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1999.12
 
 


高速コンピュータ処理技術の力量…

 情報処理技術の根幹、これからの戦略技術といえる高速コンピュータ処理技術を見てみよう。1980年代から、日本企業が米国企業に挑戦し続けてきた分野である。

 日本企業は、一貫して研究開発を続けてきたが、残念ながら、2000年時点になっても、目だった成果をあげられずにいる。その一方で、ビジネスでは大した成果はないが、技術力は米国企業と横並びになったと言う人もいる。ここで重要なのが、技術力の見方だ。

 メディアの報道姿勢は、日米企業の「高速」性能実現競争である。分かり易くセンセーショナルな表現ができるから、どうしてもこうした見方に流され易い。しかし「技術力」をハードの演算スピードで判断すると実力判定を誤りかねない。コンピュータの性能は、「スピード」ではなく、「パフォーマンス」で判断すべきである。

 単に高速化を狙うだけなら、目的に応じた最適アルゴリズムをつくり、それに応じたハードとソフトを設計するのが一番で単純で効果も大きい。基礎科学の研究ならこの方針にも意義があるが、産業技術ではそうはいかない。応用展開の広さとコストを考慮するから、こうした開発方針は採用できない。といっても、広く利用可能な設計はそう簡単にいかない。従って、高速化を実現のアーキテクチャー思想で企業の力量が見えてくる。
 例えば、素晴らしい性能のチェス対戦用機器を開発したところで、高速コンピューター技術の最先端を歩んでいると結論づけることはできまい。この分野の本流商品に成果を活用できる保証がないからだ。特別なハード設計で高機能を実現しただけなら高度なニッチ商品でしかない。
 これからのハイパフォーマンスな高速コンピュータとは、できる限り汎用のマイクロプロセッサを多数使用し、トラブルなく並列演算処理できる製品である。「箱」の演算スピードだけで見ると、日本企業の技術力が高いように映るが、並列演算処理のアーキテクチャー技術では日米の格差は狭まるどころか開いている可能性の方が高い。というのは、日本企業は、汎用チップの利用方法開発は軽視し、高速演算チップ開発を重視しているからだ。

 もう1つの問題はソフト開発である。コンピュータ・ハードは単なる箱でしかない。いかに演算処理速度を誇っても、応用ソフトが容易に開発できる環境がなければ無用の長物だ。現時点で、ビジネス分野、科学計算分野のどちらも日本企業のシェアは微々たるもので、市場は米国企業3社の寡占状況にある。特殊なOSでしか動かないハードが生き残れるのは難しいから、寡占化は自然の流れといえよう。先端ニーズに応える画期的ソフトを産みだし時流を作り出さない限り、現在のリーダー3社寡占は強まる一方だ。現時点では、日本企業のソフト開発体制では、先端ユーザーである製薬企業や自動車産業界のニーズに応えることは困難である。ソフト開発力での格差は極めて大きいと言わざるを得まい。


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