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■■■ 「古事記」解釈 [2021.4.27] ■■■
[116] ギリシア神話との比較論議
"古事記の魅力は神話にあり。"は、わからないでもないが、神話の概念が欠落したままの情緒的発言であることには十分注意を払う必要があろう。

代表的神話と言えば、ギリシア神話になるので、「古事記」をその範疇に収めてしまうことになってしまうが、それでよいのか考えるべき、と言うこと。
日本人にとっては、ギリシア神話は難物であるから尚更のこと。

どの神も、それこそ自由奔放な行動そのもので、しかも、人間まで絡みあった色恋沙汰だらけとくる。
確かに、ソレは神々の物語ではあるものの、それぞれの神に対してどのような信仰があったのか想像もつかない。早くに、神話の神々への信仰は切り捨てられてしまったので、文芸作品としてしか読むことしかできないから致し方ないが。

インドの叙事詩や、「古事記」のように、そこでのストーリ―がママ信仰の原点として現在も生き続けているのとは大違い。
果たして、両者を同一地平で考えてよいのか、疑問を覚えないでもない。

・・・そんな感覚があるので、ギリシア神話と古事記の比較はよそうと思っていたが、素人的に語族の話をしてしまったので、触れておくのが筋と思い直し、取り上げることにした。

と言うことで、本筋とは少々外れるが、Wikiを眺めることから。高校の授業で研究発表させられて以来ご無沙汰だったソクラテス。[前469-前399年 @プラトン:「パイドロス」]・・・
 ソクラテス曰く:
  神話の寓意を現実的・合理的に解釈・説明すれば、
  昨今の風潮に合うが、
  そのように神話・伝承を片っ端から全て
  合理的に解釈していこうとするとキリが無い。
  自分に関係の無い様々なことに
  考えを巡らすのは笑止千万であるから、
  一般に認められている習わしはそのまま信じることにしている。

なかなかに鋭い指摘では。現代の、詳細分析以上ではない学問の薄っぺらさがよくわかるお言葉。

それはともかく、ギリシア神話には「古事記」収載譚と類似のモチーフが極めて多いと言われているらしい。小生は余り感じないが。
ただ、それは印欧語族の祖語から派生するような系統上の類似性とは違うようだ。成立年代が、紀元前8世紀と8世紀ととんでもなくかけ離れたての比較だから、少なくとも類似のマーカーをはっきり定義すべきだと思うが、そのレベルで語れる類似性ではなさそう。しかし、<①ギリシアからの伝播>説を支持する人は少なくないのかも。
その場合、ステップの道を介して日本列島に伝わったと考えることになるようだ。神話を受け入れる理由としては、星座を覚えるということでは絶大な価値があるが、もともと星座で位置を時を知るスキルなくしては生きていけない民であり、ギリシアから教えてもらう必要性があったとは思えないし、星座を教えることで信仰が広がるとも思えず納得できないが、他のルードよりは親和性ありということだろうか。
(仏像台座文様やエンタシス型柱の存在に、シルクロード経由のギリシア文化の流入を見付けることはできるが、年代が全く違う。)

しかし、動物でよく見かける<②平行進化>の様に、環境条件が似ていれば、同様な神話が生まれる可能性もあり、なんとも言い難しだ。

ただ、それにしては、類似点が余りに多いというなら、もうと一つの<③同根>説を検討対象にあげてしかるべきだろう。
レヴァント〜キプロス〜多島海に向かった流れと、アラビア海〜インド洋〜スンダ〜西太平洋島嶼の流れという、海人文化圏伝播と見ることになろう。もちろん、東行は、末端にしかその文化が残っていないと考えることになる。
もともとギリシア神話は、書によっての違いも大きいし、その増補改定版とも言うべき、後代のローマ編纂まで様々なバージョンがあるのだから、寄せ集めて成立したと見て間違いなかろう。従って、同根といっても、1つから派生したと考えるべきではなかろう。
この場合、冒頭のソクラテスの話からすると、すでに、この時代、神話がナニガナニヤラ状態だったことがわかる。物語的著述化されて面白くわかり易いが、どう解釈すべきかは皆目わからずなのだ。
そんな話が伝播する訳がなく、"神話"伝播時代は、物語に達していない粗削りの断片的なイメージとしての神々だった可能性があろう。
「古事記」には、名前しか伝わっていない神々が数多いが、それはそんな時代を反映しているのかも。

