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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.5.3 ■■■

酉陽雑俎的に山海経を読む

--- 全体像:その6 獣信仰 ---

鳥信仰[→]、魚信仰[→]を取り上げて、獣信仰を捨象する訳にもいかないので、見ておくことにした。

よくわからない点が余りに多すぎるのが獣の見方。

先ず第一にあげておきたいのが、牛羊馬の怪獣の不可思議さ。家畜化されているから、その習性はよく知られており草食であるのはわかりきっているにもかかわらず、食人だったりする点。

第二に、十二支にあげられる獣もそれなりに登場しそうなものだが、鼠や兎もゼロではないにしてもほとんど無視されているような状況。鹿ではなく、どうして、そのような目立たぬ獣を採用したのだろうか。ただ、どういう訳か、祭祀に鹿は使われなかったようだ。牛・羊・豚か、羊・豚が多いが、鶏や他の鳥の場合もある。毛モノと記載してあるだけのこともある。

第三に、西域との交流もあったと思われるが、駱駝がたった一ヶ所[北山経]登場するだけな点。
このことは、揚子江デルタあるいは、中流部の古代文化は先進的であり、西域にたいした興味を覚えていなかったということかも。前漢 武帝作った西域の出入り口の玉門関@甘粛敦煌近隣は、玉の独占輸入のためのものであり、山経執筆時点は良質の玉は国産だったのだろうから。

第四に、犀、、象が棲息している点。おそらく、まだ絶滅していなかったのである。角を服用すれば、これらの獣の能力を頂戴できるというのが、中華信仰であるから、絶滅避けられぬ訳である。
象や犀の絶滅時期はわからぬが、戦国時代はすでに絶滅していたようだ。"想像"という熟語が使われているからだ。
  人希見生象也,而得死象之骨,案其圖以想其生也,
  故諸人之所以意想者皆謂之"象"也。
  今道雖不可得聞見,聖人執其見功以處見其形,
  故曰"無状之状,無物之象"。
[「韓非子」解老第二十@戰國時代]

勝手に造ったカテゴリーに見ておこう。

尚、文字的分類だとこんな具合。[→]
  狩猟族
群棲狩猟族・・・犬・狗・狗・狼・狐・獅・猿・猩・猴
群棲半狩猟族・・・𧰨/猪・豪
孤棲鉤爪手狩猟族・・・豹・/猫・/狸・/・貉・貂//獏・𧴡・獺
虎族・・・
熊族・・・熊:
  非狩猟族
象族・・・
大型角族・・・犀・
中型角族・・・𦍌
中型落角族・・・鹿
疾走族・・・
  
小型長耳族・・・
小型歯尾族・・・鼠:・鼬・

●先ず、虎豹といった大型猫だが、山林が至るところにあった頃であり、誰でもが知る動物だったろう。ただ、出会ってしまえば、間違いなく襲われ、命を落とすとされていたようだ。(「酉陽雑俎」を読んでいると、盗賊の仕業が多そう。かなり早くから虎はほとんど絶滅状態だった可能性が高かろう。そうでなければ、山に修行に入れる訳がない。)
出逢いたくない獣のイの一番にあがっていたに違いない。従って、そのお力頂戴致したくということで、かなりの信仰を集めていたと見てよかろう。9頭を縫い付けた毛皮縫いぐるみを持つ虎退治将軍や、9尾虎毛皮には畏怖感が漂っていたということ。そうなると、牛尾とは獅子の尻尾の縫い付けかも。
ただ、五采の虎[吾]との表現がある場合は、そのような虎信仰の上に、意図的に五采鳥をのせようと図ったのであろう。普通の獣は1日1,000里など絶対に無理だが、鳥のようにどこにでも行けるぞということで作ったのであろう。もちろん、神人が、聖鳥の替りに、虎に乗ることになる。
ただ、長尾は、もしかすると雪豹がモデルかも。この動物は、大型猫族の祖先に一番近い可能性があり、人類の長い歴史のなかで尊崇対象にされてもおかしくないからだ。[→]
もっとも、文題白身の豹が記載されており、よくなつくという点から、個人的にはコレに違いないと見るが。
そうそう、鳥信仰の整理表で"神人-使四鳥:豹、虎、熊、羆"に該当する国が結構多かった。羆は無理だと思うが、他は子供から育ててペット的に飼っていたことを示唆しているのかも。
そういえば、雲豹の扱いはどうなっているのだろうか。

