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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.5.19 ■■■

天津橋の易者

今村選択版では、(「巻五 怪術」の末尾ではなく)、「卷六 藝絶」に収録されている話を取り上げておこう。
有名な場所である、洛陽の天津橋でのお話である。
  (「卷五 詭習」の大道芸も天津橋)[→]

天寶末,
術士錢知微,嘗至洛,
遂榜天津橋表柱賣卜,一卦帛十疋。
歴旬,人皆不詣之。
一日,有貴公子意其必異,命取帛如數卜焉。
錢命蓍布卦成,曰:
 “予筮可期一生,君何戲焉?”
其人曰:
 “卜事甚切,先生豈誤乎?”
錢雲:
 “請為韻語:
   
[全唐詩収載「銭知微卜賣天津橋」卷八百八十(3)]
  兩頭點土,中心虚懸。人足踏跋,不肯下錢。”
其人本意賣天津橋紿之。
其精如此。

天宝年間[742-755年]末のこと。
術士の銭知微はたまたま洛陽に来ており
ト占の易を有料で行うと、天津橋の表柱に広告を出した。
1回の卦の見料は帛十疋、と。
それから10日経ったが、誰一人として客が来なかった。
ところが、ある日のことである。
某貴公子が、これはただ者ではあるまいと感じて訪問。
帛を卜占の数だけとれと命じた。
早速、銭知微は蓍で卦を立てた。
そして、
 「この筮は、貴君の一生を見立てることが可能。
  何故に、戯言のように扱うのか。」と。
その人が答えて言うには、
 「卜占が必要なのは、はなはだ切実な問題があるから。
  先生は、なにかお間違いされている。」
そこで、銭知微は、語り始めた。
 「それでは、韵語でお話いたしましょう。
   両方の端には土が点々。
   中心は虚空に懸架状態。
   人々は足で踏みつけ歩行。
   だが、銭に下ることはありませぬ。」
その人の本当の狙いは、天津橋を売って、
 上手く欺こうというものだったのである。
錢知微の精髄とはかくの如し。


見料の相場は知らぬが、帛十疋である。人通りの多い橋に出した広告を見て、そんな易者に見立ててもらおうとやってくる御仁とはどういうお方なのだろうか。
何しにやって来たのかネ、といったところだろう。

これは、どう見ても「怪術」ではなく、まさしく「藝絶」である。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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