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2007.5.10
 
 


三次元素子開発競争…

 IBMが三次元素子を発表した。2007年4月のこと。(1)

 と言っても、特段驚く人もいまい。
 この流れは前々から予想されていたからだ。

 処理の高速化にとっては、各チップの高集積化、チップの並列処理化が必要となる。要するに、組み込み型のプロセッサ、DSP、SRAM、DRAMが増えれば、これなくしてはどうにもならなくなるのは見えている。さらに、無線通信デバイスまで考えれば、SiP(System in Package)/チップの三次元化はどうしても欲しい技術となろう。
 ケータイのような軽薄短小商品で開発競争しのぎを削ることを得意技と考える日本企業にとっては、不可欠な技術であることは言うまでもなかろう。

 しかも、インクジェットプリンタのヘッドや半導体センサ類といったMEMS(Micro Elector Mechanical System)系の製造技術を十八番とする企業も多く、様々な素子を基板上に搭載すること自体には慣れている。
 又、実装技術で世界をリードしていると自負する企業も少なくない。

 と言った環境下であるから、日本企業が力を入れて当然の分野である。それに、呉越同舟の国策ミレニアムプロジェクトも行なわれた。(2)

 従って、ボンディングや垂直メタル配線、フラッシュメモリ組み込み等に関する要素技術は、すでにかなり高度な段階に到達していると見て間違いあるまい。
 そてに、すでに、5層チップのパッケージは実用化されているそうだから、これからチップ自体の三次元化が本格化しそうだ。
 そんな流れを見ていると、三次元素子では、日本企業がリーダーシップを発揮できると考える人も多そうだ。
 しかし、そんな見方が当たるとは限らない。

 その理由は単純。
 三次元素子とは、あくまでも一般名称でしかないから。

 チップを重ねるのではなく、チップそのものを多層化する場合は、三次元素子形成の要素技術を独立して利用することはできない。必ず、製造工程内に取り込む必要がある。ところが、様々な素子を作るため、製造工程は千差万別になる。
 システム・イン・パッケージ(SiP)と言っても、どんな素子をどう寄せ集めるかは、ケース・バイ・ケース。どのような製造プロセスになるか決まっている訳ではない。
 このことは、当座、三次元化技術の標準化はできないということ。要するに、具体的なアプリケーションをはっきりさせない限り、実用化に向かって一歩も進まないのだ。実際に最終のチップを生産できない限り、要素技術が完成したとは言えないのだ。

 この手の技術分野は、日本企業にとっては苦手かも知れぬ。

 以前、IBMが、SOI(Silicon On Insulator)のプロセッサを出した途端、各社揃ってSOIのASIC開発に精をだしたが、今回はそんな訳に行くまい。
 SOIも、もともと、シリコンでは高速化に限界があるから、それを逃れる手段として、昔から検討されてきた。SOI向け基板もだいぶ前から入手できるようになっていた。
 従って、コストを考えなければ、日本企業は、いつでもSOI化に踏み切れた筈だが、他社より一歩先に踏み出そうとはしなかったようである。
 別に、日本企業が臆病風をふかしたという問題ではない。本当にコストを下げることができるか、先発すると優位性を維持し易いと言えるのか、よくわからないから、様子見になりがちになるだけのこと。
 当然ながら、先発が動き始めれば、すぐに走り出す。

 問題は、三次元素子に、このやり方が通用するかだ。

 どんな応用を図るかで、素子の製造プロセスは大きく変わってしまう。システムチップであるから、一件毎に中身が違う訳だ。そうなると、こうした情報を早くから流す企業があるとは思えない。
 業界の流れを把握しようとしても、情報は得られない。これでは、様子見作戦は難しいのではないか。

 と言うことは、流れに乗るのではなく、流れを作る必要があると言えそうだ。

 日本では、そんなことができそうな企業は少ないかも知れない。
 応用に合わせた専用の半導体チップの時代が到来するとの将来像を掲げてビジネス展開を図らない限り、その方向に注力することができずらいからである。

 --- 参照 ---
(1) http://domino.research.ibm.com/comm/pr.nsf/pages/news.20070412_3dchip.html
(2) http://www.nedo.go.jp/denshi/kanmin/h15jigo_chokomitsu.pdf


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