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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.4.18 ■■■

酉陽雑俎的に山海経を読む

--- 海内経 ---

最後に来る巻は海内経との名称がついている。海外経-南/西/北/東4巻に続く、海内経-南/西/北/東4巻の訂正加筆的位置付けではあるまいか。
そこで、順番を繰り上げ、海内経-南/西/北/東を眺める前に取り上げておきたい。先に見ておくと以後が理解し易くなるからだ。

▽東海之内,北海之隅
【朝鮮國 or 天毒(→たぶん, 後の樂浪郡)だろう.・・・水居
   人, 愛人
§まだ取り上げていないが、この巻より前に刊行されたと思われる海内東経では、朝鮮はどう見ても地域名称で国名ではない。従って、改訂したのだと思う。もともと、おそらく鮮やかな朝の国土という意味であり、北方地域の位置付けから東方地域に変更されたという違いもある。ここでは、海人が作った国家と見なされている。
その海内東経では、まず鉅燕の名前がでてきてから、蓋国と倭が登場する。蓋国は北朝鮮北部の"蓋馬"を指すと思われる。そこら辺は台地であり、海人の住む所ではない。
その蓋国の南が倭とされ、強燕の属国として記載されている。燕は自称中華帝国と朝鮮半島の間に存在する強大な国家だったことがわかる記載といえよう。
ただ、倭という名称は日本列島を意識している訳ではない。ということは、朝鮮半島の渤海側沿岸一帯に海の勢力である倭人が進出していたことを示していると考えるのが自然である。
そして、そこらに住むのが、人と愛人となろう。何れも音で倭人に近いから、倭人とは、朝鮮半島も日本列島も区別なく、ここらの多島海を根城にする海人勢力の総称なのであろう。
ただ、ここでの記載は、あくまでも朝鮮國内である。つまり、半島に海人勢力を核とする緩い都市連合が存在していたことになろう。§

ただ、この増補の巻は、大荒経同様に"東"から始まっており、それ以前の記述とは考え方が違うので、注意してかかる必要があろう。朝鮮半島の項は軽く触れられているだけ。
[ご注意] "蓬山在海中。大人之市在海中。"はこの版では<海内北経>ではなく、<海内東經>に収録している。

次は、西。ここは"流沙"の地。
地誌を記載する気分ではなく、黄帝を頂点としてヒエラルキー上の位置付けを紹介しておきたい様子ありあり。
▽西海之内,流沙之中
【壑市國】
▽西海之内,流沙之西
【氾葉國】
   ▲鳥山 ▲淮山
▽____,流沙之東,K水之西
【朝雲之國】
【司之國】
   昌意[黄帝妻祖]
   └→生→韓流・・・擢首謹耳人面豕喙麟身渠股豚止
   阿女[子]
   └→生→
▽____,流沙之東,K水之
   ▲不死之山
▽____華山青水之東
   ▲曰肇山
     柏子高
▽_______西南,K水之
     后稷 ◇都廣之野
     素女
     鸞鳥,鳥,靈壽

東、西、の次は南。
▽南海之内,K水青水之
【禺中之國】
§禺は尾長猿であり、最初にこの国があがってくるところを見ると、総体的には南の開発はたいして進んでおらず、森だらけの環境だったということか。§
【列襄之國】
   ▲靈山
     ・・・赤蛇木食
【鹽長之國】
     鳥民・・・鳥首人
§信仰的には、南方で一般的な鳥トーテム部族の国ということだが、鹽を生産していることで一大勢力化したと思われる。§
     ◇9丘[陶唐之丘、叔得之丘、孟盈之丘、
          昆吾之丘、K白之丘、赤望之丘、
          參衛之丘、武夫之丘、神民之丘]

     ・・・龍首食人
     猩猩・・・青獸人面

西南は四川盆地を意味しているのは間違いない。
▽_______西南
【巴國】(大→生→咸鳥→生→乘釐→生→後照→始→巴人)
§巴國が、中原とは全く無縁の、独自の歴史を抱えていたのは間違いなく、文化的にも成熟していた可能性が高い。§
【流黄辛氏國】
§"域中方三百里"とされるから、大賑わいの都市国家だったと言えよう。巴國も含め、後の蜀の中核部族だと思われるが、蜀=縦目+蚕であり、縦目(棒状飛び出し眼)の青銅製仮面が出土しており、繁栄していた国々なのは間違いない。§
   ▲巴遂山
【朱卷之國】
     K蛇・・・青首食象
§長江中流域の蛇文化を代表しての登場国と言えよう。§
     巨人・・・K身有毛長脣反踵見人則笑唇蔽其目因可逃也
§K身有毛であり、これはヒトではなく、狒々の様相。人に親和的だったため、早くに絶滅させられてしまったのでは。§
     K人・・・虎首鳥足,兩手持蛇,方啗之
§ただ、河川湖から縁遠い山人になると、色黒で一目でわかるし、蛇崇拝というよりは食物の1つでしかないことを指摘しているのだろう。§
     ・・・鳥足,有封豕
§南部の食文化は相当に先進的で、豚飼育を進めていたようである。ただ、主体は鳥肉であろう。しかも、鳥のすべてを喰いつくす調理方法が完成していたということか。従って、鳥の一部が身体に入ってくる訳である。ここでの鳥は、水掻きがあるタイプではないか。§
     
§以下のどこまでが関係するのか定かではないが、わざわざ記述する必要があるほどに、独自の伝統に基づく祭祀風俗の規定が完成していた国があると指摘したかったのだろう。§
     延維・・・人首蛇身,長如轅,左右有首,衣紫衣,冠旃冠,
     鸞鳥
     ・・・首文曰コ,翼文曰順,膺文曰仁,背文曰義
§儒教思想の解説が挿入されている。天子たるべく帝は、南の"鳥"地域を併合すべきと主張しているようなもの。§
     的青獣𡹤
     翠鳥・・・孔鳥
▽南海之内
   ▲衡山 ▲菌山 ▲桂山・・・三天子之都
   ▲九嶷山@▲蒼梧之丘

ということで、最後は北。
▽北海之内
  ▲蛇山
  翳鳥・・・五彩
  ▲不鉅之山
§ついに、巧芸者の登場。意義はわからぬが、話としては新しいが、そもそも人類創生の人首蛇神が道具を持っているほど変節が進んでいる訳だから、特段の意図がある訳ではなかろう。§
  相顧之尸[常倍の補佐役]・・・盗賊 帶戈反縛状態
§北方からの盗賊的侵出がたまらなかったのであろう。§
  伯夷父→生→西岳→生→先龍→生→[乞]
【大幽之國】
  ▲幽都之山
     玄鳥、玄蛇、玄豹、玄虎、玄孤・・・蓬尾
  ▲大玄之山玄丘之民
     赤脛之民
§北方のこと。雪焼けしている民が多いのだと思われる。§
【釘靈之國】・・・從已下有毛,馬善走
§毛皮のブーツ的な履物を着用しているのでは。その姿で、雪上で獲物を追いかけての狩猟生活をしているのだろう。北方ツングース族のことだと思われる。§

この先は、帝紀そのもの。地誌とは無縁である。
武器や手工業の開始はすでに述べられているので、農業(播種、牛耕)の本格化について触れたりしているのだ。この辺りは、炎帝の系譜記でもあるが、最後の〆は、先ずは、帝は祝融に命じて鯀を羽郊で殺戮させる事績。その鯀が産んだ禹に命じて国土を区分させ、九州を定めた、との現代でも比較的知られている話で終わるのである。
この最終巻最後の部分は別途とりあげよう。


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