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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.4.14 ■■■

酉陽雑俎的に山海経を読む

--- 海外南経 ---

山海経は、五蔵山経(南-西-北-東-中の5巻26山系)の次ぎに海外経(南-西-北-東の4巻)が来る。さらにその外側を記載する海内経と(海内)大荒経へと続く。このうち、海内経はいかにもバラバラな印象を与える内容。統合的に全体像を記載しようとの意図が全く感じられない仕様。
このことは、本来的には五蔵山経と、その周囲の国々を眺めた海外経類は別モノだったことを意味していそう。
そうだとするなら、最終巻になっている海内経は海経類(海内経+大荒経)の補遺というだけでなく、山と海の繋ぎ目の齟齬等にも触れておこうということで作られたものと見るのが自然。かなり後世に継ぎ足したものであろう。

マ、海経とは、国名とそこに住む"異人"の姿が書いてある書でしかない訳で、鉱物や動植物を山毎に記載している山経とは自ずから目的が異なっている訳である。それに、帝の系譜記載に傾注している箇所もあり、政治的意図で挿入された可能性もあろう。

ところで、なんといっても、山海経で注意すべきは、記述の順番が太陽が昇る東から記述を始めずに、天中方向の南を先頭にもってきている点。(但し、大荒経は東南西北の順で一貫性に欠ける。この巻は巨大中華帝国樹立後に加えられたのだろう。)

ともあれ、南から始まる記載は、中華帝国を支える官僚の思惑とは相容れないものがあり、それこそ焚書にでもしたい筈。(一般的には、孔子が嫌う怪奇な内容だらけだから、山海経は注目されてこなかったとされるが、そのような言い草をそのまま受け取らぬ方がよかろう。)

成式は、そこらをよく見ていたようだ。
儒教勢力が嫌うのは、実は、怪奇ではなく、山海経の反"中原"意識であることに気付いたのであろう。文献を読めばすぐにわかるように、儒教勢力の思想的内実は怪奇否定とは程遠い。と言うか、怪奇と占術に傾注している宗教であり、それを氏族祖先崇拝に繋げただけ。成式はそれを見抜いていたからこそ、山海経に関心を払っているのだと思われる。

つまり、山海経が描く土着的怪奇は、儒教が志向する中華帝国のヒエラルキー構造に真っ向から対立していると言うこと。
【ご注意】
○日本に於ける"儒教"は、そうした宗教的な部分をすべて取り除いており、単なる道徳観念に近いので、お間違いなきよう。例えば、儒教の核である宗族信仰とは、友や地域より、交流皆無の遠くの文献上だけの血族を優先する思想を意味しており、日本の仏教的な祖先祭祀感覚や鎮守様化する氏族神信仰とは全く異なる。
○朝鮮半島は一貫して"小"中華思想で儒教一色の社会だが、当たり前だが、中原が中心ではない。従って、朝鮮半島の儒教勢力の山海経に対する姿勢は全く異なる筈である。山海経における朝鮮半島の記述は地誌的には正確無比と言ってよく、神や獣類について、余計な情報を加えていない。このことは、朝鮮半島の儒教勢力にとっては、山海経との親和性は極めて高いといえよう。(山海経は大陸各地の瑞兆や大厄原因の参考一覧表として使えるからである。)百済が儒教経典を贈呈したとすれば、必ず山海経も附属書としてつける筈である。


四川や江南の文化をよく知る成式は、「楚辞」でも重視している「山海経」を理解する必要性を感じていたということでもあろう。

マ、目を通せは、「海内経」での"天下之中"が明らかに中原ではないことがわかる。この記述は政治的にえらく拙いゼ、とは素人でもすぐに感じる訳である。しかも、その「海内経」たるや、極めていい加減な作り。つまり、バラけたママ。捨てられかねぬ話をどうにか収録しただけの代物なのだ。成式的センスからすれば、これこそ注目すべき書となる訳で。

