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2000.5.8
 
 


ビデオ機器市場における日本企業の危機(続き1)…

 米国で登場したReplayTVとTiVoはビデオ市場への脅威であることは間違い無い。しかし、深刻なのは、この製品自体が持つインパクトより、日本の家電産業のバイタリティと研究開発能力衰退がReplayTVとTiVoの登場で明らかになった点である。

 AV家電王国と呼ばれた日本だが、新市場創出に繋がる大商品が登場しなくなって久しい。しいて新商品と呼べそうのは、デジタルビデオカメラ(欧米ではデジタルカムコーダーと呼ぶ)と平面テレビ位。かろうじて、MD関係の改良商品が気を吐く程度。目立つのは情報通信系の製品(ゲーム機、パソコンとプリンター、デジタルカメラ、携帯電話)ばかりだ。
 MD機器と大型テレビがかろうじて価格を維持できるので、どうやらAV事業の収益を支えているというのが、90年代後半の姿だ。

 細かな機能アップの訴求しかできなくなったビデオデッキ事業の90年代の業績は惨憺たるものだ。廉価品の小売実売価格は1万円台にまで落ちた。これでは薄利というより、コスト割れ寸前の状況だ。松下、ソニーの両巨頭でさえ収益低下、他の企業は廉価品は勿論のこと、普及品でも生存そのものが脅かされる状態に陥った。当然、韓国企業やフナイ、オリオンといったOEMメーカーが業容を拡大した。

 こうした事態は、予想されていたこと。次世代製品がなければ不可避だ。
 平面テレビの例からみれば、アジアから安価なコピー製品が登場するのに1年とかからない。ということは、かなり高度で魅力的な商品を次々と先駆けて上市しないと事業沈没の危険がある。実際、ソニーの99年の決算で明らかなように、この分野の利益は縮小傾向が著しい。ソニーでさえ苦しいのだ。日本がAV家電王国と誇れる状態ではあるまい。

 TiVoの衝撃は、こうした流れで読むべきだ。

 最初の驚きは、ハードディスクビデオ商品があり得ることを知りながら、日本企業が商品化で先を走れなかったこと。
 もっと驚くのは、この動きに松下、ソニーがすぐに対応したこと。つまり、こうした商品が自社の基幹事業への脅威になるとの認識があった訳だ。ということは、デジタル技術が遅れており商品を開発できなかったか、技術潮流を見誤ったと言わざるを得まい。
 それ以上の驚きは、両巨頭が戦い始めたにもかかわらず、仕様が初発表されて以来1年も経つのに、新規付加機能、他の機器との接続、斬新な利用方法といった提案がないこと。旧態依然たるハードディスクビデオ商品販売を続けている。
ReplayTVにいたっては、製品ラインが縮小している。思った程売れないから、脅威にはならないと安心して手抜きをしているのだろうか。あるいは、代替品の進展はできるかぎり押さえようとしているのもしれない。実態はわからないが、消極的態度であることは間違いない。

 家庭にデジタル化の波が襲えば、ハードディスクの利用法が鍵を握ると思われる。こうした態度を見ると、技術開発や斬新な新利用方法で先鞭をつける気はなくなったといえよう。米国ベンチャーはもともと自社製造する気など無い。こうした企業に、技術開発や利用法開発にをしてもらい、強力なブランドと大量生産体制を武器に戦うつもりなのであろう。

 日本のAV家電事業は研究開発主導で戦う気力を失いつつあるといえよう。


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