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2005.3.3
 
 


中学生相手の本の意義…

 北城恪太郎経済同友会代表幹事のインタビュー記事が公開された。(1)
 何故、「経営者、15歳に仕事を教える」(2)(丸善 2004年12月)を書き下ろしたのか、という内容である。

 言うまでもないが、氏はエンジニア出身で、IBMアジアパシフィックのトップに登りつめた人である。
 このような履歴の人が、生の声で語りかけることが、社会を変えるきっかけになればよいのだが。

 ヒット本に賭ける出版社というより、地道な各分野の専門書を着実に仕上げる出版社の本なので、一寸残念だが、多くの中学生とその親御さんに読んで欲しいものだ。

 インタビューはポイントを聞き出した秀逸なものである。

 氏ははっきりと指摘している。
 「企業が求めている人材像は変わっているのに、親や学校が理解していない」と。

 その通りである。

 そして、その変化の第一歩は自立であるべきことも。
 「どんな道であれ、道を選ぶのは自分」
 「大人はもっと教育に参加して、子どもが自立するための手助けをしなければ」

 正論である。
 これは理想論ではない。
 ところが、教育の現場には伝わらない。(3)

 今の教育は、あまりに過保護である。その上、教育熱心とは、試験の点数向上のテクニックを身につけさせることと誤解しているように思える。

 その一方で、基礎学力を身につける教育は手を抜く。(4)

 ところが、現場は、これを正しい方向と考えているようだ。

 企業が一番欲しいのは、知恵を生み出せる人である。
 ところが、試験で成績優秀な人が、知恵を生み出せるとは限らない。もちろん、基本学力なくしては無理だろうが、はっきり言ってテストの成績などなんの参考にもならないのである。
 偏差値で優秀と見なされていようが、力が発揮できないなら、企業内では無用の人と見なされるだけである。

 子供の将来を本気で考えるなら、知恵を生み出せる人になるためには、何をすべきか、早くから本人に考えさせるべきである。
 換言すれば、自分の力で道を切り拓けそうな職業を探させることにつきる。
 有名大学から優良企業就職の道という、職業観皆無で、道を選択させたら将来どうなるか、考えてみればよい。

 今や、欧米の超優良企業では、組織的に知恵を生み出すために、素晴らしい人をどうしたら採用できるか、社内の人材をどのように育成するか、を徹底的に議論している。これが経営の最重要課題なのである。
 その結果、大学での成績優秀は軽視されるどころか、無視され始めている。しかも、自社の価値を高めることができる人材か、でコア人材か否かを判断するようになってきた。

 先端的な企業では、業務で大きな成果をあげても、当社の知恵を産む構造に合うタイプでないと判断されると、不要人材とされるようになっている位だ。

 営々と事業を続けるための、極く自然な人事政策が始まったのである。

 こんな時代が来ているのに、教育現場と親の考え方は旧態依然たるままだ。

 --- 参照 ---
(1) http://books.yahoo.co.jp/featured/interview/20050223kitashiro/01.html
(2) 一部試読 http://books.yahoo.co.jp/featured/interview/20050223kitashiro/pdf/01.pdf
(3) 経済同友会のメンバーが中心となって、JA日本本部を設立したのは1995年のことである。
  効果があったようには見えないが。
(4) ゆとり教育を是と考える経営者は多い。エリート育成ができると考えてしまうのだろう。
  ところが、日本でいくらゆとり教育を行っても、エリート輩出の方向には進まない。
  目指す職業など無いから、勉強すべきことがわからないのである。
  結果的に、短時間で偏差値向上させるテクニックを学ぶ生徒が増えるだけのことである。益々、同質な生徒が増産されることになろう。
  そのため、優秀な生徒を増産したい学校は、高い偏差値を維持するための瑣末な内容の勉学時間を増やさざるを得なくなる。


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