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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.3.31] ■■■
[275] 一目会ってからあの世へ
藤原師家は享年32と若死。恋人に先立たれたショックのせいかも。
その女の、悲しき恋愛譚が収載されている。
  【本朝世俗部】巻三十一 本朝 付雑事(奇異/怪異譚 拾遺)
  [巻三十一#_7]右少弁師家朝臣値女死語
【藤原氏 北家】[→藤原氏列伝]

○師輔[909-960年]

○兼家
├─○道長─○頼通
○道隆[953-995年]
四男
○隆家[979-1044年]
次男
○経輔[1006-1081年]
長男
師家[1027-1058年]

両者は互いに、好き合っていたものの、貴族の風習もあり、師家は一途な女性に応えられず、波長が合わない。そこで、女は命を絶つことにしたが、それでも死ぬ前に一目だけでも会いたかったのだ。
 右少弁[正五位下]師家が、
 相思相愛の仲になって通っていた女の家の前を、
 半年ぶりに通った。
 この女だが、一寸、足が遠のくと、
 会ってもうまくいかないのだった。
 つれない態度を見せるので、面白くないのである。
 それに、仕事も忙しくなったので
 ずっとご無沙汰だった。
 ところが、その女の家人に呼び止められた。
 そこで、車を引き返し、家に入った。
 すると、女は清気漂う姿で経箱に向っていた。
 とりあえず、取り繕っているのではなさそう。
 見ると、眼見、額、口付、が素敵であり、
 今迄のことを後悔し、弁解に努めた。
 にもかかわらず、返事もしてくれない。
 女はただただお経を唱えるだけなのだ。
 そのうち、法華経七巻の薬王品を繰り返し読誦。
 三度も読んだので、
 話したいこともあるから速く読み進んでくれ給え、と言うと、
   於此命終。
即往安楽世界
   阿弥陀仏。大菩薩衆。囲繞住所。青蓮花中。宝座之上。
 を読み、ほろほろと涙をこぼす。
 読み終わると、念珠を押し揉み、念じ入り
 感じ入った気色で見上げ、
 「今一度対面したかったので、お呼び致しました。
  それでは、これを限りに。」
 と語って死んでしまった。
 呼んでもすぐに人も来なかったが、
 暫くして、分別ある人が現れたものの
 どうにも、不思議なことと言う以外手なし。
 物忌でもなかろうから返ることになったが
 女の顔を思い出すと、心残りで、悲しさが募った。
 女の死後、師家も程なく病死した。
 霊が憑りついたと言われている。


マ、このような話では、法華経読誦の往生譚や霊験とも言い難いから、その他扱いにならざるを得まい。「今昔物語集」編纂者はどこに注目して収載する気になったのかよくわからないが、女性としては恋する男と一緒になりたかった訳で、このような願いに仏教は冷淡ということが気になったのかも。
女としては、好きな男の心をつかめないなら、この世になんの未練もないということだろう。
   [鳩摩羅什[訳]:「妙法蓮華経」藥王菩薩本事品第二十三]
若し如来の滅後の後五百歳の中に 若如來滅後 後五百歳中
若し女人あり 若有女人
是の経典を聞きて説の如く修行せば 聞是經典 如説修行
此に於て命終し 於此命終
即ち安楽世界に往き 即往安樂世界
阿弥陀仏の大菩薩衆の圍繞せる処に住し 阿彌陀佛 大菩薩衆 圍繞住處
蓮華の中に生じ、(宝)座の上に處ぜむ 生蓮華中 處座之上

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