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■■■ 今昔物語集の由来 [2019.7.18] ■■■
[18] 仙道王
「三寶感應要略」の記述と「今昔物語集」を文殊菩薩譚で突合せてみたが、[→]巻一の長い話も見ておこう。
 【天竺部】巻一天竺(釈迦降誕〜出家)
  [巻一#23]仙道王詣仏所出家語

ついでと言ってはなんだが、巻二の短いものも。釈尊が語る 天人前生話でもある。
 【天竺部】巻二天竺(釈迦の説法)
  [巻二#21]天人聞法得法眼浄語

仙道王譚は、素人にはとんでもなく読みずらい話だが、落ち着いて目を通せばなんということもないストーリー。
陀国王舎城の影勝王が、仙道王からの贈り物 寶甲に対する返礼品に窮し、行雨大臣と相談の上で、世界的宝でもあるからと釈尊像の絵を贈った。受け取った仙道王は憤慨したが、それが尊像であることを知り、悔いて出家。

長い文章でも、直訳ではないものの、なるべく原形の通り記述しようとの姿勢が見える。但し、名前が違っていたりするが。一部、意図的と思われる削除もあるが、それに格別な意味はなさそう。
非濁:「三寶感應要略」上2
     影勝大王釋迦畫像感應
  仙道王詣仏所出家語
  今昔
佛在竹林園。
  −  (後半で記述)
時贍部州内有二大城。一名花子。二名勝音。此之二城。互有衰盛。
  天竺に二の城有り。一をば花子城と云ふ。一をば勝音城と云ふ。
   此の二の城、互に栄え衰ふる時有り。

時勝音城人民富盛。王名仙道。正法治國。
  其の時に、勝音城の人、皆富て楽み盛也。
   王をば仙道と云ふ。以て国を治す。

無怨病苦。五穀成就。
  諸の病無くして、五穀成就せり。
夫人名頂髻。有二大臣。一名利益。二名除患。
  后をば月光と云ふ。太子をば頂髻と云ふ。
   二人の大臣有り。一をば利益と云ふ。一をば除患と云ふ。

時王舍城王名影勝。夫人名勝身。太子名未生怨。大臣名行雨。
  又、王舎城の王をば影勝と云ふ。后をば勝身と云ふ。
   太子をば未生怨と云ふ。大臣をば行雨と云ふ。

爾時仙道大王。朝集大會。告衆人曰。
  其の時に、仙道、王宮に大会を儲て、諸の人を集て、問て云く、
 「頗有餘國豐樂與我國相似不。」
   「他国の楽び、我が国と相似たりや」と。
時有摩陀國興易之人白王。
  其の時に、摩竭提国の商人、其の座に有て云く、
 「於東方有王舍城。其國與王國相似。」
   「此より東方に王舎城有り。其れ、此の国と相似たり」と。
仙道聞之。
  仙道、此れを聞て云く、
 「於影勝生愛念心。」
  −
問大臣曰。
  −
 「彼國何所乏。」
   「彼の国に何物か乏き事有る」と。
答謂。
  商人答て云く、
 「彼處無寶。」
   「彼の国には財無し」と。
王以妙寶盛滿金篋。并以勅書遣使。
  其の時に、仙道王、微妙の財を金の箱に盛り満て、書を相具して、
   使を以て影勝王の許に送り遣る。

送與影勝王。王覽書并聞國信。大歡喜曰。
  影勝王、書を見、箱を開て、歓喜する事限無し。云く、
 「彼國何乏少。」
   「彼の国に何物か乏き事有る」と。
諸人答。
  諸の人、答て云く、
 「彼無好疊。時王即以國所出大疊盛箱篋。」
   「彼の国、善く栄たり。但し、畳無し」
准知上事報仙道王。并致書信。
  影勝王、此れを聞て、
  即ち国の出だす所の大畳を以て、箱に盛て、
  前の如く仙道王の許に送て、書を遣す。

刻勝音城仙道王。見慶喜問使者曰。
  仙道王、此れを見て、驚て、使に問て云く、
 「王之形状如何。」
   「汝が国の王の形、如何が有る」と。
報曰。
  使の云く、
 「其形長大。一似大王。性行雄猛。躬為征戰。」
   「其の形ち長大にして、大王の相に似たり。心、武くして、性、戦の道に堪たり」
王即依量造五コ上甲。令使送者。
  仙道王、此れを聞て、忽に五徳の甲を造りて、使に与へて送り遣る。

