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■■■ 「酉陽雑俎」の面白さ 2017.9.21 ■■■

彈棋ゲーム

"彈棋"とは、完璧に廃れてしまったので、どのようなものか細かな点はわからぬが、"棋"の"お弾き"である。

オハジキと言うと、女児の遊戯的イメージが濃いが、古代は運動神経を競う成人のゲームだった訳だ。
もちろん、日本にも伝来しており、貴族の間では一時期は大流行だったのは間違いない。源氏物語(須磨 第一段)にも登場する位だから。従って、正倉院宝物の木画螺鈿双六局第1号も、双六盤ではなく、弾棊盤(おはじき盤)と見て間違いなかろう。双六盤とは、形状が違うのだから。

このように書いてしまうと、雅なゲームのように思ってしまうが、多分、賭け事。飲酒や闘鶏と一緒のカテゴリーに属しているのだから。・・・
子冀嗣。…性嗜酒,能挽滿、彈棋、格五、六博、蹴鞠、意錢之戲,又好臂鷹走狗,騁馬鬥 [「後漢書」卷三十四 梁統列傳 第二十四 (梁冀)]

成式はこのように記載している。・・・

《世説》雲:
 彈棋起自魏室,"妝奩"戲也。
《典論》雲:
 “予於他戲弄之事,少所喜,唯彈棋略盡其巧。
  京師有馬合郷侯、東方世安、張公子,
   恨不與數子對。”
不起於魏室明矣。
今彈棋用棋二十四,以色別貴賤,棋絶後一豆。
《座右方》雲:
 “白K各六棋,
  依六博棋形。頗似枕状。
又魏戲法,先立一棋於局中,鬥余者,思白K圍繞之,十八籌成都。”


今村注はいかにも力が入っているご様子。なにか感じるところがあったのかも知れぬ。
様々な原文を眺めれば、その気分がわかるかも。

「世説新語」巧藝ではこう記載されている。
魏の宗室のゲーム、"妝奩"が発祥、と。

"彈"始自魏宮内用"妝奩"戲。
文帝 於此戲特妙,用手巾角拂之,無不中。
有客自雲能,帝使為之,客著葛巾角,低頭拂,妙逾於帝。

"妝奩"とは、女子梳妝用的鏡匣の名称。もともとは、女子のゲームだったということか。
それにしては、「典論」の引用からすると、立派な男の熱中する遊びということになり、その辺り、矛盾した感じがする。「土佐日記」的なものでもなかろうし。

一方、「典論」では、魏 文帝の自叙がある。
イの一番という位に熱中したという。技巧を徹底的に磨いたようだ。従って、京師の達人達とお手合わせできないのがまことに残念至極とか。

余於他戲弄之事,少所喜;惟彈棋略盡其功,乃為之賦。
昔京師先工有馬合郷侯、東方安世安、張公子,
常恨不得與彼數子者對。
 [@「太平御覽」卷七百五十五 工藝部十二 彈棋]
おそらく、ゲームそのものの面白さというより、煩い臣下との話を避け、一人で、お弾きの練習に精をだしていたのであろう。本当は、面倒なことを忘れて、しばし外でスポーツに興じたかったのかも知れぬが、そうはいかない。
成式は無視したが、肉体的に疲れる蹴の代替としての室内ゲームとして始まったとの説もある訳で。・・・
成帝好蹴,羣臣以蹴為勞體,非至尊所宜。帝曰:「朕好之,可擇似而不勞者奏之。」家君作彈棋以獻,帝大ス,賜青羔裘、紫絲履,服以朝覲。 [「西京雜記」卷二 五一 彈棋代蹴]

ともあれ、京が流行の中心地だった訳である。
魏発祥説はとれまい。自明。

ただ、成式の興味は発祥と言うより、大流行したゲームがはたして今も続いているのか、という点だろう。・・・
今の時代(唐代)の彈棋は、棋を二十四個使う。色がつけられていて、それが貴賤の区別を示している。
置棋二十有四,貴者半賤者,半貴曰上賤曰。…用朱墨以別焉。 [唐 柳宗元:「彈棋序」]
棋が絶えると豆一粒である。
麻雀の点棒ならぬ、彈棋の点豆か。ピーナッツかネ。
細かなルールはわからないが、24個の"棋"を使うというのが取決めだったようだ。
それは、古代から同じかと思いきや、そうではないのである。

ところが、「座右方」によれば、
白K各六棋。
  六博の棋形。頗る枕の形状に似ている。

(魏 邯鄲淳:)《藝經》曰:彈棋,二人對局,K白棋各六枚。先列棋相當。下呼,上撃之。 [@「太平御覽」卷七百五十五 工藝部十二 彈棋]
《藝経》曰:“彈,兩人対局,白K各六枚,先列相当,更先彈之。其局以石為之。(至魏改用十六棋,唐又揶ラ二十四棋。) [「後漢書」卷三十四 梁統列傳 第二十四 (梁冀). 李賢注引]
なんと、"棋"の数は24ではなく、その半分の12個だったのだ。唐代に倍増させたことになろう。形状も違ったものだったようである。

個数だけでなく、局盤上の並べ方も違っていたようで、オハジキという点が同じだけで、全く異なるルールだった可能性が高い。・・・

再び、魏に戻って、そこでの戲法だが、先ずは一棋を局盤上に立て、戦う方は、その周囲をぐるっと白黒がが取り囲むようにする。
18籌で都ができる。
…細い角棒[算木]が点棒か。上がりが18点か。
又魏戲法,先立一棋於局中,鬥余者,思白K圍繞之,十八籌成都。(出「世説」) [@「太平廣記」]

流行ゲームとは所詮はこの程度のものということ。
社会の"気分"というものがあるのかはわからぬが、多分にムード的にルールが決められていくのだと思われる。そして、それを為政者が愛好するか否かも、重要なファクターなのであろう。と言うより、官僚統制の帝国であるから、時の帝に有利なルールに変わっていくということでしかないと思われる。

(参考邦訳) 段成式[今村与志雄 訳]:「酉陽雑俎」東洋文庫/平凡社 1980・・・訳と註のみで、原漢文は非掲載.

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