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2007.3.6
 
 


Airbus 不調を見て…

 欧州の威信をかけて育成してきたAirbus が不調に陥り、大合理化に踏み切ることになった。従業員の2割に当たる1万人を削減するそうだ。(1)

 航空宇宙産業の雇用者数は、米国が約60万人弱、仏英独で約30万人、日本は3万人に届かない。(2)
 世界の民間航空機需要は今後も順調に推移すると見られているなかでの事態だ。
 軍用は信頼性の考え方が違うから、軍需技術と直接繋がる訳ではないが、バイ・ワイヤー、姿勢制御、通信多重化、等々での取り組みが進んでいる点では両者ともに技術革新の先端を走っていると言えよう。
 要するに、統合システム化が進んでいるということ。お蔭で開発費は膨大で、複雑で錯綜した機械だから調整も厄介そのもの。設計段階から、製造・メインテナンスを考えた仕組みを想定していないと、プロトタイプはできるが、ビジネスとしては最悪になりかねない。
 Airbus は、受注を急いだため、この技術転換を軽視しすぎたのではなかろうか。

 軍需に係わらないことを社是とする日本企業もあるから、検討の埒外かも知れないが、戦闘機ビジネスを見ていれば、そんな変化は早くからでていた。(3)

 と言っても、直近の戦闘機ビジネス状況を見れば、そうは見えないかも知れない。
 例えば、最近では、「Aero India 2007 air show」が話題だ。(4)インド空軍のMedium Multi Role Combat Aircraft の営業活動が騒がしいということ。
 言うまでもなく、競争しているのは6社。
  ・米[Boeing]
  ・米[Lockheed Martin]
  ・露[RSK MiG Corporation]
  ・スエーデン[SAAB]
  ・仏[Dassault Aviation]
  ・英独伊西連合[Eurofighter] (英[BAE Systems]+独[EADS Deutschland]+伊[Alenia Aeronautica]+西[EADS Spain])

 話題になっているということは、今もって、選択が済んでいないということ。印僑商売的な印象を与えるが、簡単に決断できないということでもある。
 素人目で見れば、長年使用しているロシアの“MiG-29”のエンジン更新を進めながら、次世代の“MiG-35”へと共同開発型で移行するのが一番合理的な選択に映る。ただ、これは印露の準軍事協約の強化でもあり、ロシアからのエネルギー供給を狙うなど、両国の絆をさらに深めるとの政治的な意思決定に繋がる。
 それを避けるなら、欧米からの調達になる。ただ、そうなれば、ロシア軍事産業は最大の顧客を失うから、痛手は大きい。ロシアにとっては正念場を迎えている訳だ。(5)

 しかし、東アジアの生命線でもある、インド洋のシーレーン防衛問題を考えると、これからは米国との協調が重要となる。イージス艦を始めとする総合システムが必要になるということ。大規模な監視/偵察仕組みを提供できるのは米国しかないから、米国との交流は必須となってくるだろう。
 これは海の問題だが、空でも同じことが言えよう。個々の機体で見れば優秀な性能でも、総合的な軍事力を考えれば、他の仕組みと統合できなければ、たいした力は発揮できない。  識別情報を提供する航空機、偵察衛星、地上レーダー等からの情報を分析し、的確な指示を戦闘機に与えるシステム力が鍵を握るようになって来たということだ。
 さらに、対弾道弾用のパトリオットミサイルも、航空機にも搭載されていく筈だ。兵器のシステムとも連動する必要がある。その兵器も精密誘導型が主流で、益々複雑化する。

 米国が提供するシステムの枠組みに入るか、システムは弱体でもかまわないと考えるか、思案せざるを得ないということだろう。

 このように見ると、インド空軍が行っている戦闘機選択は、従来型軍事装備時代の最後を飾るものと言えそうだ。これからの戦闘機の中味は、航空機と言うより、複雑な統合システムになるからである。
 素晴らしいエンジンを作ったところで、システム側が選ばなければ、使われない。  現在は、米国2社、露、スエーデン、仏、英独伊西連合、の競争だが、この体制はもう続かないということ。
 とてつもない巨額な開発費用が必要になるから、こんな数多くの種類が競争できる筈がないのである。
 つまり、次世代1機は高額だが、旧世代数機が束になってもかなわないということだ。

 しかし、中国のように、旧世代の戦闘機を山ほどかかえている国は、とりあえず世代交代させない訳にもいくまい。その点ではインドも同じようなものだ。
 両国とも、そんなことがあるから、戦闘機の自力開発も手がけている。これに、どれほどの意味があるかは疑問だが。
 中国版は、イスラエルの機体設計技術とロシアのエンジン技術がベースの“殲 Chengdu J-10 ”(6)[Chengdu Aircraft Industry Corporation]。配備に注力しているようだ。(7)

 --- 参照 ---
(1) http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/6402859.stm
(2) 日本航空宇宙工業会「平成18年版 世界の航空宇宙工業」 [2006.3]
  http://www.sjac.or.jp/sjac_gaiyo/sekai_h18.pdf
(3) 青木謙知: 「航空自衛隊F-Xと世界の戦闘機産業」2007年2月
  http://www.sjac.or.jp/kaihou/200702/070202.pdf
(4) Ravi Sharma: “Jostling on for multi-role combat aircraft contract”
  http://www.thehindu.com/2007/02/07/stories/2007020708691200.htm
(5) ヴィクトル・リトフキン: 「ロシア最良の翼がインドに飛ぶ」ロシア・ノーボスチ通信社 [2007.1.29]
  http://www.rian-japan.com/news/details.php?p=429&more=1
(6) http://www.sinodefence.com/airforce/fighter/j10.asp
(7) http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070122/chn070122000.htm


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