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■■■ 日本の基底文化を考える [2018.9.16] ■■■
鳥崇拝時代のノスタルジー[67]
−「料理物語」−

「料理物語」1643年の「㐧四 鳥乃部」に並ぶ食材を眺めてみた。 →(CC)国文学研究資料館[jpg11-12]

江戸期に急に肉食が始まった訳ではなかる。鷹狩が楽しみでもあった訳で鳥とは第一義的には食材そのものと考えて間違いではなかろう。ただ、仏教の影響で表立って禽獣食を言わないが。僧侶妻帯が許容される大転換があったのだから、こしらも建前論を止めたのだろう。

肉を喰らう、雑食の烏系と猛禽類は相対的に数は少ない上に不味いから食用にはしなかったようだ。その力を頂戴するために食すという習慣はなかったと見える。

ただ、料理本と言っても、メニュー名が並べられているだけ。汁が基本のようだ。全部で18種。
高級食材の鶴から始まり、飼養の鶏で終わっているから、上品さの度合いのランク付けがされていそう。
特別なのが鶴と白鳥で、美味いのが雁と鴨。今では見かけることも少ないが、これに次ぐのが雉と山鳥ということか。

著者名を記載していないところを見ると、公家的食生活をご存知でそれを豪商に伝える役割を担っていた人の口伝書ではかろうか。難波や江戸が大都市化して、その知識を流布させる必要が生まれたのであろう。

浅学のため、読めない箇所もあるし、誤読も避けがたいが、全体観が得られれば十分なので以下に書いてみた。当たらずしも遠からずの線は確保できているのではないか。

 鶴つる…汁  せんば さかびて 其外いろいろ
     同もゝげ わた すいもの 骨くろ塩
 白鳥はくてう…汁  いり鳥 ゆて鳥 くしやき 酒びて
    其外いろ/\
 がん…汁  ゆて鳥 𤋎鳥 カハいり 生カハ
     佐しみ なます くしやき せんば さかびて
 鴨かも…汁  骨ぬき いり鳥 生皮 さしみ
     なます こくせう くしやき 酒びて 其外色々
 雉子きじ…青がち  山かげ ひしホいり なます 佐しミ
     せんば こくせう はふし酒 津カミ酒、丸やき
     くしやき いろ/\
 山鳥やまとり…汁  やきとり ___ きじのこと
 番鳥ばん…汁  やきとり いり鳥 いろいろ
 けり(振り仮名無し)…汁  やきて いろ/\
 路鳥さぎ…汁  くしやき さんせうみそ
 五位こゐ…汁  いり鳥 くしやき
 鶉うづら…汁  くしやき いり鳥 こくせう せんば ほねぬき ク世ち阿へ
 雲雀ひばり…汁  ころばかし せんば こくせう くしやき たゝき
 鳩はと…ゆで鳥 丸やき せんば こくせう 酒
 鴫しぎ…汁  いり鳥 焼鳥 こくせう __ハ
     ほねぬきにもよし 其外いろ/\
 水鶏くいな…汁  ころばかし くしやき
 桃花鳥つぐみ…汁  ころバかし やきて こくせう
すヾめ…ころばかし 汁 此外之ハ小鳥同前
 鶏にハとり…汁  いり鳥 佐しみ めしにも玉子ハ
     __/\ ふのやき みのに 丸ふ 蒲ぼこ
     そうめん 禰り酒 色/\
[私注]
  せんば: 船場鍋(大根煮)
  さかびて: 酒浸て(塩を加えた酒に浸漬)
  もゝげ: 鳥臓(鳥モツ)
  わた: 腸(鳥ハラワタ)
  𤋎=煎
  いり: 煎
  佐しみ: 刺身
  こくせう: 濃醤(鯉コク的調理)
  青がち: 腸をたたいてみそを加え,
    なべを火にかけていりつけたところをだしでのばし,
    肉を入れて塩で調味 [世界大百科事典 第2版 平凡社]
  山かげ ひしホいり: みそじたての汁 みそのかげんをかえたもの [同上]
  ひしホ: (大豆麦味噌)
  さんせう: 山椒
  ころばかし: 転ばかし(鍋の中で水無しで味噌で煮ころがす)
  くしやき: 串焼
  みのに: 蓑煮(細切り煮物)
  禰り酒: 煉酒(濃厚甘酒浸漬)


桃花鳥は鴇トキではなく鶫ツグミとされている。鴇の羽色からすれば、桃花としておかしくないが、鶫は地味な体色であり場違いな名前の感じがする。
トキは、すでに、簡単に獲れるほど棲息していなかったのかも。その美味さのノスタルジーに陥っていた可能性もあろう。味が似ているとも思えないが、矢鱈に沢山獲れる鶫と多少似たところもあるとして、名前を拝借したということか。トキはもともと"つく"と呼ばれていたから、"つく身"と洒落たのだろう。
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