●狐/狸・狗/犬/狼類を統合したカテゴリーは無理があるような気がするが、肉食小獣であるという点では一括して考えることができよう。狸という文字は本来は山猫を示すらしいし。
  動物の漢字表記【肉食系獣】[2013.5.24]
しかも、人里好きな綿々でもあり、結構近しい動物であるのは間違いない。実際、的獣に関しては、"養之可以已憂"と書いてあり、実用性ゼロで、信仰とも無縁なようだから、これはペット以外の何物でもなかろう。すでに、上流階級の文化はそこまで成熟していたことを示している。狸というより、小型猫を意味していそうな感じがする。
一方、"白"尾の𤜣狼、"赤"の天犬、"青"の犬は、十二支に登場するような部族トーテム臭い。[→] この場合、犬にペット的な親近感を持っている訳ではなく、小さい体躯の割に獰猛という点が評価されていると考えるべきである。しかも、必要に迫られた時は食肉と化すということで、部族の命を救ってくれるのである。

●禺//猿・類人猿のグループについては、正確に記載してもよさそうに思うが、力を入れていない書きっぷり。山海経執筆時点は山林も多かったろうから、情報も少なくなかった筈だと思うが。信仰的には興味を想えなかったということか。
どちらかと言えば、サルとして扱うよりは、特殊な社会を形成している異人にしたいからかも知れぬ。辺境の地の民を怪奇な人々として扱うことで、為政者の優越性を際立たせたいのである。と言っても、山海経におけるサルとヒトの違いは、真っ裸か否かというだけだと思う。
尚、こうした獣が登場すると、どんな問題が発生するかという記載は一切カットしたが、犬や猿に関しては一理ある。見知らぬ犬が現れるなら、なんらかの紛争に繋がる可能性はあしそうだし、森に棲む猿が里に現れるなら食料事情激変を意味しており騒動の前兆となりそうだから。

●草食獣として、羊・牛・馬・鹿を見てみよう。かなりの種類にのぼる。
このなかでは、聖書を引くまでもなく羊は弱い動物である。食人獣だとすると、それは羊頭狗肉ならぬ、狗頭羊身以外の何物でもなかろう。ただ、角があるという点で、それは有り得ぬということになる。
鹿食文化の民は、鹿の種類がえらく細かく、成長段階や雌雄で名称が異なることが多い。日本人にはとてもついていけないが、古代に家畜化されてしまった羊・牛・馬も野生は様々な姿の種が存在した可能性があり、そこらの思い出がからんでいる可能性もあるので、さっぱり理解できぬということとしよう。
ただ、風雨をおこす[大荒東経]は牛に似て居いるといいながら無角であり1足とおかしい。雷聲ともいるから、これは間違いなく揚子鰐をさしていよう。

ここでも、問題発生の記述でいかにも感を与える記載がある。白首一目蛇尾というなんだかわからぬ牛的な獣の蜚[東山経四]だが、登場すれば、疫病の徴候とか。わかるゾ、この発想。これはおそらく、死んだ牛の姿であろう。遊牧の民の移住でしばしば生ずる現象である。と言うのは、東シナ海側や亜熱帯地域の人々は定着族であり、遠来の病原菌やウイルスに免疫が全くないから、バタバタとやられるのである。牛がやられれば、次はヒトである。

●豚/猪系も、家畜化の過程がはっきりしていないので、想像が働かない。大量出産する種であるから、変異を発生さえるためにトンデモナイことをしていた可能性も捨てきれぬ。ヘンテコな姿は、奇形を産ませたことを意味していそうな印象を与える。尚、人食は、死肉という意味ではよくあること。そこから禁忌が生まれているという説もある位で。
ただ、猪は山岳地帯の森に棲息しているから、野原系の草食家畜とは違い、山信仰と繋がっている可能性も捨てきれない。

