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■■■ 「古事記」解釈 [2023.9.10] ■■■
[802] 太安万侶:「漢倭辞典」🖇
突然、<坂>という名詞を取り上げたので📖、バラバラ記述感を与えてしまったが、導入部として取り上げてみただけ。<境⇒坂>ではなく、<割く処⇒さか⇒さか-い⇒堺/境>と考えた方が自然ですゾ、が伝わればヨシ。
間違ってもらってはこまるが、この語源説が正しいとの主張を繰り広げたい訳ではない。それこそ、全くの間違いでも一向に構わない。重要なのは、基本名詞⇒類縁名詞という変化の論理が欠落したままの情緒的変遷説は信用しない方がよいと述べているに過ぎない。

つまらぬこだわりに見えるだろうが、太安万侶はここらをわきまえていると思うからだ。現代用語で言えば、倭語が膠着語であると自覚していたとなろう。
このセンス、もしかすると、ロシア語に触れていないとわからないかも知れないので、時間があれば、1日だけ、ロシア語修得を試みるのも悪くないと思う。小生の知識はそのレベルに達していないし、目的を考えれば、それで十分過ぎるほど。要は、露語(屈折語)ー漢語(孤立語)ー倭語/日本語(膠着語)の違いを実感さえできれば十分。(英語は中途半端なので比較対象には不向き。)
【屈折語】語彙の語形変化で(Inflectional)文中の相互関係を示すことで文章が成立。
  …非アジア(印欧諸国語+セム族語)の特質とされる。
【膠着語】語彙の語根と接辞の連続結合(Agglutinative)で文章が成立。
  …チュルク/トルコ以東の言語
    +欧州内アジア系人種飛び地(フィン語 マジャール/ハンガリア語)
【孤立語】語彙は変化せず、文中の順位による文法に基づいて文章が成立。
  …漢語 シャム/タイ語(普通はチベットが入っているがおそらくは膠着語)
【抱合語】動詞中心。前後に他の語彙を配して一語化。
  …アイヌ語 アメリカインディアン語

(この4分類は、サンスクリットが存在したために系譜が辿れる印欧語と、その範疇に入らないトルコ語とその類縁という視点から生まれたと考えた方がよい。)

以下は、小生の勝手な露語的語彙分類だが、この様に整理するとわかり易い。これをスタンダードとして、漢語・倭語/日本語を眺めた方がよい。・・・この分類で直ぐに気付くと思うが、矢鱈に理念的。言語は精緻な規則に従うべきと考えないと、こうはなるまい。はたして、この観点で、比較する意味があるのか、と疑問を抱かざるを得まい。(以下は用語は同じでも、習う文法とは違うのでご注意のほど。)

≪名詞・形容詞(≒複合名詞)・数詞・代名詞≫
  …語幹:意味 語尾変化:文で果たす機能
これらの語彙は3つの視点で語尾活用することになる。
 ❶【格】8分類
 主格(体)…主語形
 呼格…呼び掛け形
 対格(業)…直接目的語形
 具格(作/助)…方法を示す形
 与格(為)…間接目的語形
 奪格(従)…(出発点 or 起源から)離れることを示す形
 属格(所有)…所属を表す形
 処格(於/地/位置/所/依)…場所を示す形
 ❷【性】3分類
 男性 女性 中性
 ❸【数】3分類
 単数 両数 複数
文構造言語では、名詞類を活用させるのが正統的。その性情を細かく定義付けることも必要となる。それを省いて表記化すると誤認を招くからだ。相対話語では、面倒なだけだが、書類統治を進めたいなら当たり前の流れ。表意文字の導入は厳禁である。

≪動詞≫
  …母音幹活用(e.g.4種)+子音幹活用(e.g.6種)
動詞は必ず主語格の名詞相当語彙が存在する。従って、主語に応じて自動的に3x3変化する。
 ❶【人称】3分類
 1 2 3
 ❷【数】3分類
 単 両 複
さらに、動作状況の叙述のために3条件の活用が必要となる。
 ❶【態】2+1分類
 能動(他人) 反射(中動/自分){一部が受動[再帰動詞]}
 ❷【時称】5分類
 現在 過去 完了 アオリスト 未来
 ❸【法】5分類
 直説 命令 希求(願望) 条件 祈願(希求法のアオリスト)
 ㊉(【2次的活用】受動 使役 意欲 強意)
ここに<動詞化名詞・形容詞>が加わる。

