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■■■ 「古事記」解釈 [2021.11.26] ■■■
[329]枕詞「あまだむ」は"軽"専用
軽の地は、下つ道と山田道が交差する辺りを言う。宮地ももちろん存在する。・・・
  軽之境岡宮…[4]大倭日子鉏友命/懿徳天皇
  軽之堺原宮…[8]大倭根子日子国玖琉命/孝元天皇
  軽嶋明宮…[15]品陀和気命/大鞆和気命/応神天皇
ただ、地名としては、"輕池"もよく知られている。
   (伊久米伊理毘古伊佐知命@師木玉垣宮/[11]垂仁天皇)
  率遊其御子之狀者
  在於尾張之相津二俣榲作二俣小舟而持上來
  以 浮 倭之市師池"
輕池" 率遊其御子
それが、軽の地の溜池と言ってよいのかはなんとも。伊波礼や師木の近辺にあってしかるべしと思うからだが。以下の歌からすれば、剣池ともども、現在の池が比定地ということになるが。
[「萬葉集」巻三#390 譬喩歌 紀皇女御歌一首]
  軽の池の浦廻行き廻る すらに
  玉藻の上に ひとり寝なくに


もっとも、一番有名な「軽」といえば、なんといっても木梨之軽太子-軽大娘女譚だろう。
だからこその、枕詞発生とも言える訳で。
  男淺津間若子宿禰命@遠飛鳥宮/[19]允恭天皇
  為木梨之軽太子御名代定軽部

と言うことで、以下の3首【天田振】が収載されているからこその枕詞とも言える訳で。

  天だむ[阿麻陀牟] 軽の乙女[袁登賣]
  甚泣かば 人知りぬべし
  波佐の山の 鳩の下泣きに泣く


  天だむ 軽の乙女
  したたにも 寄り寝て通れ 軽乙女ども


  天飛ぶ 鳥も遣ひそ 鶴が音の 聞えむ時は 我が名問はさね

"あまだむ"は"天だむ"とされているが、そのように書いたところで、どのような意味かはさっぱりわからぬ。現代人なら、"雨ダム(貯む)"とでも解釈するしかなさそうな言葉だからだ。

オットット。
"あまだむ"とばかり思っていたら、普通は"あまとぶや"を使うらしい。5文字でないと使いにくいから、ソリャそうかも。2種の枕詞に映るが、元は同一と見られているらしい。
  あまだむ →
  天飛ぶや → 雁 領巾

そうなると、後者は、雁あるいは鳥にかかる枕詞であるのは自明だから、"天飛ぶや"⇒"天飛む/あまだむ"と訛的に変化して、軽にかかるようになった、と解釈するしかあるまい。その場合、領巾はよくわかるが、軽は地名であり、音がカリと似ているから使われたとの理屈になるらしい。"天飛ばんなむ カリ"ということなのだろうか。

理屈をつけるなら、雁は"天飛ぶや"だが、鴨の場合はその詞は意味上変化せざるを得なかったと、すべきだろう。
軽池に棲む鴨は、夏には飛んで行ってしまい不在の雁のような渡り鳥ではないからだ。もちろん、その地で繁殖。飛んで行くといっても、せいぜいが奈良盆地止内。しかし、人々同様に、それなりに活発。
軽は、下ッ道と、磯城・磐余から来る山田道の交差点でもあるからだ。・・・
┼┼┼┼下道
┼┼──┬─────石上
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┼┼師木上道
当麻←┼─横道───□→海石榴長谷
┼┼┼┼┼┼┼伊波礼
┼┼┼┼←────┘山田道
[「萬葉集」巻二#207 (挽歌 人麻呂歌)]
天飛ぶや[天飛也] 軽の路[軽路者]
我妹子が 里にしあれば ねもころに 見まく欲しけど やまず行かば 人目を多み 数多く行かば 人知りぬべみ さね葛 後も逢はむと 大船の 思ひ頼みて 玉かぎる 岩垣淵の 隠りのみ 恋ひつつあるに 渡る日の 暮れぬるがごと 照る月の 雲隠るごと 沖つ藻の 靡きし妹は 黄葉の 過ぎて去にきと 玉梓の 使の言へば 梓弓 音に聞きて 言はむすべ 為むすべ知らに 音のみを 聞きてありえねば 我が恋ふる 千重の一重も 慰もる 心もありやと
我妹子が やまず出で見し 軽の市
我が立ち聞けば 玉たすき 畝傍の山に 鳴く鳥の 声も聞こえず 玉桙の 道行く人も ひとりだに 似てし行かねば すべをなみ 妹が名呼びて 袖ぞ振りつる
[「萬葉集」巻四#543 (笠朝臣金村歌)]
大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は
天飛ぶや 軽の路より
玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど 手弱女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと 立ちてつまづく
[「萬葉集」巻十一#2656 寄物陳思]
天飛ぶや 軽の社の 斎ひ槻
幾世まで有らむ 隠妻そも
[「萬葉集」巻十五#3676 引津亭舶泊之作歌七首]
天飛ぶや を使に 得てしかも
奈良の都に 言告げ遣らむ
[「萬葉集」巻八#1520 山上憶良七夕歌十二首]
・・・久方の 天の川原に
天飛ぶや 領巾片敷き・・・
("ひさかたの あまとぶ雲"という用法もあり、特別な表現ではなさそう。)

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