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2000.6.4
 
 


組み込みOSへの対応の遅れ…

 2000年になってから、ようやく組み込みOSについて関心が高まってきた。

 90年代後半になって、「パソコンの時代は終わった」と語る人が増えたからだ。しかし、「それでは、非パソコンのOSはどうなるのか?」と尋ねると、お茶を濁す研究者が多い。OSがどうなるのかわからないのに、どうしてパソコン時代が終わるといえるのだろう。バラバラのOSで、様々なソフトが開発されても、パソコンを越える市場が生まれると考えているのだろうか。それとも、外見上パソコンに見えないパソコンが増えると考えているのだろうか。
 他人の主張を鸚鵡返しに語るだけで、潮流の根拠を語れない研究者が益々増えている。記事を丹念に読んでいるから、皆、知識と情報だけは豊富だが、自分で考えようとしない。これでは、組み込みOSに関する方針決定などできまい。

 明確な見通しを持っているかどうかは、次世代の戦略商品の仕様を見ればわかる。例えば、プロセッサーは汎用RISCチップ、こなれたリアルタイムOS採用なら、自然な解だ。軽くて早いことが実証されていて、統合環境が用意できるものを用いるのは企業としては当然の選択といえよう。
 しかし、こうした動きとは異なる方向の会社も多い。といっても、その理由が明瞭な動きもあるが、判然としないものがほとんどだ。状況に応じて、とりあえずの判断で選択していると推測される。

 組み込みOSをデジタル家電製品に用いる場合、狭い特定分野の応用だけで十分かを考える必要があろう。狭い範囲の応用では、拡張性が低いし、他との接続性が困難になる可能性が強い。要は発展性に欠けるのだ。

 リアルタイムOSの応用対象は通信、画像処理、情報家電だけでない。自動車から生産現場における計測・制御まで、幅広い応用が進む。従って、組み込みOSの方針は、今後の事業展開の根幹にかかわる。

 すでに、ひとつの動きが始まった。2000年2月、Wind River System, Inc.がIntegrated Sytems, Inc.を買収した。これで、同社ソフトの搭載シェアは9割になったという。地歩を固めているpSOSytemとVxWorksを統合し、Cumulusとして大きく発展させるロードマップも発表した。すでに、同社のソフトは、コピア、プリンターで活用されていることが広く知られているし、ペースメーカーやMRIにも利用が進んでいると言われる。開発者数も5万を越えたとのことだ。

 こうした動きをどう見るかで、企業の将来像が変わる。
 プラットフォームはこうした企業にまかせ、自社のスキルが蓄積されているアプリケーションにこだわるつもりなのか、それとも、プロセッサーやOSは、あくまでも自社固有のものにするのかを決める必要がある。
 自社固有で進めるなら、コンソーシアムを編成したり、積極的に外販して、大きなコミュニティを作らないと沈没は免れない。開発環境を構築するのは、時間と多数の開発エンジニアが不可欠だからだ。当然、先を走る企業が優位に立つ。
 日本企業もOS開発の発表はしているが、実質的なコミュニティ形成活動は見えない。Wind River System, Inc.の場合、世界の研究開発拠点は14箇所だ。日本のメーカーは事業自体は巨大だが、社内で完結した製品開発の仕組みしかない。従って、OS活用経験も限られる。対象範囲があまりにも狭い。従って、蓄積された様々な経験に基づく、使い易い開発ツールを生み出す力には欠ける。ツールや活用手法が揃わなければ、満足なシュミレーション、コンパイリング、デバッギングが行えない。今の体制では、競争になるまい。

 こうした点を考えると、日本企業は今分水嶺に立っているといえそうだ。
 Linux、WindowsCEといったパソコン時代の流れをそのまま組み込みOSにもってくるのか、日本発ということで利用促進を図ってきたμITRONを用いるのか、あるいは実績あるリアルタイムOSにするか、はたまた独自開発OSにするのか、…決断は先延ばしできまい。遅れれば、衰退の道を歩むだけだ。


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