、コピー商品は作れないことはないが、そんなことをする気にはなれないようなものが多い。
 余りに細部に渡って仕様を詰めているからだ。作るのに多大な手数がかかる割りには、原材料価格を考えれば、高い価格になっていない製品なのである。

 これは、日本独特の文化のような気がする。

 例えば、それを教えてくれるが、「たい焼アイス」(3)である。

 たい焼きの皮に、バニラアイスと小豆餡が入っているだけ商品だから、形を変えた最中アイスと言うこともできる。
 ところが、一寸違うのである。
 頭からしっぽの先まであんこ入りだ。しかも、餡の品質は高く、粒も適度に混ざっている。こんなところまで追求しなくても、と思ってしまうが、普通の最中アイスと価格が変わらない。
 たいしたものである。

 どこでもよく見かける「雪見だいふく」(4)も、類似商品はあっても、他とは相当違う。餅は1ミリ程度と薄く、メーカーが言うように確かに「ふっくらモチモチ」感がある。しかも、わざわざ、2個入りパッケージにしている。
 和菓子を供する雰囲気まで入れ込んだ訳だ。
 さらに、素材として、食の楽しみの提案まで歩を進めている。

 徹底的なこだわり商品が好まれる社会なのである。
 この感覚は海外には乏しい。しかし、その喜びがわかるようになると、日本商品は世界に広がる可能性さえある。

 習慣の違いはあるから簡単ではないが、「スイカバー」の驚きと、楽しさは全世界共通な気がする。
 味覚にしても、九州名物「あいすまんじゅう」(5)は、欧州のモンド・セレクションで、1996年から金賞を9年連続受賞している。本当に美味しい小豆と、アイスの組み合わせは、誰にとっても魅力的なのだ。

 こうした「こだわり」の流れは、「伝統」という観点ではよりはっきりする。徹底的に伝統を追求することで、熾烈な競争のなかで生きている企業は多い。

 その典型は、「白くまパフェ」(6)
 濃厚な甘さととバニラ風味はクリームパフェを感じさせる商品だ。もちろん、豊富なフルーツのトッピングつき。
 一見、一過性の商品と考えてしまうが、九州名物である。
 といっても、元祖は、カキ氷に練乳とフルーツの「白熊」の方で、そこから派生した1バージョンである。
 いまや、東京でも見かけるから、地場品とは呼べなくなっている。

 同じように、地場品「バハヘラ」(7)も新聞等で紹介され、全国に知られるようになった。
 秋田で、売り子さんが道路販売しているアイスだ。
 苺味のピンク色のアイスと、バナナ味のイエローのアイスが、一緒に盛られる。この色のコントラストがウリである。薔薇の花のように盛り付ける職人芸が知られるようになり、さらに人気が沸騰した。確かに美しい。

 地方独特の商品は、その「嬉しさ」が本質的なものなら、飛躍の可能性を秘めていることがわかる。ただし、これらは職人的な工芸品の追及とは違う。ビジネスとして成り立つような商品作りの「知恵」が含まれていることに留意すべきだろう。

 伝統をウリにできるのは、地場だけではない。

 メジャーとは呼べないが、「ビスケットサンド」(8)は息の長い商品である。クッキーのように甘過ぎず脂肪感も薄く、焼き臭を抑えた、定番ビスケットが使われている。これにバニラアイスがはさまれただけのものである。それぞれが、きっちりと作りあげられており、思ったよりは手がかかっていそうだ。
 単純な構成だが、乳脂肪分を感じるアイスの甘さに、サクサクな筈のビスケットがしっとりと湿っている食感が加わるから、この絶妙なバランスが好きな人には、止められなくなるだろう。

 日本の本来の「ものつくり」の強さとは、このような「こだわり」から生まれる知恵ではないかと思う。
 そして、それを支えているのが、「こだわり」商品を喜んで購入する社会だろう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.adore.ne.jp/gourmet/sweets/bn02.html
(2) http://www.lotte.co.jp/products/ice/21.html
(3) http://www.imuraya.co.jp/goods/ice/ice_wa.html
(4) http://www.lotte.co.jp/lotteyukimi/
(5) http://www.marunaga.com/7seihin/n_manzyu/f_manju.html
(6) http://www.marunaga.com/7seihin/sirokuma/f_siro.htm
(7) http://www.babahera.net/index.php
(8) http://www.morinaga.co.jp/ice/the_ice/prod/prod03.html

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