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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.1.2 ■■■

月の見方

「酉陽雜俎」の話としてとく引かれるのが、月に生える桂の木伝説。・・・

舊言月中有桂,有蟾蜍,--- 「腐敗僧侶と弄道術批判」

古い話だが、書いておこうかと言わんばかりの書き方。ただ、そう感じないのは、前半しか引用しないからだ。
後半も引用しておこう。・・・

釋氏書言
須彌山南面有閻扶樹,月過,樹影入月中。
或言月中蟾桂地影也,
空處水影也,此語差近。
  [卷一 天咫]

月のガマや桂の木とは蔭にすぎないのだヨ、というのが仏教的見方ですゾとしっかりと書いてある。

ガマの話にしても、十五夜の月光で輝く姿を見た人がいるが、それこそ月の使者かも知れぬナ、との一文も収載しているのだ。・・・

長慶中,有人玩八月十五夜,月光屬於林中如疋布。其人尋視之,見一金背蝦蟆,疑是月中者。工部員外郎周封嘗説此事,忘人姓名。
   [卷一 天咫]

こちらも、"疑是月中者"としてあり、同様な態度と言ってよかろう。

そんな風に思うのは、月は太陽の光を反射して光っているという節が同じ巻に収録されているからだ。
しかも、そのソースは巷で囁かれる話ではなく、列記とした人物の話なのである。・・・

大和中,鄭仁本表弟,不記姓名,常與一王秀才遊嵩山,捫蘿越澗,境極幽後,遂迷歸路。將暮,不知所之。徙倚間,忽覺叢中鼾睡聲,披榛窺之,見一人布衣,甚潔白,枕一物,方眠熟。即呼之,曰:
 “某偶入此徑,迷路,君知向官道否?”
其人舉首略視,不應,復寢。
又再三呼之,乃起坐,顧曰:
 “來此。”
二人因就之,且問其所自。其人笑曰:
 “君知月乃七寶合成乎?
  
月勢如丸,其影,日爍其凸處也。
  常有八萬二千戸修之,予即一數。”
因開,有斤鑿數事,玉屑飯兩裹,授與二人曰:
 “分食此。雖不足長生,可一生無疾耳。”
乃起二人,指一支徑:
 “但由此,自合官道矣。”言已不見。
  [卷一 天咫]

なかなかに鋭い指摘。
太陽光を鏡のように反射させるために、表面の凹凸を調整する膨大な人が働いているというのである。桂の木を切る男が月に居るという話より、余程面白いではないか。

桂の木を切る男の話はそこらじゅうに引用されているのだが、こちらの話を引用する人滅多にいない。古代の伝説の話をしているのに、同じ引用元に、このような話が存在していると書くのはえらく都合が悪いからであろう。

そもそも、空に太陽の明るさが残っている状態での、白っぽい月の姿を見慣れていれば、それを残光を反射している状況と見るのは極めて常識的である。空が闇に包まれてきたので、白から黄に変わってきたと考える人がいるのは当たり前のこと。

成式は、3本足烏を揶揄した話を収載しており、天体現象についても、かなり冷静に見つめていたといえそう。
沙漠地帯では上空に細かな粒子が浮遊しているため、後光の如くに太陽が傘を被ることが知れれているが、その輪の一部が反射を強めれば小さな太陽になる訳で、インターナショナルなお付き合いを旨としていた成式はそこらもご存知だった可能性も高そう。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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