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2008.10.27
 
 


石油化学コンビナートを考える…

   日本の石油化学コンビナートは、名称の印象とは相当違い、海外と比べると規模が小さく、実態からいえば、ミニコンプレックスと呼んだ方が当たっていそうだ。と言うのは、パイプラインで繋がっているプラントは一部にすぎず、原料の輸送とマネジメントコストが嵩んでいそうだから。その上に、相当古い施設が多いので、将来性が危ぶまれると言われ続けてきた。
 素人が大雑把にコストを想定しても、規模が倍のプラントなら償却費用は算数で4割減程度だろうし、最新プラントのエネルギーコストは半分以下と思われるから、海外との競争は難しそうである。
 ところが、現実には、しぶとく生き残っている。(1)
 ただ、これは競争力が高まったということではないと思う。
   ・償却済み施設を、補修程度の投資で稼動。
   ・WTO(関税方式変更)の恩恵。
   ・中国等の旺盛な需要で輸出急増。
   ・原料高騰分を販売価格に即反映。
   ・キャパシティ上限での生産。
      (1980年代から進めてきた機能材料が上表の数字に含まれているのか確認していない。これらは、好調である。)

 まあ、冷静に考えれば、弱体であることは間違いない。生産コストもさることながら、産業政策による障壁があったため、垂直統合効果がでにくい産業構造だからだ。(原油→ナフサ/ガス→単分子→高分子→コンパウンド)しかも、企業乱立状態だから、業界の足並みを揃えても、末端市場のバーゲニングパワーには太刀打ちできそうにない。
 しかし、そんな条件下で、知恵を絞った経営がなされてきたのは間違いなかろう。
 それは、石油精製、石油化学だけが持つ特徴でもある。
 言うまでも無く、生産製品ポートフォリオ管理による収益化だ。石油精製でいえば、ガソリン、ナフサ、はたまた、原料用ガスのどれにウエイトを置くかとか、重油系を単純燃料とせず、ここから収益をあげるような努力があたる。石油化学でいえば、原料から、何をつくるかということ。儲かりそうな製品にシフトすることで、収益をあげるやり方をとってきたのである。さらに、コモディティ・プラスチックに細かなグレードを設定することも含まれよう。
 しかし、誰が考えたところで、この先、安価なコモディティ品で済むものは、輸入で臨むのが筋だろう。

 “中核の3コンビナートと、いくつかのサブに収束することを覚悟しないといけません。”(2)
 “日本の石化コンビナートは歴史的使命をほぼ終えた。”(3)ということ。

 しかし、考え方によっては、この資源を上手くつかえば、産業全体を活性化することも可能なのではないか。ポートフォリオ型を追求してきたから、単一技術ではなく、様々なスキルが残っているし、生産技術/エンジニアリングとそれを支えるインフラが揃っているからだ。
 ただ、重厚長大型産業の場合は工場が集まっていたところで、電子産業のような産業集積化のような効果は生まれない。クラスター化促進政策は期待できないということ。
 従って、新しい「知」を生み出そうと思ったら、企業や産業の壁を超えた新しい組織をつくるべきである。ビジョンが共有できさえすれば、大きなことができるののは間違いないと思う。

 ただ、それが向いている地域は、首都圏至近な京葉地区しかないかも。ここは、土地の余裕は無いが、そんな取り組みができる環境が整っている。すべてを合算すれば、原油処理やエチエン生産のキャパシティは、シンガポールやサウジアラビアのジュベール[Jubail]と遜色ない規模である。しかも、LNG基地や、鉄鋼原料炭まで揃っている。本気で考えれば、色々な絵が描ける筈である。
 それに、すでに、シーバース共通化がなされているようだし、エチレンセンター間の共同導管による基礎品の融通はおこなわれているのだ。一歩進めることができない訳ではなかろう。

 --- 参照 ---
(1) 製造産業局化学課「エチレンセンター11社の収益状況について(平成19会計年度) [2008.6.10]
   http://www.meti.go.jp/policy/chemistry/main/teikihapyousiryou/080714etirencentersyuuekijyokou.pdf
   [11社] 三井化学+大阪石油化学、 丸善石油化学、 山陽石油化学、 出光興産(石油化学部門)、 東燃化学、
    昭和電工、 住友化学、 東ソー、 三菱化学、 新日本石油(石油化学部門)
(2) 「三菱ケミカルホールディングス新社長・小林喜光さんに聞く―石油化学は日本に残れますか
  「コンビナートは、3か所まで減るかもしれません」 読売新聞 [2007.8.9]
  http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/20070809ke05.htm
(3) 「原油価格急変動、安定調達策は―三菱ケミカルHD社長小林喜光氏(そこが知りたい)」( 日本経済新聞 [2008.9.7] (有料記事)


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