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2007.8.21
 
 


次世代DVDの行方…

 次世代ビデオディスク規格の標準争いが続いている。

 素人の視点で、状況をまとめてみよう。
 米国では、いち早く高精細画面製品市場が立ち上がってしまった。その流れに、先行したゲーム機Xbox360がのってしまったから、ゲームソフトが沢山揃っても、後発で高価なPS3はなかなか浸透しない。このことは、ブルーレイディスクプレーヤーが一気に普及する状況にないということでもある。と言っても、PS3の数は、すでにHD DVDディスクプレーヤーを大きく上回っているのは間違いないが。
 ところが、2007年10月、ついに300ドルを切るHD DVDプレーヤーが発売されることになった。(1)

 こうなると、高精細画面に慣れてきた層が購入に動き始める可能性がある。
 規格勝負は、見たくなるソフトが揃っているかで勝負がつくのは当然の理屈だが、米国では、メジャーエンタテインメントソフトの話で留まらない点に注意が必要である。

 日経BPのCES特別報道班が、2007年1月に、この状況を的確に伝えている。(2)毎年恒例となっている、家電展示会CESの裏で、マイナーな展示会が開催されているという話だ。要するに、アダルトものの世界で、いよいよHD DVDのソフトビジネスが始まりそうな状況にあるというのだ。

 どうしてこんなマイナー市場を見なければいけないかと言えば、昔と同じ現象になるかははっきりしないが、過去のディスクプレーヤー普及では、アダルトソフトの影響力は大きかったからである。
 メジャーソフト業界の協力が得られなくとも、レーザーディスクが米国で浸透したのは、どう見てもアダルト系ソフトだろう。VHSの普及にしても、アダルトソフトの存在がかなり寄与したのは間違いなかろう。
 記事は、そんな過去の状況を踏まえて書かれたもの。

 そして、ブルーレイディスクは生産サポートの完璧化に邁進したから、管理体制がしっかりしていそうである。このことは、アダルトものは出さない姿勢を貫き通す可能性があるということ。(もしかすると、ディズニーがHDDを出さない理由はこんなところにあるのかも知れない。)
 こうなると、アダルトものを欠くブルーレイディスクの競争力は意外と低いかも知れないのである。

 ちなみに、2006年の米国アダルト市場は129億ドルと巨大なのだという。脱法業者も多いから、この数字が、どこまで当たっているかはよくわからないが。
 そのなかで、卸や販売の中抜きが可能な上、日本向けポルノソフト代理配信サービスで圧倒的な地位を占めていそうだから、インターネット分野は前年比13.6%増と絶好調。すでに全体の約2割を占めている。旧来メディアのビデオ/DVD販売・レンタルは3割弱を占めるが、前年比15.4%減と振るわない。(3)

 この状況だと、アダルトソフト業者が、高精細画面のHD DVDで訴求したくなるのは極く自然な成り行きだと思われる。
  ・HD DVDディスクは製造が容易で安価そうだし、アダルトソフトは上市しやすそうだ。
  ・しかも、DVDとHD DVDの二層構造にすれば、既存のDVD購入層に売ることができる。
  ・安価なHD DVDプレーヤーが広がれば、HD DVDに移行する顧客も増える可能性が高い。
     - 一番普及しているゲーム機Xbox 360に繋がる付属機器
     - 300ドルを切るプレーヤー

 日経BPの記事情報から判断すると、アダルトソフトがでてくれば、HD DVDプレーヤー需要が掘り起こされそうな感じがする。
 インターネットのアダルトサイト映像は、まだ高精細画面に対応するところまでは進んでいないようだし、回線容量を考えると、高精細画面のソフトを簡単にダウンロードできる状況にはないからだ。

