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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.28] ■■■
[364] 俗人女蓮華化生
巻十五本朝 付仏法(僧侶俗人の往生譚)の最後は童だが、その直前は俗人女の6譚が並ぶ。
  [巻十五#48]近江守彦真伴氏往生語
  [巻十五#49]右大弁藤原佐世往生語
  [巻十五#50]藤原氏往生語
  [巻十五#51]伊勢国飯高郡老嫗往生語
  [巻十五#52]加賀国□□郡往生語
  [巻十五#53]近江国坂田郡往生語

すべて、「日本往生極楽記」所収の在俗女性であり、臨終に際して、蓮華化生の象徴としての蓮花、香気、来迎する紫雲、と言った往生の証拠とされる瑞相を見たとの話が掲載されている。
   →「日本往生極楽記」

巻十五全体では、必ずしも、このような証拠が明記されていないものもあるから、正統的極楽往生シーンが描かれていると言ってよいだろう。
   →僧俗男女往生譚の巻[巻十五]

いかにも心の底からの真面目な信仰者の最期を記載しようとの意気を感じさせる記述になっている。
そんなことを感じてしまうのは、この「日本往生極楽記」を纏めた慶滋保胤の出家の様子を描いた話が別巻に収載されているが、その度を越した傾倒ぶりが凄まじいからでもある。保胤を冷笑しているかとも思われるほどで、この女性陣の信仰姿勢との対比が見事と言えなくもない。
   →慶滋保胤

ということで、この6譚を、サラッと眺めておこう。

ただ、その場合、この巻の構成上引用譚を並べているにすぎないと見なしてサラッと読むべきではない。非出家女性が全体としてどのように描かれているか、感じ取ることが重要。
回りくどい言い方だが致し方ない。
これらの話の背景には、非出家者の女性信仰者のどうにもならない生活問題があるが、「今昔物語集」編纂者はそれを垣間見る程度に抑えているからだ。この姿勢は、「今昔物語集」全体に目を通さないと、見えてはこないのが難点なのである。
マ、同じ巻の比丘尼グループを読むと、少しづつ、編纂者の姿勢がわかってくるのだが、そこらはこの後。

[48]
伴彦真は美濃守⇒播磨守⇒近江守(959年)という履歴。
その妻は、"地位"としての名称だけで、友に寝ることはないし、互いに触れることもない。ついには別宅住まいにという、阿弥陀仏信仰者。
貰った琵琶湖の2尾の鮒を隣れみ、井戸に入れたが、狭かろうと悔悟。そこで伴彦真が琵琶湖の広い江に放生。
臨終時、蓮香が家の内部に満ち、紫雲が棚引いた。苦しむことなく、西方に向かって念仏を唱えて息を引き取った。

[49]
右大弁藤原佐世[847-898年]は藤原氏初の儒学者菅雄の子で、あとを受け継いだ文章博士。
山城守 小野喬木の娘は、妾に。念仏・読経を欠かさず。そのうち、兄の僧延教から観無量寿経等の要文を抄出してもらい、昼夜学習し、毎月15日夕刻に五体投地し西方拝礼。親は、止めるように言うが耳に入れず。そして、25才で娘を生み産後死去。
その時には、微妙が音楽が空から聞こえて来た。

[50]
心柔軟で慈悲深い、藤原氏の女。日夜、念仏口唱。
老境に入ったある日、
微妙な音楽が奏でられているのを聞き、往生の相ありと言う。
翌年も、同じことを。少し、音が近づいたた。
sらに次ぎの年、極く間近に聞こえて来て、寝屋の上から。
これぞ往生の時と語って、念仏口唱し、ご臨終に。病とは無縁で苦しむこともなかった。

[51]
伊勢飯高に棲む老嫗は 道心深く、月の前半は15日間の仏事で過ごし、後半は世俗生活を営んでいた。
仏事に当たっては、香を購入し郡内の諸々の寺に持参し供養。さらに、春秋は野山で摘んた花も併せて。又、米・塩・菓子・雑菜等を調整し郡内の諸々の僧に供養し、極楽往生祈願。
数年後、突然、罹病し煩っていたが、子供や家の者達が飲食を勧めて集まって来た時に、突然、起き上がると、着ていた衣が自然と落ちてしまった。そして、右手に7〜8寸の花弁の光り鮮やかな蓮華を持っており、限りに木ほどの馥郁たる香が漂って来た。
来迎者持参の花であると語ったところでご臨終。

[52]
加賀、豊かな資産家の妻は、裕福な暮らしが長かった。夫を亡くし、道心発念し、一人住い。
家に小さな池があり、蓮が生えて花が咲いた。それを見て、この花が盛んな時、極楽往生し、この花を阿弥陀仏に捧げたいと祈願していた。花の季節には、摘んだ蓮の花を郡内のすべての寺の仏に供えた。
そのうち、老境に入って罹病。花の盛りの時期だったので、往生の機縁ありと見て喜んだ。親類・隣人をに呼び集めて酒宴開催。そして、皆に、受けた親切を感謝し、お別れの言葉を語り、亡くなった。
その夜、池に咲いている蓮の花はすべて西を向いた。

[53]
近江坂田(@長浜)の息長氏の女は、心柔軟で因果を悟っていて、道心は深く、日夜念仏口唱。琵琶湖岸の筑摩の入江に咲く蓮花を採り、阿弥陀仏を供養して極楽往生祈願。
臨終時には、紫雲が来て家の内に入って、身体を纏ってしまい、息絶えた。
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