─・─ 獣類 ─・─
 <虎的獣>
9人面首神獣開明獣@昆侖山@海内西経
人面神獣陸吾@西山経三・・・9尾虎爪
人面身獣[食人]馬腹@中山経二・・・嬰兒音
的獣[食人]窮奇@海内北経・・・有翼 ⇒牛的獣も
的獣[食人]@浮玉之山@南山経二・・・牛尾 吠犬音
的珍獣@林氏國@海内北経・・・五采畢具尾長于身 乘之日行千裏
的獣𤞞@北之山@北山経二・・・白身犬首馬尾
@西山経,中山経,大荒東経,大荒南経,大荒北経,海外南経
@西山経
@海内経
 <豹的獣>
人首的獣@北山経一・・・長尾牛耳一目善行則銜尾居則蟠尾
的獣孟極@北山経一・・・文題白身善伏自呼鳴
的獣@北山経一・・・文首
赤豹的獣@西山経三・・・五尾一角撃石音
@西山経二
@西山経一/二, 中山経八/九/十一, 海外南経, 海内西経, 大荒東経, 大荒南経, 大荒北経
@中山経十一, 海内経
 <狐/狸的獣>
的獣[食人]九尾狐@青丘之山@南山経・・・9尾 嬰兒音
的獣𤜣@中山経九・・・白尾長耳
的獣@東山経二・・・有翼鴻鴈音
的獣@東山経二・・・魚翼自
的獣乗黄@海外西経・・・背角
@海内経・・・蓬尾
的獣@西山経三・・・1目3尾 多様聲
的獣@亶爰之山@南山経一・・・有髦自為牝牡
的獣@中山経一・・・白尾有
的獣天狗@西山経三・・・白首榴榴音
的獣梁渠@中山経十一・・・白首虎爪
 <狗/犬/狼的獣>
的獣谿邊@西山経一
的獣[食人從首]@海内北経・・・青
的獣@西山経三・・・豹文角如牛吠犬音
的獣@中山経十一・・・虎爪有甲善𤘝
膜犬的獣𤝻@中山経十一・・・赤喙赤目白尾
赤犬天犬@大荒西経
的獣[食人]@東山経四・・・赤首鼠目豚音
@大荒南経
@西山経四
 <禺//猿的獣>
的獣@招揺之山@南山経一・・・白耳 伏行人走 ⇒豕的獣も
的獣[=]@西山経一・・・長臂 善投
的獣舉父@西山経三・・・文[豹虎模様か]臂 善投
的獣@北山経一・・・文身 善笑見人則臥 自呼鳴
的獣@北山経一・・・有牛尾文臂馬 見人則呼
的獣長右@長右之山@南山経二・・・四耳 吟音
的獣雍和@中山経十一・・・赤目赤喙黄身
的獣朱厭@西山経二・・・白首赤足
@堂庭之山@南山経一
@發爽之山@南山経三
 <類人猿的獣>
的獣@堯光之山@南山経二・・・ 穴居而冬蟄
人面青獸猩猩@海内経
 <羊的獣>
的獣[食人]土螻@西山経三・・・四角
的獣[食人]@北山経二・・・目腋下虎齒人爪嬰兒音
的獣@西山経一/二/四, 中山経四/六・・・馬尾
的獣@西山経一・・・赤
的獣@北山経三・・・一角一目目耳後自鳴
的獣@洵山@南山経二・・・無口不可殺
的獣@基山@南山経一・・・九尾四耳目背
@西山経ニ, 北山經一/三. 中山経四
@中山経一/三/五/七
 <牛的獣>
人面的獣[食人]@北山経一・・・赤身馬足嬰兒音
的獣[食人]窮奇@西山経四・・・[針鼠]毛 狗鳴 ⇒虎的獣も
的獣[風雨]@大荒東経・・・蒼身無角1足 雷聲
的獣[食人]𢕟𢓨@西山経三・・・白身四角披蓑
的獣[食人]諸懷@北山経一・・・四角人目
的獣[食人]犀渠@中山経四・・・蒼身嬰兒音
的獣[食人]@東山経二・・・虎文欽音自
的獣那父@北山経三・・・白尾
的獣旄牛@北山経一, 西山経一・・・四節生毛
的獣領胡@北山経三・・・頸𦜜句瞿状
的獣@北山経三・・・三足自
的獣@中山経九
的獣精精@東山経三・・・馬尾自
@中山経八
的獣@南山経三, 西山経一/二, 北山経一,中山経八/九, 海内南経・・・蒼K一角
的獣犀牛@海内南経・・・K
的獣𤛎@西山経一・・・蒼K大目
的獣@西山経一/二/四, 中山経四/六/十一
@中山経八
的獣@東山経四・・・白首一目蛇尾
 <馬的獣>
(人面身的英招@西山経三・・・虎文鳥翼榴音)
身的獣[食人]孰湖@西山経四・・・鳥翼蛇尾舉人
的獣@北山経一・・・一角有錯
的獣𩣡@北山経ニ・・・牛尾白身一角呼音
的獣[食虎豹]@西山経四・・・白身K尾一角虎牙爪鼓音
的獣水馬@北山経一・・・文臂牛尾呼音
的獣@海外北経
的獣@海外北経・・・白馬
的獣@海外北経
的獣鹿蜀@陽之山@南山経一・・・白首虎文赤尾文謠音
的獣吉量@海内北経・・・有文縞身朱目黄金
的獣@東山経二・・・羊目四角牛尾狗音
的獣旄馬@海内南経・・・四節有毛
青馬, 三騅@海外東経, 大荒南経
赤馬, 三騅@大荒南経
黄馬@大荒西経
三匹青馬@大荒東経
三馬, 三騅@大荒東経, 大荒西経
@北山経一, 中山経六/九
 /豚/豕/逐的獣>
人面的獣[食人]@東山経四・・・黄身赤尾嬰兒音
的獣蠪蛭;@中山経二・・・有角號音
[不詳]的獣屏蓬@大荒西経・・・左右首
的獣并封@海外西経・・・前後皆首K
的獣𧲂@中山経十一・・・黄身白頭白尾
的獣@東山経一・・・有珠
的獣貍力@櫃山@南山経二・・・有距狗吠音
的獣當康@東山経四・・・有牙鳴自叫
的獣@西山経一・・・白毛大如笄端
人面的獣[2] @海内南経 ⇒禺的獣も
@中山経八/九
的獣山膏@中山経七・・・赤丹火善詈
 <鹿的獣>
鹿的獣𤣎@西山経一・・・白尾馬脚人手四角
鹿的獣夫諸@中山経三・・・白四角
的獣@北山経三・・・州在尾上
的獣@東山経三・・・魚目自
@西山経一, 中山経八/九/十一/十二
, , @中山経八
𪊨@中山経十二
鹿@西山経四
鹿@西山経, 東山経, 中山経
 <他獣>
犀  象
駱駝@北山経
的獣耳鼠@北山経一・・・菟首麋身犬音尾飛
的獣飛鼠@北山経三・・・鼠首背飛
@中山経四
@中山経十一

