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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2016.12.11 ■■■

母子草の名称

わかる、その気分。

誰でも知っている草だが、ヘンテコな名前だとどうしても気になる。
少し調べると、さらにゴタゴタしているのが見えてきたりして、一体全体どうなっているのか不満がうまれてくる。
いい加減な解説が多いこともわかってきたりして。

そんな一文ではないか。・・・

蜉酒草,一曰鼠耳,象形也。
亦曰無心草。

  [卷十九 廣動植類之四 草篇]

or 清明草/母子草 or 御形/Jersey Cudweedのことである。

日本での名称である母子草は、牧野創作説では、"ほおける"草から来たとなる。ソリャ、逆だろう。それに、ホルモン同様に、良い言葉ではないし。

ともあれ、ハハコクサは古い和名なのだ。
素人感覚では、古代人にとっては「白い人形の形代」イメージに映ったろうから、その辺りの言葉が発祥と考えるべきとなる。
大和言葉なら、母子形代草だからハハコクサになるし、漢字表現なら、御形代草でゴギョウとされただけのこと。まともな教育を受けていれば、そんなことはすぐにわかるが、わからないふりをするのが礼儀である。どうでもよいことで、大先生をけなす失礼などあってはならぬこと。
もちろん、用途から、餅草とも呼ばれていたに違いない。その後、その地位を蓬に奪われたので呼ばれなくなった訳だが。もっとも、蓬の替りに使うこともあったろうから、そんな時は田艾/田蓬と呼んだであろう。

大陸の場合も、それほど難しい話ではない。

鼠の耳の象形で、鼠耳草とされるのはわかる気がする。
田圃の傍らに生え、矢鱈に白っぽいので目立つから、何時も気になる鼠の姿になぞらえただけ。
気分良い言葉ではなかったようで、佛耳草に変えたりしたようだ。
これは、あくまでも葉に注目した言葉であって、花も含めた全草で呼ぶなら、鼠草が似つかわしい。
頭に、いかにも麹菌の黄色い粒があるような風体なのだから。
ともあれ、鼠という呼び名は捨てがたかろう。その理由は葉に無数の毛が生えているから。代替の毛モノが思いつかなければ、鼠をそのまま使うしかあるまい。言うまでもないが、この毛があるからこそ、餅草として使えるのである。

清明草というのは、清明節の餅に用いたからであろう。無心草もその辺りから派生したのではあるまいか。

このように見ていけば、蜉酒草もどうということはない。
蜉は、うようよと集団で動き回って木材を喰う白蟻を意味している。毛が生えていると見るのではなく、白い木屑の粉で葺かれた様子そっくりというのであろう。そして、麹の替りに酒をあてた訳だ。白蟻の卵が珍味の地域もある位だから、ゲテモノイメージがある訳ではない。尚、なんでも滋養強壮になると考える風土だから、白蟻酒も存在しているようだ。(浙江産)

ついでながら、近縁の父子草だが、色気がないからそのように名付けたというもっともらしい話がある。理由はともかく、日本はこの手の命名は好きではないか。
中国語では、単に、細葉鼠草、あるいは、白背鼠草。天地白と言われたりもする。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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