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2000.5.1
 
 


ビデオ機器市場における日本企業の危機…

 日本の家電産業の核はAV商品である。世界市場を制覇したVTR(欧米ではVCRと呼ぶ)がその中核と言ってよいだろう。
 最盛期には、日本企業以外をほとんど駆逐してしまった。欧米の海外有力メーカーの製品はほとんどが日本のOEM商品になった。

 技術面でも圧倒的優位を誇れる製品である。
 テープへの記録方式、精度高い磁気ヘッドやデバイス、テープのローディング・メカニズム、等々、最先端技術を投入してきた。
 機器だけではない。ビデオテープでも最先端を走っていたのである。
 ビデオテープのベースであるポリエステルフィルムでは、欧米のジャイアンツ化学企業は樹脂研究の方向を誤った。コストでも品質でも日本企業に脱帽状態が続いた。
 酸化鉄からなる磁性粉でも、日本企業は高度なレベルの粒状特性と磁力を低コストで実現し、圧倒的な地位を確立した。
 勿論、テープ自体でも、複雑な組成の材料を何層にもフィルムに塗布する技術を磨き続け、高密度高耐久性の製品競争に勝利を収めた。

 まさに、日本の輝かしい産業発展史ともいえよう。統計を調べた訳ではないので数字には自信はないが、2000年時点で、世界には6億台以上のVTRが存在するのではないか。成熟したとはいえ、まだ大市場であることに注意されたい。といっても、韓国が安価なVCRで市場シェアを獲得したことと、日本企業が東南アジアでの生産を行っているので、華やかさは失ったが、今もってビデオ機器事業にとっては重要な商品だ。

 この市場にいよいよデジタル化の脅威が差し迫ってきた。デジタルVTR市場が立ちあがると見る企業もあるようだが、流れは代替商品の浸透と見るべきだろう。と言っても、DVDの登場の話しではない。パーソナルTV製品と呼ばれる10ギガから30ギガ弱の容量を持つハードディスク内蔵のビデオ機器だ。
 すでに、短いもので10時間、長いものは30時間の録画が可能である。米国ではReplayTVとTiVoという2大ブランド商品の普及が始まった。(発売は両者ともに99年3〜4月だった。後者にはSONYブランドも追加された。)すでにアマゾンドットコムや800ドットコムでも販売されている。
 2000年初頭の実売価格では、前者の20時間ものが600ドル弱、後者は14時間ものが400ドル弱、30時間ものが700ドル弱だ。パソコン搭載ハードディスク価格の急速な低下からみれば、この価格の引き下げ余地は大きい。VTRの安価品は150ドルなのでまだ差はあるが、記録へのアクセス能力が桁違いに早いので、機能面での差は余りにも大きく、人気は高い。

 こうしたハードディスク搭載ビデオ録画機器技術では、日本企業は、MPEG圧縮で技術での若干の優位性はあるものの、アジアを含む海外企業と力量はほとんど変わらない。数々の機構部品を必要とするVTRとは全く異なるからだ。かつての遺産で活用できるのは、どのように録画するかという利用法の知見と、ブランド・イメージに限られる。
 しかも、できる限り、既存のVTR事業を防衛する態度をとるから、ハードディスク搭載ビデオ録画機器開発での先鞭を避ける。

 この状況から素直に判断すれば、ビデオ市場での日本企業の地位没落の可能性は極めて高いとはいえまいか。 <


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