上記以外は、付け足し的位置付けとなる。・・・
≪準動詞≫
 ○分詞(形容詞化動詞)
  …現在 未来 完了 過去能動 過去受動 未来受動
 ○不定詞(名詞化動詞)

≪不変化詞≫
 ○前置詞(絶対詞・副詞)+接辞
 ○接続詞
 ○間投詞

こうした精緻化を複雑化と見なすかは、宗教的価値観の問題と絡んでいそうなので、なんとも言い難いが、「古事記」のいい加減な文字表記でも読むことができる倭語とは言語に対する姿勢が180度違う。話語であることを差し引いても、できうる範囲での単純化を旨としていそう。

ただ、そう捉えてしまうと、名詞自体が変化する点を軽く考えてしまいかねないので、単純 v.s. 複雑に拘らない方がよい。
複雑と言っても、主語の人称・数・性の表現は社会的なものであり、出自や状況でさらなる表現が加わることもあるから見かけと違って複雑だったりするし、格とは文章構成上での当該単語の位置付けだから、表現上の重要度は社会生活パターンで変わって当然なので単純に見えて実は錯綜しているだけかも知れない訳で。

つまり、ここで云うところの"複雑化"とは、文構成の核が名詞であるということに尽きる。"単純化"傾向が見てとれる倭語では、これが動詞ということ。(膠着語の日本語と抱合語のアイヌ語は、お隣同士にもかかわらず、語彙も文法もほとんど類似性が無い。しかし、動詞=述語文型であると共に、名詞=主語の存在をいかにも軽視しているように映り、明らかに動詞を核とする文にしている点では両者は同類。このことは、文字表記以前の話語はそうならざるを得なかったということを示唆していそう。文字表記化すると、経典言語の絶対崇高性を示す必要から精緻な理屈を創出したくなるということでもあろう。印欧語の系譜とはソレを眺めているだけとも云えよう。…日本の仏教経典はすべて漢語表記で漢語読みで、日本語化されることは無いし、神道にはそもそも経典自体が無い。)

・・・要するに、屈折語・膠着語・孤立語は、その通りなのだが、定義が政治経済的な時代性の虜になっているため、表層的な分類になっている可能性が高いということ。露語・日本語・漢語がそれぞれの"純"指標となるが、他は混沌としており、互いに影響を与えていることがわかる。例えば、チベット語は孤立語を抱えた膠着語見てもかまわないし、フィン語は屈折語的膠着語で、英語は孤立語風屈折語とせざるを得ない。
そうなると、ユーラシア語の大まかなスキームは以下の様になる。「古事記」が、この祖語の面影を有している筈との見方。文字化は単なる表記にあらずで、言語が一変したと考えているからだ。つまり、「古事記」を読むとは、その過程を探ることでもある。(アイヌ語はもとより、大陸北方諸語、東南アジア離島諸語、雲貴〜ヒマラヤ少数民族語は、すでに各国語の影響下で話者自体が完璧に大変化を遂げており、母集団設定自体が恣意的で、今からこの辺りをいくら研究したところで古代語の残渣は辿りようがあるまい。意味ありそうな情報はピンポイントの過去研究報告だけ。こうなると、712年という極めて新しい時代に成立している書ではあっても、「古事記」から、話語⇒文字化語の過程を推定するしか手はなかろう。その一般化が可能かは、なんとも言い難しだが。解決には、四川域で、酉陽窟が発見され、古代の文字化言語情報が得られることを期待するしかなさそう。)
呪記号

ユーラシア話語(祖)…おそらく動詞母音語

├(原抱合話語)…動詞語
↓極東列島の吹き溜まり残渣
└───アイヌ諸語…統一語欠落・多種(非方言)乱立

├(原膠着話語)…本来的には母音語
↓極東列島の吹き溜まり残渣
│┌─南島祖語…「古事記」海神宮言語
└┤└先島諸島諸語…発音単純化語
┼┼└─倭語…1拍音語+雑種言語
┼┼┼┼「古事記」認定の文章構成用文字による表記化で確定。
┼┼┼┼└原初日本語
 子音語化
├─┴(表意文字規定口誦宮廷語)─n.a.…おそらく中華帝国圏外
└─(単音節孤立語)─漢語"類"…話語は多数乱立
 子音語化
└─┴(表音文字表記口誦聖典語)──サンスクリット語
┼┼└┬┘
┼┼┼(表音文字規定諸語)…表音化失敗
┼┼┼┼├(聖書系)──多くの印欧語
┼┼┼┼└("正書"化語:屈折語)─露語 etc.
┼┼┼┼└(非聖書系:非屈折語)──多数

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