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2000.5.15
 
 


技術競争力を喪失したバイオ産業…

 バイオ技術分野での日本の競争力比較が「バイオ産業技術戦略」(99年12月)に記載されている。このような問題に関心を寄せる人は少ないと考えていたが、そうでもないようだ。
 委員には、5省庁、代表的な薬・食品・化学・電機のバイオ参画大企業、大学・研究所とベンチャー、ベンチャーキャピタル、特許事務所、人文系教授、日経BPの宮田満氏と、網羅的で強力なメンバーが揃っている。しかし、この種の委員会の壁は打ち破れないと見えて、提言内容に新味は感じられない。日本弱体というデータを揃えた上で、網羅的な基盤強化を求めたものになっている。

 競争力については、次の引用がある。
 『米国の報告書のなかで我が国のバイオテクノロジー産業に対する評価は、80年代初めに「最も強い競争相手」として捉えられていた。…(中略)…その後、90年代に入り、我が国に対する評価は「生命科学分野において何ら脅威ではない、プレーヤーですらない」と一変した。』
 これに対する反論は掲載されていない。「その通り」ということなのだろう。日本が強いのは、発酵技術、バイオリアクター、酵素工学。クローン家畜とバイオセンサーは互角かそれ以下。先端技術領域での競争力は「極めて弱い」との評価がなされている。

 実は、これは当然の結末だ。遺伝子組換え、細胞培養、組織融合技術が開花した80年代、日本はバイオ産業振興を発酵主導で進めたからだ。味噌や醤油までバイオ産業に加え、日本の技術基盤を梃子に大きな産業を形成しようとキャンペーンをはった位だ。技術革新のスピードが遅ければ、これで対応していけたかもしれない。しかし、情報処理技術が飛躍的に進歩し、バイオ技術も驚く程の発展を遂げたのである。
 弱体技術を補完するには、情報処理技術への対応力を分析する必要があると思うのだが、この提言にはほとんど含まれていない。とってつけたように、電子機器・情報解析・精密計測技術の活用が述べられているだけだ。
 ということは、情報技術の力量を測る術さえない程弱体なのだろう。
 そうなると、発酵関連でイノベーティブな事業を進める企業だけが日本で伸びることになる。しかし、そのような企業にとって、ゲノム研究中心の政府の施策からのメリットはほとんど無い。不運としか言いようが無い。

 よく考えれば、日本のバイオ産業の競争力が弱い原因は、基盤の問題ではなく、技術マネジメントの問題である。肝心なことを隠して、当面の辻褄合わせの姿勢をとり続けたから今の状況を招いたといえよう。
 企業社会の現実を直視すれば、問題ははっきりする。
 ・ハイリスクな研究開発に耐えられる高収益な日本の大企業はこの領域で何社あるのか?(1000億円の経常利益が無い企業の本格的なハイリスク挑戦は無謀と考えるべきだろう。)
 ・ベンチャーの数を増やすには、既存企業内から多数の人材を流出させる必要がある。そのような方針をとれる企業は何社あるのか?
 ・現在の日本の医療システムに適合しにくいものでも、イノベーティブな治療方法であれば事業化できると思うか?(技術が素晴らしくても収益見通しが低いものに企業が資源を割くことなどできまい。)
 大学や研究所の振興策に至っては、何をすべきかという方針自体、ビジネスマンには理解できまい。
 ・ドクターとマスターの数は米国で1万2千人弱。日本は千人に達していない。今から着々と大学を強化することで産業強化に何時頃寄与できそうなのか?
 ・リーダー的存在で、予算もそれなりに獲得していた研究機関から産業競争力に貢献するようなアウトプットは出ているか?

 米国の研究費は2兆円、日本は5千億円だとされる。決して少ない金額ではない。これを大幅増額したいようだ。
 研究者数が限られているにもかかわらず、国が金を出せば状況は好転するらしい。弱い分野に金を投下するのだが、将来は明るいらしい。


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