↑ トップ頁へ

2009.5.11
 
 


スマートグリッドをどう見るか…

 2009年4月16日、米国副大統領がSmart Grid Initiativesとして約40億ドルの巨額な助成を行うと表明した。(1)
 まあ、IBMのパルミサーノCEOが経済再生への道として、オバマ大統領に提言(2)した、ITヘルスケア、スマートグリッド、教育とブロードバンドの一つに入っているのだから、力が入って当然だろう。
 米国は日本と違って、風力発電に向いた場所や、大規模太陽光発電でペイしそうな地域が少なくないから、それとバンドルして新しい施策を打ち出し易いという点もあろう。と言うより、前政権が手を抜きすぎたというのが一番当たっていそうだが。

 もともと、米国は広大な大陸に、小さなコミュニティが分散している。大規模発電と送電網での電力供給は無駄が多い上、様々な企業がユーティリティ事業に参入しているので、系統管理が矢鱈に難しい。その点では、まってましたという施策でもある。
 従って、“米国の送電網が相当つぎはぎだらけで、よく大停電を最近起こしていましたから、そういった面でインフラ整備をしなければいけないということも一つ”(3)という現実的な見方が出て当然である。

 IBMが2009年2月に発表した、(4)マルタ島へのスマートグリッドユーティリティ導入にしても、スマート・メーターを電力と水道(海水の淡水化だと思われる。)に設置しただけとも読めるから、表面的には特段の革新性は感じられない。業務効率と顧客満足度が向上することを図ったものということだが、どの程度のレベルなのかよくわからないし。(5)
 まあ、エネルギーコストに関心が高い日本では、電力会社が系統運用の安定性向上とエネルギー効率的利用の仕組みにはお金をかけてきたから、電力だけ見れば驚くような話ではないだろう。日本は、新エネルギーが大きなウエイトを占める段階にはきていないし、脱炭素社会は遠い先と考えているということでもあるが。
 ともあれ、日本の一般的な見方は、とりあえず、太陽電池や風力のような非連続的発電を利用し易くすれば十分という発想でしかない。従って、このような動きに関心が薄いのは止むを得まい。
 それに、NEDOの下で、マイクログリッドの仕組みを稼動させてきたから、新鮮さを感じさせないということもあろう。クリーン発電、コジェネ、既存電力網をバランスさせること自体はそれほど難しくなかろうといった見方が出来上がっているようだし。まあ、実体を考えると、運営はそう簡単ではないと思うが、非連続発電量が急増しない限りは、ある程度の対応できるのは間違いなかろう。

 この視点で、米国Worcesterでのパイロットプランを見れば、大規模化しただけに映るのは当然。特段の関心を引くこともあるまい。(6)日本流で描けば、マイクログリッドの複合体への第一歩といったところか。

 ただ、Worcesterプランで注目すべき点が一つある。余剰電力をプラグ・インで車に供給する仕組みの存在だ。これを、ガソリン代替が進むという狭い視野で見るべきではない。
 グリッドの思想から言えば、場合によっては、車の電池から電力が供給されることもありえるからだ。ここがポイント。車の台数は膨大だから、大きな蓄電器ができると言えないこともない。さらには、エネルギーを水素化すれば、車がガレージに入った時は発電機として使える。車の意味が変わってくるのだ。
 そのためには、末端での充電・発電のリアルテレメーター化によるコントロールと料金決済の仕組みが不可欠となる。(日本はテレメーター化のインセンティブが小さすぎるので進展は遅い。)重要なのは、この仕組みができれば、様々な仕掛けができ易くなる点。自動車の新しいコンセプトが生まれ、果敢な投資が始まり、一挙に市場を席巻する可能性が生まれるということ。米国流イノベーション創出のパターンを作ろうということに他ならない。
 この点を考慮に入れれば、スマートグリッドユーティリティが将来に向けた大きな一歩であることは間違いない。

 --- 参照 ---
(1) “Vice President Biden Outlines Funding for Smart Grid Initiatives ” [April 16, 2009]
   http://www.energy.gov/news2009/7282.htm
(2) “オバマ大統領とパルミサーノ IBM CEO 経済再生への道、「スマート」な未来について語る” IBM [January 28, 2009]
   http://www-06.ibm.com/innovation/jp/smarterplanet/obama_sjp_speech/
(3) 「望月経済産業事務次官の次官等会議後記者会見の概要」 経済産業省 [2009年2月19日]
   http://www.meti.go.jp/speeches/data_ej/ej090219j.html
(4) 「7,000万ユーロを投資しマルタ共和国にスマート・グリッド・ユーティリティを導入」 IBM プレスリリース [2009年2月6日]
   http://www-06.ibm.com/jp/press/2009/02/0601.html http://www.ibm.com/press/us/en/pressrelease/26596.wss
(5) 「安定供給と環境保全に向けた欧米の事例紹介 〜 スマートメーター・スマートグリッド〜」 IBM 2007年
   http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g71101c04j.pdf
(6) “National Grid Announces Plan for SmartGrid Pilot in Worcester, Massachusetts”[March 31,2009]
  http://www.nationalgridus.com/aboutus/a3-1_news2.asp?document=4003
  [A Smart Grid City] http://mms.businesswire.com/bwapps/mediaserver/ViewMedia?mgid=177903&vid=5&download=1


 技術力検証の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com