[付記] 東晋 葛洪:「抱朴子」内篇卷十七 登渉には、山中で出会っても、名前を知っていれば問題なしとして、あげているものがある。順番は整理のために変えたが、大雑把にどのように見ているかがわかろう。・・・
  <植物・鉱物>
【老樹】・・・"仙人"
【金玉】・・・"婦人"
  <十二支生肖>
【鼠】・・・"社君"@子日
【牛】・・・"書生"
@醜(丑)日
【虎】・・・"虞吏"
@寅日
【兔】・・・"丈人"
@卯日
【龍】・・・"雨師"
@辰日
【社中の蛇】・・・"寡人"
@巳日
【馬】・・・"三公"
@午日
【羊】・・・"主人"
@未日
【猴】・・・"人君"
@申日
  【猿】・・・"九卿"
【雉】・・・"捕賊"
@酉日
  【老】・・・"將軍"
【犬】・・・"人の姓と字"
@戌日
  【狼】・・・"當路君"
【豬】・・・"神君"
@亥日
  <鹿類>
【麋】・・・"東王父"
【鹿】・・・"西王母"
/】・・・"吏"
  <他小獣類>
【老狸】・・・"令長"
【狐】・・・"成陽公"
【伏翼
/蝙蝠】・・・"神人"
  <水棲類>
【魚】・・・"河伯"
【蟹】・・・"無腸公"
【龜】



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