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2004.1.31
 
 


デジタルカメラの成功理由…

 DVDプレーヤーは、チップを搭載した回路基板と、キー部品、電源キットの3つを集めれば完成することができる。従って、タイミングよく、高機能部品を安価に調達できれば、競争力を発揮することができる。
 これが、デジタル技術化するエレクトロニクス家電産業の基本的流れである。

 情報機器の産業構造が、デジタル家電領域に入りつつある、とも言える。

 例えば、パソコン生産は、つい最近までは、デスクトップは米国、ノートブックは台湾、が主流だった。ところが、今は、どちらも中国本土である。製品機能に大きな変化がなくなり、市場の成熟化が見えてくれば、中国生産が基本になるのだ。
 ケータイは多少事情が違うが、同じことだ。少し前までは、欧州が主体だったのが、あっという間に中国製が主流になった。
 こうした動きはITバブルが弾け、一気に進んだ。

 デジタル家電も、同じ道を辿ることになる。
 DVDプレーヤーは、おそらく、世界の生産の7割以上が中国製だろう。お蔭で、キー部品のDVDドライブ(ROM)生産まで、日本から中国に移ってしまった。

 ところが、例外がある。

 デジタルカメラだけは、未だに日本のシェアが高いのである。

 この例をあげて、日本のコンシューマ製品技術の強さを誇る人が多い。この力を使えば、エレクトロニクス家電産業で日本は先頭を走れるとまで語る。
 そうあって欲しいものだが、どうしてデジタルカメラが強いのか、論拠無しに語るような人の意見を聞くべきでない。

 なかでも、日本はキー部品が素晴らしいから強いのだ、との説明を鵜呑みにすべきでない。

 旧来の垂直統合路線では力が発揮できなくなって来たのに、過去を賛美するような意見に耳を傾けるのは危険である。
 言うまでもないが、日本は、キー部品の競争力は極めて高い。しかし、その強さが、最終製品の競争力に繋がらなくなって来たのが、1990年代に始まった産業変化の本質である。
 とは言うものの、独自のキー部品で垂直統合路線で戦っている企業もあるから、この変化は、わかりづらいかもしれない。
 しかし、原則に戻って考えればわかる筈である。

 キー部品は大量生産しなければ競争力を失う。ハイテク部品の開発費用負担は極めて重いから、外部へ大量販売しなければ、ペイしない。従って、垂直統合路線で競争力を発揮するのはなかなか難しい。

 垂直統合で戦うためには、圧倒的な技術力が必要なのである。しかも、部品から製品までの斬新な生産システム技術が無ければ、地位は保証されない。とてつもない挑戦である。
 (こうした挑戦を勧めるのなら意義はあるのだが。)

 もちろん、キー部品外販事業と最終製品事業のシナジーを活かす、擬似垂直統合路線もありうる。日本企業が狙っているパターンである。
 部品でのヘゲモニーを図りながら、最終製品で常に先を走る戦略である。最終製品事業のハイエンド商品で高い利益率を実現し、高収益化を図る仕組みである。次世代部品、高機能化部品/新実装方法導入などを、他社に先んじて製品に適用すれば成り立つように見える。
 ところが、成立には前提がある。ローエンド品とハイエンド品の差がはっきりしていること、部品の技術進歩スピードが製品開発期間に合致すること、の2点である。
 これが崩れれば、バランスが崩れ奏効しないのである。

 例えば、プログレッシブDVDプレーヤは、2年前はハイエンド商品だった。今や、39.99ドルのローエンド商品だ。時間はこれしかないのである。
  → 「脱皮不足のエレクトロニクス家電業界」(2004.1.30)
 2003年の年末はDVDプレーヤのハイエンド商品は、録画タイプ(DVDレコーダ)になった。しかし、この時代もすぐに終わるだろう。ほとんど自転車操業状態だ。
 こんな綱渡り経営が可能なのは、特定の企業だけだ。

