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■■■ 「古事記」解釈 [2022.10.8] ■■■
[歌鑑賞6]八千矛の…吾はもよ女にしあれば
【須勢理毘賣命】~語契り再確認
夜知富許能やちほこの 加微能美許登夜かみのみことや 阿賀淤富久邇奴斯わがをふくにぬし 那許曾波なこそは 遠邇伊麻世婆をにいませば 宇知微流うちみる 斯麻能佐岐耶岐しまのさきさき 加岐微流かきみる 伊蘇能佐岐淤知受いそのさきをちず 和加久佐能わかくさの 都麻母多勢良米つまもたせらめ 阿波母與あはもよ 賣邇斯阿禮婆めにしあれば 那遠岐弖なをきて 遠波那志をはなし 那遠岐弖なをきて 都麻波那斯つまはなし 阿夜加岐能あやかきの 布波夜賀斯多爾ふはやがしたに 牟斯夫須麻むきふすま 爾古夜賀斯多爾にこやかしたに 多久夫須麻たくふすま 佐夜具賀斯多爾さやぐかしたに 阿和由岐能あわゆきの 和加夜流牟泥遠わかやるむねを 多久豆怒能たくづのの 斯路岐多陀牟岐しろきただむき 曾陀多岐そだたき 多多岐麻那賀理たたきまながり 麻多麻傳またまて 多麻傳佐斯麻岐たまてさしまき 毛毛那賀邇ももなかに 伊遠斯那世いをしなせ 登與美岐とよみき 多弖麻都良世たてまつらせ
㉟(5-7)-8-(4-6)-(4-7)-(4-8)-(5-7)-(4-6)-(4-4)-(4-5)-(5-7)-(5-7)-(5-7)-(5-7)-(5-7)-(4-7)-(4-7)-(5-5)-(4-6)
    爾 其后
    取大御酒坏
    立依指擧 而
    歌曰

歌の後ろに、地文と、太安万侶による解題文が1行付属している。
    如此歌        かく(如此:かくのごとし)歌ひて
    即爲         そこにて(即:すなはち)
    "宇伎由比" 而     盃を取り交わし
    "宇那賀氣理弖"    手を懸け寄り合ひ
    至今鎭坐也      今もお鎮まりに なられし
      此謂之 神語也

八千矛の  膨大な数の矛を支配されている
神の命や  神である命は
吾が大国主  我の大国主

汝こそは  汝こそは
男に坐せば  男に有らせられ
打ち見る  とりのけつつ 廻り見巡ること
嶋の先や来  島々の先々まで
掻き廻る  かきわけつつ 廻り見巡ること
磯の埼落ちず  磯々の隅々まで
若草の  (そして)若草の(様な)
妻持たせらめ  妻を獲得し

吾はもよ  吾はなんといっても
女にしあれば  女ですから
汝招きて  汝を呼び寄せ
男は為し  男とし
汝招きて  汝を呼び寄せ
妻は為し  妻となり

綾垣の  織物の
ふはやが下に  ふんわりしたものの下に
苧衾  苧衾の
柔やが下に  柔らかいものの下に
栲衾  栲衾の
さやぐ下に  さやさやしたものの下に
沫雪の  沫雪の(様に)
若やる胸を  若々しく(ふんわりした)胸を
栲綱の  栲綱の(様に)
白き腕  (真っ)白な腕
素手抱き  素手で抱いて
手抱きまながり  抱いている手で愛撫し
真玉手  本当に玉の様な手で
玉手差し枕き  (その)玉の様な手を(互いに)差し回して枕事をされたら
股長に  (手を枕にして) 腿を(ゆったりと)長く伸ばされて
寝を為寝させ  (ぐっすりと)御休みになされますものを

豊御酒  素晴らしい御酒を
奉らせ  お召し上がり下され

なかなかの対応。
嫉妬の感情など微塵も感じさせないのだから。

男なら、島々の端っこ迄、磯の岬という岬まで、八千矛の神として見分して周るのでしょうから、至る所に地場の"女"が居るでしょうが、女は男といえば、大国主しかおりませぬ、と先ずは言い切る。
そして、枕事での睦会いこそ夫婦というものと、説得にかかる。
出雲の寝室の心地良さを、素敵な織物を詠みこむことで、想起させる手法がもちいられている。
そして、八千矛の神お馴染みの、定番の睦事の歓びを高らかに詠う。この部分は、沼河日売の誘惑とほとんど同じなのが面白い。

そして、一献。

こうなったのでは、大国主命は出立取り止めしかあるまい。寝室直行と云うことになろう。少々単純過ぎる展開ではあるものの。

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