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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.8.10] ■■■
[附 24] 印度仏教消滅原因[2]
インドの仏教勢力が最終的に壊滅させられたのはイスラム勢力の仏教拠点殲滅方針によるが、それは避けようがなかったとも言えよう。
その種は、アショーカ/阿育王[在位:前268-前232年]統治下で播かれたといえるのでは。

この時、インド仏教は国教とされており、最盛期を迎えたと言ってもよいかも。
インド全土、ネパール、パキスタン、アフガニスタンに、石柱/摩崖に刻まれた、法/ダルマによる統治宣言とも言える詔勅が残っているくらいなのだから。その言語は、2種の大衆語(古マガダ語[パーリ語系])、ガンダーラ語、ギリシア語、アラム語(オリエント世界の公用語)と、グローバル対応。
ただ、後世、インド最盛期グプタ王朝の公的書記用言語となった、サンスクリット語は使われていない。あくまでも完成された口誦用雅語と見なされていたことがわかる。
碑文から見ると極めて理想主義的な統治を行ったことになる。

しかし、身分制はそのままでの話。しかも、王位継承の仕組みも整えていなかったようだから、仏教国教体制維持の根拠薄弱と言わざるを得まい。
と言うか、この仏教隆盛が、同時に仏教瓦解の種を植え付けてしまったという、副作用の方が重大だろう。
王は、宗教融和政策を採用したが、仏教からすると外道の婆羅門勢力とは身分だからだ。仏教隆盛とは、この層が生活に窮することになり、見かけ仏教帰依に雪崩うつことになるのは必定。(儒教圏の、徴回避のための私度僧化と似たようなもの。)
その一方で、反国王の先鋭的な動きも抱えることになる。従って、教団内に身分制が持ち込まれることになるし、王権のスムースな引継ぎも難しくなり、非仏教の王擁立の動きも生まれ、反仏教の流れが勃興しかねない訳で。

それより大きな問題は、帝国拡大方針を放棄した点にあろう。絶対覇権国として周囲とのパワーバランスを考慮しての施策ではないから、地域の安定につながることはあり得無い。大国とは、所詮は、強大軍事国家でしかなく、理想主義は不安定化に繋がるとの冷徹な認識を欠いている。
(アショーカ王没後の西北インドは、メナンドロスT/ミリンダ/米南コ王で知られるグリーク朝[前200-前125年](古ギリシア教+仏教)、ペルシア系草原遊牧族のサカ/塞迦、古イランとも言えそうなアルサケス朝/安息帝國/パルチア[前247-224年]、第二のアショーカ王ともいえるカニシカ王が出たバクトリアのクシャーナ朝/貴霜帝國[30♭-375年]の角逐の場となるのである。)
それに、もともと、身分制最下層の賤民とは、侵略地の被支配層=奴隷を意味し、その存在で支配する側のインドの民が豊かになる構造が出来上がっている。このことは、領土拡大をしないなら富も増えないことになる。それは、人々が"覇権"国家観を失って行くことになる訳で、侵略を招くことにもなりかねない。そうなれば、仏教がどのように扱われるかわかったものではなかろう。

・・・もしも、仏教が被支配者層を基盤とした、支配層からの抑圧を受けている宗教だったら、状況は違ったかもしれないが、外道の婆羅門階層を残しておきながら、王権の力で国教化させたのだから、婆羅門階層が差配する世界に埋没して行くしか残る道は無いように思える。

そして、帝国化の流れを打ち切るということは、経済的に低迷の方向に舵を切ったことを意味する。仏教勢力のパトロンである長者の余裕も失せるだろうし、信仰基盤である都会の衰退化も進むことになる。どのようなスピードになるかはなんとも言えないが、この流れはいかんともしがたい。
 --- 北インドの主要王朝 ---
  クシャーナ/貴霜朝[30-375年]
  …大月氏支配の大夏発祥(非インド系)
   すべての宗教が併存
   一帯の交易路要衝を軍事支配
  サータヴァーハナ/百乘朝[前230-220年]
  …婆羅門と王権(出自婆羅門)は緊密
   仏教も保護下であり婆羅門祭祀に協力
  グプタ/笈多朝[320-550年]
  …婆羅門勢力膨張 仏教は大乗化
   婆羅門勢力農村配備
   エフタル侵攻で国際交易停滞・都市衰退
  ヴァルダナ/伐弾那朝(普西亞布蒂王朝)[606-648年] :北インド最後の統一王朝
  …玄奘訪問時の戒日王/尸羅阿迭多[在位:606-647年]代は仏教隆盛


従って、もともと帝国化など考えたこともなく、大陸からの支配も免れ続けてきたセイロン島の支配層が、アショーカ王的政策を引き継ぐことになったともいえよう。南伝仏教だけが、この頃の第3回結集を記しているのは当然だと思う。それこそが、大陸の資産を全て島に持ち込むことになった結節点なのだから。
結局のところ、インド仏教は、アショーカ王の碑文以外は大陸からすべて消え去ったのである。
→【印度仏教消滅原因】 [1]

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