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■■■ 「古事記」解釈 [2023.5.27] ■■■
[702] 「古事記」仮名 無介音
<那良><乃羅>等々のナラ表記について眺めたので📖(固執字)、<ラ>についても語っておく必要があろう。
<ラ>音表記には、太安万侶の苦労が偲ばれることもあるし。

(良の初画)(〃) [萬]…良

≪良≫
  [呉音]ロウ [漢音]リョウ [慣用音]ラ [訓]よ-い い-い まこと-に やや
   [吳語]lian[客家語]liòng

  [用例]宇良須能登理叙:うらすのとりぞ 牟良登理能:むらとりの

"慣用音"としたが、【略音】である。
どういうことかと言えば、現代呉地区発音<lian> v.s. 古事記推奨発音<la>とみるから。古代呉音は<lïaŋ>で、プレ古代呉音が<la>の可能性高しと言う事。

漢語とは、1文字表現言語であり、その発声構造は決められている。文字の王朝管理に厳格である儒教国である以上、おそらく変更できない。・・・
頭子音【声母】+補助母音/介音【韻頭】+主母音【韻腹】+末音【韻尾】

この構造では、そのまま倭語に持ち込みようがない。そもそも子音の独立発音ができないから末音に子音を持ってこれない。(最小発声単位は剥き出しの母音か子音前置装飾の母音。)さらに厄介なのは、二重母音がタブーな点。
従って、以下の2箇所が問題となる。・・・
【介音】i/ï u/ü ⇒iu w ⇒ i u y
【韻尾】[重母音末]-ø -i -u [鼻音]-m -n -ŋ [閉鎖音]-p -t -k ʔ(無声)

ということは、<良>の音はこうだったのかも。
【声母】l+【韻頭/介音】ï+【韻腹】a+【韻尾】 or ʔ
【韻尾】はもともと無視するしかないものの、介音を勝手に消す訳にもいかないから、漢語も、古くは介音レスだった可能性があり、太安万侶はそのプレ呉音の発音を登用したのと違うか。

ちなみに<ナラ>の≪樂≫は呉音だけで、ゲウ ガク ラクと様々で仮名には不適である。さらに、me[乙]の用法まである。
  小集樂尓出而:をづめにいでて[巻十六#3808]

<ら>にはもう一つよく使う文字があるが、こちらは介音レスであり、例外的ということになろう。
≪羅≫
  [呉漢音]ラ [訓]あみ つらねる うすもの [吳語]lu[客家語]lò [官語]luó
  [用例]袁夫泥都羅羅玖:をぶねつららく
尚、素人からすれば、<さ>読みは無理があり過ぎる。
        音之清羅:音のさやけさ[巻七#1159]
        羅丹津蚊經:さ丹つかふ[巻十六#3791]
          前者はせいぜいが"さやなり"止まり。
          後者は"丹付"の駄洒落で"うすもの"だろう。


もう一文字付け加える必要があるか。
≪等≫
  [呉漢音]タイ トゥ [訓]ひと-しい おな-じ など ら [吳語]ten[客家語]lún
"〜等"の読みのルールは不明である。
 ら
 とう ども たち
拍の都合で1音にすることもありそうだ。
 to[乙]  等母迩斯都米婆:ともにしつめば
  (do[乙]) 和例久礼等:われくれど[巻二十#4344]
  (れ)   世人吾等者:世の人我れは[巻七#1269]
異なる意味で"ひとし"とすることも。

ともあれ「萬葉集」は仮名のコンセプトが無いに等しい。
"有"の読みなど自由自在。・・・う か し む ら り る れ

以下も「古事記」では<ラ>の用例がなさそう。・・・
有(u ka si mu ra ri ru re) 在(si ni ra ri ru re) 莫(zu na ne ra) 楽(me乙 ra) 柄(ye ra) 荒(so ra) 卜(ke ra) 裏(ra ri)
浦(ra) 麻通羅佐用嬪面=麻都良〜=松浦〜
浪(ra) 安我故非乎浪牟:我が恋ひ居らむ
郎(ra) 中臣朝臣武カ自


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