  其の五徳と云は、
 一盛熱之時著便涼冷。
   一には、熱き時此れを着れば、善く凉き事を得、
 二刀斫不入。
   二には、刀を以て切るに立たず、
 三箭射不穿。
   三には、箭を以て射るに通らず、
 四避諸毒。
   四には、着るに善く光り有り。
 五能發光明。
   −  【削除】
王甲造畢裁勅書。送使者持去奉影勝。
  王、此の甲に書を副て送つ。使、是を持て、影勝王に奉る。
王覽書視甲。心生「希有」。
  王、書を披き甲を見て、「希有也」と思ふ。
商量准直金錢十億。使憂念。我國無此。如何酬耶。
  此の甲の直を量るに、金の銭十億也。
   然れば、我が国に、此れに酬ゆべき事無ければ、王、愁へ給ふ事限無し。

時行雨大臣。見王帶憂色問由。
  其の時に、行雨大臣、王の愁へ歎き給へる気色を見て申さく、
   「此れ、何事に依てぞ」と。

王具答。
  王、具に此の由を答給ふ。
大臣曰。
  大臣の云く、
 「彼國王唯贈一領寶甲。王之國内有佛。之人中妙寶。十方無與等者。」
   「彼の仙道王、宝の甲一領を送れり。王の国には仏在ます。
    此れ、人中の妙なる宝也。何者か勝れむ。十方世界に並ぶ者無し」と。

王曰。
  王の宣はく、
 「誠有此事。欲如之何。」
   「此れ実也。然れば、其をば何が為べき」と。
大臣曰。
  大臣の申さく、
 「可於疊上畫世尊像。遣使馳送。」
   「畳の上に仏の形像を画て、使を馳て遣はすべし」と。
王曰。
  王の宣はく、
 「若爾白佛。」
   「然れば、我れ、仏に申すべし」とて、
時王以事白佛。
  仏に此の由を申し給ふ。
佛言。
  仏、宣はく、
 「善哉妙意。可畫一鋪佛像送與彼王。
   「善哉。妙なる心を以て、一鋪の仏像を画して、彼の国に送るべし。
  其畫像法。先畫像已。於其像下書三歸依。
    其の画像の法は、画像を画て、其の像の下に三皈を書くべし。
  次書五學處。即五戒也。
    次に書くべし・・・
  次書十二縁生流轉還滅。上邊書二頌。
    次に十二縁生の流転還滅を書べし。其の上に二行の頌を書くべし。
  頌曰。
   《汝當求出離 於佛教勤精 能降生死中 如象推草舍
   於此法律中 常修不放逸 能竭煩惱海  當盡苦邊際》」

    其の文に云く、
     《汝当求出離。於仏教勤精。能降生死軍。如象摧草舎。
     於此法律中。常修不放逸。能竭煩悩海。当尽苦辺際 云々。》」

書訖授使。應報洗曰。
  王、仏の教に随て、皆書畢て、使に授て、教て云く、
 「汝持畫像至本國時。可於廣之處懸諸ヲ蓋。香花布列盛設莊嚴。方開其像。
   「汝、此の画像を彼の国に持至て、広く明ならむ所にして、幡・蓋を懸け、
    荘厳微妙にして、香を焼き、花を散じて、此の像を開くべし。

  若有問"此是何物"。答彼言。"此是世尊形像。捨於王位成正覺。"
    若し、問ふ事有て、"此れは何物ぞ"と問はば、
     汝ぢ、答て云ふべし。"此れは、仏の形像也。王位を捨て、正覚を成じ給へりき"と。

  下字義次第可答之。」
    只、上下の字、次第に答ふべし」と教て、
 時影勝王歡喜而去。具畫像書其事状。收金銀函。
  画像を金の箱に納て、書を副て、仙道王の所に送り遣はす。
作勅書報仙道王。仙已開讀忿怒。
  使、彼の国に持至て、先づ書を王に与ふ。
   王、書を得て、披き読て、忽ちに忿の心を発して、

