■■■ 太安万侶史観を探る 2014.1.30 ■■■

古事記「初の天降」の史的意味

古事記がまごうかたなき「日本史」であることがわかるのが、天地初発之時に成りし「別~五柱」を記載した冒頭に引き続く箇所。
そこでは、先ず、事績記載無しに、名称紹介だけの「~代七代」が記される。(獨~ニ柱ニ代、十柱各ニ~一代)
一代目は、別神の5柱目である「天之常立ノ~」の名称を引き継いだ形の「國之常立ノ~」。

要するに、霊的動きが、先ず「高天原」で発生し、それが「天」で定常化されたところまでが第1期で、「國」創出の動きが始まるのが第2期と、線引きがされている訳だ。
しかし「國」と称されてはいるが、「地」ではなく、あくまでも高天原での神々の動きである。「地」に「國」を造ろうと霊的勃興があったことになる。
従って、第2〜6代の神々の歴史的位置付けをどう解釈するかは、読み手自由。一般的には、「~代七代」を、以下のような「別~五柱」の流れのアナロジーで考えるべしとされているようだ。
 (1代) 「」があり、そこが神がお成りになれる場に。
 (2-3代) 「霊力」(日:ヒ)「生成」(産巣:ムス)状況に。
    ・・・2つのタイプ(「高」と「神」)が存在。
 (4代) 「」の芽が育つような活発な動きに。
 (5代) それが永久的(常)な「」に。

上記に則って、「~代七代」は連想型解釈がされがち。
 (1代) 「」創生の霊的動きの「」が恒常化。
 (2代) 「雲野」:野に豊かに生気が漲ってくる。
  <男女神による産み出す力が徐々に高まる。>
 (3代) 「泥/砂泥(比地/須比智)」・・・7代目の原型
 (4代) 「杭(杙)」・・・原型の兆し
 (5代) 「と(斗)」・・・性器
 (6代) 「」・・・揃ったことを称賛
 (7代) 「誘(伊邪)
つまり、第3代から、長い時間かかって、ようやく第7代に至ったことを印象付ける表現と見る訳だ。
うーむ。
小生は、それぞれペアの神々が独自の国を造ったと見る。5組のうち、日本列島造りは一番最後だったとの感じがするが。もちろん、他の4組が成功したとは限らない。・・・第7代「伊邪那岐命(凪)」と「伊邪那美命(波)」は、上記のストーリーからすれば 「誘(伊邪)」という核の言葉に、男女と尊崇の表現要素を加えた名称になりそうなもの。ところが、そこに不必要としか思えない海の用語が含まれていそう。従って、「連想」と見る解説はどうにも腑に落ちぬ訳である。
  → 「天地開闢辺りの自然分類考」 [2013.11.19]

それはともかく、上巻第2期「~代」のハイライトは第7代目の事績「国生み」である。
日本史が対象とする地理的範囲を明確に定めており、それがどのように進展してきたかが明瞭に示されている。しかも、それは武人でもある「海人」の地であることも語ってくれている。
ここで、目から鱗なのは、誰が「国生み」を命じたかの記載。諸々の「天ッ~」だというのである。現代でも、場の"空気"を読んでの意思決定とうのは日本の風土と指摘する人は多いようだが、それは原点的なものだったことがよくわかる。
  → 「古事記の社会的位置付け」 [2013.12.13]

凪と波であるから、当然ながら、国は海に浮かぶ島を造ることになる。その創生も、潮からの塩作り行為になっており、最初の嶋は矛という武器が実現したとされている。その「天ノ沼矛」を下賜した神は不詳。玉飾りがらしいが、そう見なす理由は素人にはわからない。そうだとすれば、海人なのだから、「珠(真珠)」ではないかという気がするが。
「原」でこんな行為はできないから、「海」の上に「天」から突き出ている「天ノ浮橋」という場が設定されるのは当然のことだろう。出港行動を暗示しているともとれるのでは。なにせ、「天ノ沼矛」で「淤能碁呂島」を形成して、そこに男女2神が天降るのだから。

そして、なによりも重要なのは、しかして"おのずから成った"島にで初「宮」が設定された点。「八尋殿を見立てたまひき」であり、天皇家の真の本願地はココということにもなろう。島を自ら創出したのだから処女地の筈だが、立派な「宮」は、自ら建造したのではなく、発見したということなので、その昔に住人が存在した地なのかも。
ともあれ、日本の「地」における海人勢力の活動拠点確保が、古事記上巻第2期の骨子と考えてよかろう。

ただ、付け加えるなら、その「宮」より重要な事績が、「天之御柱を見立て」てる行為である。おそらく、高く聳える神々しい樹木を見つけたのだろう。それなくしては、諸々の「天ッ~」と繋がり続けることができないのだと思われる。
海に囲まれた島の現実を考えれば、大木が茂る森なくしては、航海に適した船は作りようが無い訳で、巨大柱信仰こそが日本に於ける"海人"的な原初信仰であることを示していると言ってよいと思われる。

(使用テキスト)
旧版岩波文庫 校注:幸田成友 1951---底本は「古訓古事記」(本居宣長)
新編日本古典文学全集 小学館 校注:山口佳紀/神野志隆光 1997

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