 日本では、ブルーレイディスクとHD DVDの戦いは、もっぱらテレビ放送記録メディアとしての話だから、この辺りの感覚はなかなかつかみづらい。
 なにせ、米国では、メジャー分野のDVDソフトの数は膨大である。しかも、価格が手頃と来ている。わざわざテレビ番組を記録しようと思う人は少数派と考えてよいだろう。それに、テレビ番組のタイムシフト視聴なら、ハードディスクレコーダーが使い勝手がよい。ディスクメディアで番組をとる人は余りいないと思う。
 ただ、高精細画像のカムコーダ(ビデオカメラ)を持つ人にとっては、記録媒体は必要となる。もし、この記録媒体がディスクになるとしたら、一番普及していそうなプレーヤーに合わせ媒体を選ぶ可能性が高い。しかし、ブルーレイディスクプレーヤーとは事実上PS3である。そうなると、すでにXbox 360を所有している人が、高価なPS3を追加購入するだろうか。とりあえず、安価なHD DVDプレーヤーを選ぶ可能性が高そうである。
 しかも、カメラ映像をパソコンで編集し、ディスクに落とす作業が増えると思われるが、次世代DVDは高速ダビング対応するのか、素人にはわかりかねる。個人のビデオライブラリーはDVD化されており、このダビング能力がはっきりしない限り、使わない規格になりかねまい。
 ブルーレイディスク普及の障害は、結構多そうである。

 このことは、米国市場では、PS3の伸びが今一歩なら、ブルーレイディスクの市場制覇は難しということかも知れない。
 そうなると、米国市場では、両規格並存である。市場は低迷するかも知れないのだ。

 一方、日本市場では、家電メーカーは次世代DVDレコーダー市場はそのうち必ず立ち上がると考えているようだ。テレビ放送がハイビジョン化され、アナログ放送が無くなるから、ハイビジョン非対応機器は早期に代替されると踏ふんでいるのだろう。それに、家電産業のリーダーがブルーレイに注力しているから、流れを確実視してしまう傾向がある。
 しかし、そうなるとは限らない。
 放送用記録メディアとしては、ディスクが高価過ぎるし、放送側の規制がきつくて、録画の使い勝手が極めて悪いからだ。ハードディスク録画で済まし、それを現行のDVDのVRフォーマットでの“ムーブ”で満足する人が過半で、移行しない可能性も高い。
 ソフト視聴にしても、プレーヤーで、DVDをハイビジョン対応に変換する程度で十分美しいとなってしまうかも知れない。そうなれば、高品質オーディオ規格(SACD/DVDオーディオ)と同程度の普及で終わるということになりかねない。
 もっと厄介なのは、レンタル市場が立ち上がらないかも知れない点だ。メジャーソフト企業の姿勢もあるが、ブルーレイディスクは表面の硬度を高めたとはいえ薄い膜である。レンタルではリスクが高すぎるのではなかろうか。レンタル市場がなければ、プレーヤーの魅力は薄れ、普及は低レベルで終わるだろう。
 ハイビジョンビデオカメラの記録メディアも、そうなると、使い勝手がよいフラッシュメモリに分がありそうだ。

 もしも、こんな見方が当たっているなら、結局のところ次世代DVDは2規格並存が続き、プレーヤー/レコーダーの普及率も低いままで推移するという予測が一番自然である。ビデオデッキで日本企業が世界を席巻したような時代は訪れない訳だ。
 換言すれば、日本の家電産業は衰退するということ。

 などと言うと、家電業界には、もう一つの期待の星、デジタルテレビがある、と言う人が多いかもしれない。しかし、これも危うい。日本の“胡散臭い”ハイビジョン放送政策が裏目に出たから、日本メーカーは弱体化する可能性が高いのである。これについては、又、別途語ろう。
 次世代DVD市場が大きく育たず、デジタルテレビでも競争力を失ったりすれば、最悪だが、現実を眺めると、そんなシナリオも杞憂とは思えない。この状況を変えようとリーダーシップを発揮しようと考える人もいないようだ。

 残念なのは、前者は、規格統一の失敗から。後者は、とんでもない政府の政策に乗ったから。
 両者ともに、世界に冠たる技術力がありながら、自ら、金の卵を踏み潰す道を選んだのである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.tacp.toshiba.com/news/newsarticle.asp?newsid=173
(2) 「【裏CES】Blu-ray対HD DVDの戦いを違う側面から調べてみた」
  日経BP techon [2007.1.18] http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070118/126577/
(3) 「裏CES:2006年の米国アダルト市場、ビデオやDVDは縮小、PPVやネット市場が伸びる」
  日経BP BPnet [2007.1.29] http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q1/523941/
(DVD-ROMドライブのイラスト) (C) 3D+WEB MIX http://webweb.s92.xrea.com/


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