それでは、さっそく、<海外南経>に登場する国々を見ていこう。その対象は西南隅[=陬]〜東南隅。
この南方地域のハイライトは最後に記載されている、兩龍に乗る神である。
それは獸身人面の祝融
《南》朱雀の前身であろう。

と言うことで、勝手に解釈してみた。(§の箇所)

【結匈國】結匈
§胸がとび出ている人ありの地。所謂、鳩胸。[骨の疾病:ビタミンD不足の場合もある.]ただ、鳥トーテム族にとっては、それは誇れる姿である。2名で肩を組んでそれぞれが色違いの翼を持ち、広場で踊り興ずるのが祭祀の華だったと見てよかろう。§
   ▲南山
   蟲→蛇→號魚
【比翼鳥】・・・青赤
【羽民國】長頭 羽
§頭が長い人多し。羽毛衣類好き。約16部族に固定化。この国は、南山系の鳥トーテムと縁続きということだが、一本脚で休息するような鳥であるから、川辺や湖のほとりでの農耕を旨としていたのだと思われる。§
神人・・・小人頬赤肩(盡十六人)
【畢方鳥】・・・人面一
【讙頭國 or 讙朱國】人面有翼 鳥喙 方捕魚
§口吻がとび出ている。翼状衣類での漁撈。口をとがらすのは、鳥の嘴に似ているので、吉兆をもたらす感覚があるのだろう。船の舳先には鳥が飾られていると、容易に推定できよう。
鵜飼を始めた民の可能性もある。日本の鵜飼と違い、大陸では紐をつけない。つまり、両者はほとんど親子兄弟の関係。その生活はまさしく鳥人そのもの。§

【厭火國】獸身K色 生火出其口中
§体色黒。油脂で炎が出ているままの串刺焼肉食。日焼け肌であり、日中の気温がかなり高いため、肉はすぐに腐敗するのであろう。§
【三株樹】@赤水上 柏的樹
【三苗國 or 三毛國】相隨
§肩を組んで歩き踊る儀式が多い。南方の鳥信仰は、民が群れる形態での舞踊と歌謡はつきもの。三苗とは、おそらく連合を意味する。鳥獣と共存できる環境を好む勢力が、大規模開拓を図る中央集権国家に対抗すべく樹立した国ではないか。§
國】黄 能操弓射蛇
§黄色人種。弓矢による狩猟中心。蛇食好み。蛇食い孔雀信仰との親和性を感じる。§
【貫匈國】匈有竅
§胸に穴が開いていることの神話はあるが、生贄の心臓を摘出する儀式があったのかも知れぬ。(帝に歯向かったことで有名な伝説は後からのっかったものだろう。)§
【交脛國】交脛
【不死】K色 壽
§祭祀に当たっては、脛が交叉する集団舞踏を行う取り決めがあるのでは。過酷な労働が不必要な、豊かな採取経済が上手く回っている地域だと思われる。§
【反舌國】反舌
§舌に切れ目を入れる風習あり。この手の慣習は、戦士資格を得るための過酷な試練を意味している可能性が強く、戦を第一義に置いている部族集団だと思われる。§
【三首國】一身三首
§3首で、3面や3頭ではないから頭髪スタイルではなく、頭蓋骨が3つあるということになろう。首狩り勝者と違うか。§
   ◇昆侖虚
【鑿齒】 v.s. 羿 @壽華之野
【周饒國 or 焦僥國】短小 冠帶
§冠と帯を装着。背は低い。戦乱では見劣る体躯であっても、勝利を収めてきた誇りが装身具になったのであろう。§
【長臂國】長臂 捕魚水中 兩手各操一魚
§長い腕。漁撈。戦乱を避けることはできなので、湖人/海人としての独自スキルを活用して、進出奇抜的な奇襲がお得意だったかも。山系部族を翻弄し続けた一大国家だったということ。§
   ▲狄山 or 湯山
   ,
   熊, 羆, 文虎, , 豹, 離朱, (𩿨久),
    視肉, (交)


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