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2007.10.4
 
 


撤退したアレルゲンフリー食品ビジネスを眺めて…

 「ファインライス」は、1991年に大手化粧品メーカーが上市したお米ブランド。2007年3月、販売終了となった。(1)

 コレ知る人ぞ知る、大学との共同研究で生まれた商品。特定保健用食品の口火を切ったということで、食品業界では知らぬ人はないのではなかろうか。
 うろ覚えで間違っているかもしれぬが、蛋白質「グロブリン」を酵素分解した食品として、Natureにも掲載されたのではなかったか。
 加工食品だが、普通に炊けることがウリで、見かけは生米である。言うまでもないが、米アレルギー対応商品である。(2)

 良く知られるように、食品アレルギーの主な原因は卵・牛乳・小麦。それに重篤な症状がでると言われているのが、蕎麦とピーナッツ。これに、昔から蕁麻疹がでる人がいるので有名な、海老・蟹・烏賊や青魚も問題児だ。厚生労働省のリストには、この他に大豆、肉、果物など色々な食材が入っており、蛋白質が含まれているものや、ヒスタミン・コリン類成分を含む食材では、必ず発症者がでるようだ。(3)

 ただ、人によって反応が違うから、よく調べないと何が原因かはわからず面倒極まりない。
 今や、乳児の1割は食品アレルギー持ちだというし(4)、成長すれば症状は消える人が多いとされるが、小学生で2.8%、中学生で2.6%である。(5)クラスに1名といったところだ。少ない数とは言えまい。それに、医療現場の調査ではないから、実数はもっと多いかも知れない。
 このため食品アレルギーを抑制するための研究もかなり行なわれているようだが、一般の免疫でさえよくわかっていないのに、腸の機構であるから益々難しいようで、発生の理屈がわかる程度から一歩も進まず、解決の糸口は見えないようだ。

 ただ、今のところ、お米アレルギー人口は、他の食品アレルギーと比べると、圧倒的に少ないようである。しかし、常識で考えれば、小麦や蕎麦のアレルギーで悩む人口がかなりあるのだから、米も、それと同じ位の人口はありそうだと思うが。民族の伝統食に限ってそんなことはあるまいと考えるから、表面化していないだけではないかと思われる。
 それに、食品アレルギーといっても、米の場合は軽度の湿疹が多いせいもあるかも知れない。
 なにせ、他の重篤な症状は聞きしに勝る。知人の子供のナッツアレルギーは、経験談を聞くだに恐ろしい。外食したら突然呼吸困難に陥り、すぐにタクシーを拾って、近くの大病院に行ったそうだが、救急車でも呼んでいて来院が一歩遅れていたら命が危うかったかも、と言われたそうである。こうなると、食事に関する真剣度が違う。
 米国では外食にAllergy Card(6)を持参したりする位だし、レストランへの教育研修(7)も行なわれていたりするが、そうでもしなければ命も守れない人もいるようである。

 こんな状況で、「ファインライス」の市場を開拓するには、お米アレルギー者の顕在化活動や食品アレルギー啓蒙活動を、同時に進めなければならなかった筈だ。これは結構厄介だったろう。小麦同様なら、その主対象は子供だからだ。親はお米を原因と考えない可能性があり、市場拡大は難しかったろう。利用者を大人に絞れば、おそらく、市場は小さい。知恵を絞らないと収益性確保が難しそうなビジネスである。(子供は、どう見たところで卵、牛乳、小麦、大豆。大人は、魚介類。両者に共通で重篤なのが、ピーナッツとナッツ類と見た。これ以外は市場は小さそうである。)
 その上、競合が登場したのである。こちらはレトルトパック。早くからレトルトご飯を出していたら状況は変わったかも知れないが、生米では売れ行きは鈍るのは致し方なかろう。家族全員がアレルギーということは稀だからである。一人分なら、レトルトが便利なのは間違いあるまい。

 ともあれ、折角の研究成果が、たった16年で消えて行くのは残念なことである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.shiseido.co.jp/s9606frc/html/
(2) http://www.caloricdiet.com/special/newproduct/finerice.html
(3) 「アレルギー物質を含む食品に関する表示Q&A」 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課 [2004年]
  http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/tp0329-2b.html#b2
(4) 「食物アレルギーを知っておいしく食べよう」 日本アレルギー協会 http://www.jaanet.org/contents/images/syokumotu2004.pdf
(5) 「アレルギー疾患に関する調査研究報告書」 文部科学省 [2007年3月]  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/04/07041301/002.pdf
(6) http://www.allergycards.com/
(7) http://www.foodallergyinitiative.com/section_home.cfm?section_id=6&sub_section_id=4
(食品のイラスト) (C) Hitoshi Nomura “NOM's FOODS iLLUSTRATED” http://homepage1.nifty.com/NOM/index.htm


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