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2004.12.6
 
 


IBM PC 時代の終焉…

 Gartner が2004年11月29日に、パソコン産業が大きく変わるとの予測を発表した。(1)
 市場の伸びは鈍化し、金額の成長率は2%程度になるという。新興国市場は拡大するが、先進国の市場はほとんど伸びないと見ている訳だ。
 極く自然な予想といえよう。

 すでに、パソコン事業は、マクロで見れば、価格とサービスで勝負が決まる状況におちいっている。その上、市場の成長率が鈍化するのだから、さらなる利益率低下は避けられまい。

 このため、現在の上位10社のうち、3社は撤退するという見方が提起されたのである。

 その10社とは、Dell、HP、IBM、富士通/Fujitsu Siemens、東芝、Acer、NEC、Legend、Gateway、Apple Computer、だ。
 安定して収益をあげ続けているDellと、中国企業を除けば、どの企業が撤退してもおかしくないといえそうだ。今後伸びそうにない市場で、赤字覚悟でシェアを確保する意味が問われるのだから、撤退の意思決定は思った以上に早いかもしれない。

 と考えていたら、早くも12月3日、NewYork Times に、IBM が1981年に始まったパソコン事業売却話が進んでいる、との記事が掲載された。(2)

 具体的な交渉相手の名前まで登場しているから、噂のレベルを通り越していると思われる。

 いつか来ると言われていたIBM PC の事業売却がついに現実化するようだ。

 そもそも、ビジネスマンの必須品たる「機器+OS+ミドルウエア」の分野は、安価品の大量販売の世界である。コスト競争力が弱い企業が、自社技術で差別化した商品を投入して、トップ争いを繰り広げる場ではない。

 技術力を武器にして、高付加価値商品で地位を築くつもりなら、下流のなかで高付加価値部品に注力するか、上流のなかの高収益性システム構築に係わる分野を狙うのが筋である。

 「機器+OS+ミドルウエア」は、IBM のようなタイプの企業が注力すべき領域ではなくなったのである。

 それでもパソコン事業を続けていたのは、下流の事業の競争力を保つため、機器事業が役に立つ、と考えたからだろう。

 しかし、現実には、その貢献が小さいものでしかないなら、機器事業からの撤退は至極合理的な決断である。

 技術力を生かした経営を進めるには、このような意思決定は不可欠といえよう。

 同社は、すでに部品分野でも、ハードディスク事業から事実上撤退した。(3)

 この部品事業にも輝かしい歴史がある。数々の新技術を生んでおり、技術レベルも高い。しかし、今では、技術で切り開く事業とは言い難い状況にある。
 技術そのものは、確かに高度ではあるが、記憶容量当たりの価格を考えれば、超安価製品化してしまったからだ。
 コスト競争力で勝負しない企業にとっては、このような分野での技術競争回避は、極く自然な姿勢と言えよう。

 同社の液晶部品事業にしても同じことが当てはまる。

 大多数のビジネスユーザーにとって、液晶ディスプレーは、すでに十分すぎるほど高機能だ。そして、小売価格が2万円台の15インチディスプレーが登場するに至った。このような安価品でも、機器の性能のどこが低いのか、素人が目で読み取るのは極めて難しい。極めて完成度が高い安価な商品なのである。
 家電企業ならともかく、ビジネス客相手の技術志向の企業が、このようなハイテク安価商品で技術競争を繰り広げる意味は薄いと言わざるを得まい。

 冷徹に見れば、低付加価値の部品事業からの撤退も、極めて合理的な判断である。

 IBM はモノつくりに賭ける企業では無い。サービスビジネスを追及している企業だ。
 従って、サービスビジネスの強化に無縁な事業を保有し続ける意義があるとは思えない。

 IBM のパソコン事業売却は驚くような動きではない。

 --- 参照 ---
(1) http://www3.gartner.com/5_about/press_releases/asset_115083_11.jsp
(2) http://www.nytimes.com/2004/12/03/technology/03ibm.html?hp&ex=1102136400&en=a404729a59c077f6&ei=5094&partner=homepage
(3) http://www.hitachigst.com/portal/site/jp/?epi_menuItemID=44104b43c4d609d94565fe04bac4f0a0&epi_menuI


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