これ以上、いくら検討したところで、ソクラテスの言うように、たいした意味はないから、これ位にして、なんとなく気になる部分を見ておくこととしよう。

●神々の住む地"オリュンポス"(山々)
高天原と違って、天という抽象的な場所ではない。
ギリシャ テッサリア地方の最高峰で、標高3,000m弱にすぎないが、欧州観念からすれば高山に類する。セルマイコス湾南西の僅か80Kmに位置しているので、山麓は"海際"そのもの。多島海世界であるから、様々な神々(12柱)が並立存在しており、島嶼の海人達の連合国家的な世界が構築されていたのだろう。
基本12神(男6柱+女6柱)⓬とされている。
聖数12は、西洋文化のベースであるが、中華帝国でも時や方位等々に使われており、どこからどのようにして生まれたのか気になるところだ。「古事記」は倭はその数字とは無縁としているようだが、神代7代も実は12柱という主張をする人が出て来てもおかしくない。

ウーラノス[初代王権]…天の神  #↓
└┬▲ガイア…原初の大地大神
├┬┬//┐…12柱(巨大な体を持つティーターンの一族)
┼┼▲(テミス)  *↓
┼┼┼●イーアペトス
┼┼┼└────┬▲クリュメネー
┼┼┼┼┼┼┼プロメーテウス・・・etc.
┌────┘末子
クロノス[次代王権]
└┬▲レアー
├─┬┬─┬┬┐
ゼウス⓬[三代王権]
ポセイドーン
││ハーデース
││└││─┬▲(ペルセポネー) ※↓
││┼┼││
││┼┼デーメーテール
│└─┬┤│
┼┼┼││
└───┬─┘│
┼┼┼コレー/ペルセポネー____※↑
┼┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┼▲ヘスティアー

└┬ヘーラー⓬正妻
┼┼├┐
┼┼ヘーパイストス
┼┼┼●アレース

└┬テミス二番目の妻 *↑
┼┼▲ホーライ3姉妹・モイライ3姉妹

└┬メーティス一番目の妻
┼┼アテーナー

└┬▲レートー
┼┼├┐
┼┼●アポローン
┼┼▲アルテミス
┼┼└┬▲カリオペー
┼┼┼オルフェウス
┼┼┼└┬エウリュディケー

└┬▲マイア
┼┼●ヘルメース

└┬▲ディオーネー
┼┼│┌─(ウーラノスの切断された男根@大海)  #↑
┼┼▲アプロディーテー

└┬▲セメレー
┼┼●ディオニューソス

└┬△ダナエー(アルゴス王アクリシオスの娘)
┼┼ペルセウス
┼┼└┬アンドロメダー┼┼┼┼
┼┼┼┼┼(エチオピア王ケーペウス+王妃カッシオペイアの王女)

●3神分治
 [主神]ゼウス…天空
 ポセイドーン…海
 ハーデース…冥界

●姉弟婚
ゼウスによる馬的交わりで豊穣神デーメーテールは出産
別譚ではポセイドーンが避けるため牝馬の姿となったデーメーテーを牡馬の姿となって交わった。
生き残った二人が結婚して子孫を増やすという話は、ヒトの起源譚としては珍しいものではない。姉弟婚は彦姫制度的女系社会に親和性があるからだ。多島海では、女神信仰が基本だったということかも知れない。
それよりは、天皇記譜に於ける近親婚による"濃い"血脈志向とよく似た風土に映る点が特筆モノ。
中華帝国は儒教のため宗族第一主義となる。この場合、近親婚は絶対的禁忌。(異姓婚が原則。例外的に養子に出しての、宗族内婚が行われることはあるが例外的。)

●奇形の第1子を海に投棄
ゼウスの前妻テミスが立派な子をつくったので、正妻名誉をかけて、ヘーラーは子供を産むが、両足の曲がった醜い奇形児が誕生。山頂から海に投げ捨てた。