告大臣曰。
  大臣に告て云く、
 「未知彼國有何奇異勝妙信物。」
   「我れ、未だ彼の国の善悪の有様を知らず。何ぞ、奇異なる勝妙の者を遣するぞ」と。
書云。可兩驛手平治道路。嚴飾城隍。花蓋幢幡集諸人衆。
  使、道路にして、幡・蓋を懸け、荘厳微妙にして、香を焼き、
   花を散じて、諸の人を集めて遣す。

遣我自領四兵遠出迎攝。仙道看此形呪。意欲相輕。
  仙道王、自ら四兵を引将て、行向て、此の微妙の荘厳を見て、
   心に此れを信ぜずして、"軽めむ"と思て、大臣に告て云く、

 「卿等宜應集四兵。我自親往。伐摩陀國。」
   「汝等、速に四兵を集むべし。我れ行て、彼の摩竭提国を罸むと思ふ」と。
大臣奏曰。
  大臣、答て云く、
 「曾聞彼王大度量。不可輕大王。今可順其言。」
   「此の事、善く思惟せしめ給ふべし」と。
王如封書陳供。引至城邑。開畫像瞻仰而住。
  王、書の如く、城に返り至て、画像を開て見る。
于時中國商人共來。異口同音。唱"南謨佛陀"等。
  其の時に、中国の商人来て、此の仏像を見て、異口同音に、「南無仏」と称す。
王聞之遍體毛竪。次第問其義。
  仙道王、此れを聞て、身の毛竪て、恐ぢ怖るる事限無し。次第に其の義を問ふに、
商人具答。王誦其文還宮。依文思惟。至天明不起于座。得初果慶ス説偈曰。
  商人、具に其の旨を答ふ。王、其の文を誦して、宮に返ぬ。
   此の文を思惟して、天暁に至て、座を起たずして、須陀果を得たり。

 敬禮大醫王 善療於心病 世尊雖在遠 能令惠眼明
  −  【削除】
即以書報影勝曰。
  其の後、仙道王、書を以て、影勝王の許に送て云く、
 「我ョ仁恩見真諦。欲見芻。令來至此。」
   「我れ、君の恩に依るが故に、今、真諦を見る事を得たり。
    願くは、比丘を見むと思ふ。此の所に来しむべし」と。

影勝讀書白佛。
  影勝王、書を読て、即ち仏の御許へ詣でて、白して言さく、
 「佛觀知迦多演那。於彼有縁。便命遣之受教。」
   「仙道王、初果を証する事、既に此の如し。又、"比丘を見む"と云ふ。
    我れ思ふに、迦多演那比丘、彼の所に縁有り。速に遣はすべし」と。

時五百芻。往勝音城。
  仏の教に随て、迦多演那、五百の比丘を率して、勝音城に行ぬ。
時影勝報仙道曰。
  影勝王に云く、
 「承悟縁生得初果。欲相見芻。佛言。五百芻。遠起祈請。仁自來迎。
   「君、"縁生を悟て、初果を得たり"と云ふに随て、仏、五百の比丘を遣す。
   君、自ら来て迎ふべし。
  造一大寺。營五百房。得福無量。」
    亦、一の寺を造て、五百の房を造るべし。福を得む事、量り無かるべし」と。
仙道讀書已如言。尊者隨機説法。或得羅漢。乃至發趣大乘。
  比丘、機に随て法を説く。或は阿羅漢を得、或は大乗に趣く。
時宮内女人請尊者。
  其の時に、宮の内の諸の女人有て、尊者を請ず。
不許入女人中説法。
  尊者、女人の中に入て、法を説かむ事を許さず。
 「有比丘尼。為彼可説法。」
   但し、「比丘尼有らば、彼れが為に法を説くべし」と。
仙道作書報影勝。
  此れに依て、仙道王、書を以て、影勝王の許に、此の由を云ひ送る。
影勝白佛。
  影勝王、書を見て、仏に其の由を申して云く、
 「遣世羅等五百尼。」
   「世羅等の五百人の比丘尼を遣はすべし」と。
受教往為説法。
  仏の教勅を受て、世羅等の五百の比丘尼、勝音城に行ぬ。為の法を説く。
時月光夫人。命終生天上。來下驚覺大王。
  其の後、仙道王の后、月光夫人、忽に命終して、天上に生れぬ。
   来り下て、大王に此の由を告ぐ。
王悲喜作是念。
  其の時に、王、世を厭て、自ら思く、
 「我可立頂髻太子為王。而我出家。」
   「我れ、頂髻太子に国位を譲て、我れは出家して、道を求む」と思て、
以状告二大臣。
  二人の大臣に此の由を告ぐ。
臣聞已流涙。命頂髻以告之。
  大臣、此の事を聞畢て、涙を流して、悲泣して、太子に此の由を告ぐ。
太子悲泣。
  太子、亦此の事を聞て、哭き悲む事限無し。
王鳴鼓宣鈴。普告國人。
  王、亦普く国内の人に此の事を告ぐ。
時荷恩啼泣。多出財寶。廣設無遮會。
  国内の人、此の事を聞て、亦哭き悲て、
   王の恩を報ぜむが為に、多の財を出集て、広く無遮の大会を儲く。国、挙て営む事限無し。
王將一侍者。徒歩而去。向王舍城。
  其の後、王、一人の侍者を具して、歩行にして、王舎城へ向ふ。
太子國人。皆隨後送前而歸。其王漸去。
  太子及び、大臣・百官・人民、後に随て、哭々送ると云へども、
  王、強に止るに依て、歎き乍ら、皆別れて返ぬ。
至王舍城。在一園中告影勝。
  王、一人侍者許を具して、終に王舎城に至て、一の薗の中に有て、影勝王に此の由を告ぐ。
聞已修治道路。引四兵至仙道王所。共相慰問。 乘一馬入城問由來。
  影勝王、此れを聞て、忽に道路を修治して、
   四兵を率して、大臣・百官を引将て、仙道王の所に至て、先づ来る心を問ふ。

