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2000.6.5
 
 


DNAチップへの挑戦…

 ゲノム研究に不可欠なのがDNAチップである。
 DNAを読みとるといっても、その土台は、診断薬の分野の技術と同じようなものだ。反応試薬の変化をスキャナーで読み取る作業といってよい。といっても、困難性はかなりのものだ。大量の反応を一挙に行う必要があるからだ。それを行うのがDNAチップ。ようやく、様々な技術バリアを克服して、実用的な段階にさしかかった。99年段階で、代表的素子としては、Affimetrix GeneChipがあげられる。

 ほぼ基本的なシステムは出来上がってきたといえよう。しかし、「実用的」という意味は、あくまでも科学研究の範囲だ。

 理屈上からいえば、遺伝子を調べ統計的タイプ分けをすれば、疾病、あるいは薬への感受性といった個人の状態と遺伝子の違いの相関がわかる。DNAチップで徹底的に調べれば、有用な知見が得られる準備は整った。
 しかし、本格的な解明や、ヒトの診断に商業的に用いるには、まだ道なかばである。調べる対象は10万もある。たった1検体のデータ収集でも、コストは嵩む。…99年段階で、ようやく千万円レベルだ。改良レベルの積み重ねでも、数百万円が実現されるにすぎまい。
 研究のために数十人の母集団を設定するだけで、とてつもない費用がかかる。(DNAチップの利用は、90年代後半から大流行しているエクスプレッション・プロファイル用途が主。ファーマコゲノミクスや診断応用が事業に繋がるので利用を目指して動きが急なのである。プレスリリースから見ると、毒性試験や品質管理等の検定にも一部応用が始まっているようだ。薬剤探索研究用HTSにも応用されると言われつづけているが、90年代には製品や応用に関する動きは目だたない。)

 といって、事業が開けるのが遠い将来ともいえない。有用と考えられる部分のみ検討して、活用できるアウトプットを出せる可能性は常にあるからだ。99年時点で利用されている技術だけでは、強引な力仕事をして、網羅的な解析を進めるのはコスト的に無理そうだというだけである。この場合、どこを狙うかが重要になる。知見が集中している部分で、結果の活用がインパクトある分野に集中することになるのが自然だ。しかし、こうした選択ができるのは、今迄実績をつんできた企業や研究機関だけであろう。後発は、どこを調べるべきかの議論さえできまい。日本企業はこの点でハンディキャップが極めて大きい。

 しかし、日本企業が活躍できそうな分野もある。DNAチップの活用法でなく、チップそのものの製造と測定装置の分野である。
 DNAチップ作成に要な先端要素技術が揃っている日本企業は少なくない。高密度半導体技術あるいはスポット・インクジェット技術、センシング材料を含む高度光測定技術とその装置化、反応試薬や固定化、などは、日本企業の十八番だ。公開公報からみて、一部の企業でDNAチップの研究開発をしているようだが、挑戦的な事業化を始めようという動きは感じられない。
 測定コストの大幅ダウンが可能になると、大市場ができる可能性が高いのに残念なことだ。

(注) AffymetrixとIncyte PharmaceuticalsがDNAチップを核にしたゲノム分析の製品開発プログラムを発表したのは96年11月である。前者はアレイ型プローブ(GeneChip)メーカー、後者はゲノム情報データベース(LifeSeq)とバイオインフォマティクス企業。両者のタイアップで、リーダーの地位が確立した。Affymetrixの核となる技術は核酸プローブのアレイを作る方法(Pin-and-Ring)、Flying Objectiveと名付けているレーザーによるスキャンで得るデジタル画像情報である。チップ製造技術は、半導体製造で用いるフォト・リソグラフィを用いて固相化学合成が基盤となっている。(BioInsightsの調査では多数のメーカーが参入しているがAffymetrixの99年のシェアは4割を越え圧倒的地位。)尚、IncyteはGEM microarray systemと呼ばれる、ガラス基板上にcDNAのマイクロ・サンプルをアレイ(100x100程度)配置する製品を持つ。


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