●冥府脱出
竪琴名手オルフェウスは毒蛇に噛まれて死んだ妻エウリュディケーを、冥界王ハーデースの許しを得て取り戻したが、約束を守らず、妻の姿を見ようとに後ろを振り向いてしまい失敗。
これは、密儀宗教オルフェウス教創始譚でもある。
 ・神と人の創始記載経典≒物語
 ・肉体的輪廻転生≒精神的悲しみの輪の観念が土台
 ・悲しみの輪からの解脱宗教=神々との交感儀式
(入信の秘儀)
 ・禁欲的倫理道徳を遵守する生活
(犯せば死後罰)

●冥界食の掟
ハーデースに誘拐されていた、女神デーメーテールの娘ペルセポネーは冥界から解放されることになった。その際、出された柘榴の実を食べてしまい、帰還したものの、再び戻らねばならなくなった。

○正統性を示すための、術を駆使した賭け勝負
アテーナーとポセイドーンは地域争いを繰り広げたので、オリュンポスの神々は、人間に最高の贈り物をした方に治めさせることに。アテーナーはオリーブ植生、ポセイドーンは塩水泉湧出で、結果、アテーナー勝利。

○怒りで閉じこもった女神のため世界は飢餓状態
女神デーメーテールは娘ペルセポネーを誘拐されたが、夫のゼウスが許可していたことを知り激怒。オリュンポスを離れ、エレウシスで王子デモポンの乳母になり、神にしようと考え身体を焼く儀式を行った。それを見た実母が邪魔をしたので、王宮を離れ神殿に閉じ籠ってしまった。豊穣の女神なので、人間は飢餓に直面。
この話は、人が神になるエレウシスの密儀が関係している。道教の神仙化のような概念なのだろう。
〇性器露出で笑わせ、神の機嫌を回復
悲しみに沈んで何も口にしない女神に対し、接待役のバウボという女が自分の性器を見せ、笑わせ、大地の生産力を回復させた。

●怪獣の生贄となった美女を助けて結婚
ティツィアーノ・ヴェチェッリオの絵画で知られる。[以下Wiki:エチオピア王国は美しさを鼻にかけた王妃カシオペアによって支配されていた。カシオペアは自身と娘アンドロメダの美しさが、海神ポセイドンに仕える海のニンフであるネレイデスより優れていると主張した。ネレイデスがカシオペアの言動に気づくと彼女たちは激怒してポセイドンに抗議し、ポセイドンはエチオピアの海岸を荒廃させ、カシオペアの王国を危険にさらすためにケートスあるいは海の怪物を呼び出して報復した。王妃は夫ケーペウスともに、ゼウス・アンモンの神託に従って、アンドロメダを怪物に捧げることに決めた。メデューサ退治から空を飛んで戻ってきたペルセウスは、怪物を倒してアンドロメダを救出し、そしてその後アンドロメダと結婚した。]

○助けを借りて難題をパス
ローマの追補版。
3人姉妹の王女の末娘プシューケーはアプロディーテーから数々の難題を出されたが、その都度助けを得る。
 膨大な穀類を一日で選別する。…蟻が助ける。
 凶暴な黄金羊の毛を収集する。…河の神が助ける。
 竜が守る忘却の泉の水を汲ん来る。…鷲が助ける。
 冥界にある"美"入りの箱を貰って来る。…エロスが助ける。

○人間は死ぬ運命に
[以下Wiki:ゼウスが人間と神を区別しようと考えた際、プロメーテウスはその役割を自分に任せて欲しいと懇願し了承を得た。彼は大きな牛を殺して二つに分け、一方は肉と内臓を食べられない皮で包み、もう一方は骨の周りに脂身を巻きつけて美味しそうに見せた。そしてゼウスを呼ぶと、どちらかを神々の取り分として選ぶよう求めた。プロメーテウスはゼウスが美味しそうに見える脂身に巻かれた骨を選び、人間の取り分が美味しくて栄養のある肉や内臓になるように計画していた。ゼウスは騙されて脂身に包まれた骨を選んでしまい、怒って人類から火を取り上げた。この時から人間は、肉や内臓のように死ねばすぐに腐ってなくなってしまう運命を持つようになった。(神は不死。)]

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