  其の時に、仏、竹林薗に在す。  (冒頭文)
答於世尊所。
  影勝王、仙道王を相具して、仏の御許に詣でて、参れる所の心を陳て、
 「欲求出家。」
   「出家せむと思ふ」と申す。
即共詣佛所。佛言
  仏の宣はく、
 「善來。」
  「汝ぢ、善く来れり」と。
髻髮自落。如百歳芻。
  其の時に、仙道王、髻・髪、自然ら落て、百歳の比丘の形の如し。

  然れば、戒を受け、仏の御弟子と成ぬ。
影勝禮佛而出。仙道芻。依衆而好之耳。
  影勝王は此れを見て、貴こと限り無くして、仏を礼し奉て、還り去にけり。

  仙道王、偏に影勝王及び、行雨大臣の徳に依て、仏道に入る事此の如し。
  本より仏法を知らざる者なれども、仏を見奉れば、益を蒙けり

  となむ、語り伝へたるとや。

巻二には、祇園精舎の掃除人が天人に転生したと釈尊が語る話も収録されている。ジャータカ的な構成になっているともいえよう。
非濁:「三寶感應要略」上45
     拂精舍庭生天感應
  天人聞法得法眼浄語
  今昔
昔如來在世之時有天人。
來下祇精舍。

  仏、祇精舎に在ける時に、
  一人の天人、来下たり。

佛為説四諦法。
  仏、此の天人を見給て、四諦の法を説て聞かしめ給ふ。
得法眼淨。
  天人、此の法を聞くに依て、忽に法眼浄を得たり。
阿難問佛。
  其の時に、阿難、仏に白して言さく、

   「何の故有て、此の天人に四諦の法を説聞かしめ給て、
    法眼浄を得しめ給ふぞ」と。

佛言。
  仏、阿難に告て宣はく、
 「須達居士。造精舍已。
    「此の天人は、須達長者、此の精舎を造りし間に、
  遣一人奴。拂寺庭掃除道路。
    一人の奴婢を以て、寺の庭を払はしめ、道路を掃治せしめき。
  乘此善根。生利天。
    其の善根に依て、奴婢、死して、利天に生れぬ。
  來下聽法。得法眼淨也。」
    此の天人は、彼の奴婢也。
    此の故に、来り下て、我れを見、法を聞て、法眼浄を得る也。」と説給けり。


  然れば、発さずして、人の言に随て、寺の庭を掃治したる功徳、既に此の如し。
  何況や、自心を専にして、寺の庭を掃治したらむ人の功徳、思遣るべし

  となむ、語り伝へたるとや。

[ご注意]邦文はパブリック・ドメイン(著作権喪失)の《芳賀矢一[纂訂]:「攷証今昔物語集」冨山房 1913年》から引用するようにしていますが、必ずしもママではなく、勝手に改変している箇所があります。

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