 これが、日本のエレクトロニクス家電産業の「強さ」の実態である。

 これは、デジタルカメラ分野で日本企業が発揮している競争力とは違うのだ。

 デジタルカメラ産業でも、キー部品(画像撮影用超小型CCD)は外販されている。DVDプレーヤーほどオープン市場ではないが、大して変わらないと見てよい。(CCDだけでなく、NANDフラッシュメモリーについても、日本の技術は跳び抜けている。)
 キー部品は素晴らしいし、部品と最終製品のシナジー効果を発揮している企業もあるが、この分野での勝利の鍵は他とは大きく違うのである。

 それは何か?

 実は、中国が地位を明渡した分野を見れば想像がつくのである。
 世界の工場と言われながら、ここ2〜3年で、中国が一気にシェアを落とした分野があるのだ。

 それは、VTRである。こちらは、デジタル家電とは違い、様々な部品の組み合わせが必要で、機械精度が要求される製品である。開発や製造には、面倒な作りこみが不可欠なのである。熟練した設計技術者と、生産技術者のサポート無しには、なかなか上手く製造できない製品である。
 従って、中国は必ずしも優位とは言えないのである。
 そのため、シエアが、中国から、東南アジアに移行している。
 (但し、これは、グローバル家電メーカーが所有する東南アジア工場活用策が絡む。又、中国本土にはVTR市場が育たないので、中国立地メリットが薄い点も大きい。中国の競争力が格段に弱い訳ではない。)

 デジタルカメラも、VTRと同じことが言える。

 デジタル技術以外の技術が製品品質に大きく係わるため、中国企業がなかなか手をだせないのである。熟練技術が必要なため、中国は簡単には追いつけないのである。
 少し考えれば、そのことはわかる筈である。

 デジタルカメラは、始めは、小画素数でパソコン画面上での小さな表示用に使われていた。この用途なら、中国製が市場を席巻したかもしれない。ノートパソコンと同じような流れだ。

 ところが、プリンター技術が急速に進歩し、写真並に印刷できるようになった。このため、高精度画像が要求されるようになった。
 これに応えて、百万画素の競争が始まった。

 キー部品の技術進歩は凄まじく、すぐに数百万画素が当たり前になった。これで事態が一変したのである。
 (画素数拡大といっても、コスト上、汎用は数十万画素止まりと思われたが、驚くことに、極限まで開発が進んでしまった。しかも、とてつもないコスト低下スピードだった。中国/台湾に出番があったのは百万画素が高価だった頃だけである。)

 この精度に達すると、単なる組みたてではまともな製品ができなくなるのである。キー部品の性能が高くなり過ぎたからである。
 画像の精度は、キー部品の機能/品質で決まると考えがちだ。消費者からみれば、キー部品の技術力に目を奪われる。しかし、カメラ全体で見れば、そうはならない。キー部品が過剰仕様になったからである。
 汎用の光学部品の精度がキー部品に追いつかないのだ。
 要するに、素晴らしいカメラに仕上げるには、キー部品より、レンズの能力と光学ユニットの構造が重要になったのである。精度が上がれば、質感もわかってしまうから、キー部品にあった補正ソフトも重要になる。

 こうなると、先端のキー部品を安価に調達して組み立てるだけでは、優れた製品はできない。安価に高精度を実現できる、熟練した光学技術と、製品全体の調整力がものを言う。日本企業が強い技術が、競争力の鍵を握っているのである。
 当然ながら、中国企業が競争力を発揮するのは至難の技だろう。

 従って、デジタルカメラで力を発揮できたからと言って、エレクトロニクス家電分野全般に同じことが通用するとは限らないのである。

 しかし、この勝利から教訓を得ることはできる。

 技術マネジメント力を磨けば、勝てるのである。
 戦略的に、自社技術で勝てる構造を作り上げればよいのだ。当たり前のことである。

 「日本の家電技術は強い」との、無内容な発想を捨て去り、早く手を打つべきだ。


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