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2000.10.13
 
 


白川先生ファン…

 白川英樹先生のノーベル賞受賞を心から喜ぶ企業内研究者はあちこちにいる。おつきあいしている訳でもないのに、ファンが多い。こうした企業内ファンは共通の体験をもっている。

 ポリアセチレンの合成に成功したと聞き、多くの企業が教えを請いに先生に接触を図った。前途有望で、自社で利用できそうな科学技術なら、企業は万難を排してもコンタクトする。つてを頼って、訪れた企業研究者は多い。そして、いずれも感激して帰って来た。---皆、その当時の衝撃を覚えている。
 炭素と水素からできているフィルムだというのに、ポリアセチレン・フィルムには金属光沢がある。実物を見せてもらった瞬間、「成る程、 教科書通り。」と驚く。自由電子が金属光沢を出すとの理屈は習っても、実感などない。美しい光沢に、圧倒されたのだ。
 会社に帰った研究者は、その感激を話し、同僚と応用について熱っぽく議論した筈だ。といっても、耐久性というバリアがあるから、即時、研究テーマ化する企業は少数だった。しかし、皆、本当の所は、挑戦してみたかったのである。

 ノーベル賞対象の研究成果が生まれたのは、白川先生にとって昔のことだが、企業内の白川先生ファンも同じことだ。先生は定年退官されたが、当時、若手だった企業内研究者はいまや企業のマネジメント層にいる。

 20年前、「学者」と「企業研究者」の交流はこうした交流から始まるのが普通だった。先生が産業用途を考えなくとも、素晴らしい成果が出たと聞けば、産業界は自然と寄ってきたのである。先生にとっては、面倒な人達だったろうが、研究者なら歓待される風土があった。
 こうした、「良き時代」は終わったのかもしれない。今や、大学の先生方にも、ビジネス用途を考えた研究をすべきというプレッシャーがかかっているからだ。

 しかし、もともと、ビジネス発想で研究をしてなかった先生方に、このようなプレッシャーがプラスに働く保証はない。
 白川先生も、米国で初めて発表した時、IBMの人がやってきて「何に使えるのか」と質問され、どう答えていいか分からなかった、と発言されている。(http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt40/20001011eimi150111.html)

 産業界にとっては、大学からビジネスに使えそうなアウトプットが出ればよいのだ。先生方を一律の型にはめて、ビジネス発想を求めている訳ではない。人真似のフォローアップ実験や、挑戦皆無の研究を止め、革新的なアウトプットを狙って欲しいのである。


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