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2007.11.26
 
 


秋の読書週間を終えて…

  君と読みたい本がある。 田母神優子さん [2007・第61回「読書週間」標語]

 秋の読書週間が終わったが、「DS文学全集」の売れ行きが気になる。
 販売調査を見ると、2007年10月18日(発売)〜11月4日の2週半で72,000本(1)。発売前予測のほどは知らないが、順調な出だしのようだ。

 青空文庫(2)から収録した100冊(3)を収録したようだが、さらにダウンロードで増加できるそうだ。本好きにとっては、結構魅力的なソフトではないか。
 ただ、電子ブック設計ではないから、長時間文字を眺めて目が疲れないか心配にはなる。使用感を聞いてから購入を考えている人も結構多そうだ。
 このソフトが普及すれば、書籍のダウンロード購入が普通となる可能性があり、一挙にメディア市場が拡大する可能性がある。
 そうなると、読書人口は増大に転じるかも知れない。

 ところで、この100冊のうち、一番多いのが夏目漱石の作品で9本。時代が違うから、読むのに骨が折れると思うが、今もって人気がある訳だ。

好きな著者での漱石ランキング
(読書世論調査(4))
1位 1956年
1965年〜1969年
1972年〜1973年
1975年
1977年
1979年
 
7位
5位
5位
[80年以降の一部]
1986年
1992年
2006年
 実際、1947年から続いている毎日新聞の「読書世論調査」によれば、常時ランク入りする夏目漱石は、2006年の人気順位は5位。(4)純文学ではトップだ。
 漱石を読んで読書の喜びを知った人達にとっては、漱石は別格ということのようだ。
 と言っても、1970年代は、ほとんど1位だったから、読書人口減少もあり、この調子でこの先も続くかは定かではない。

 そう思うのは、1980年以降、島崎藤村が登場しなくなったからである。

 よく知られるように夏目漱石は藤村をいたく褒めていた。
 ・・・“破戒読了。明治の小説として後世に伝ふべき名篇也。金色夜叉の如きは二三十年の後は忘れられて然るべきものなり。破戒は然らず。僕多く小説読まず。然し明治の代に小説らしき小説が出たとすれば破戒ならんと思ふ。”(5-1)というのである。 自然主義文学のプロモーションを勧めていたのだ。
 同時期に「ホトトギス」に掲載した自らの作品、「坊っちゃん」は、“実は藤村先生とは正反対のもの”としているにもかかわらず。(5-2)

 一方、芥川龍之介は自然主義文学者の本性を見抜いていたようである。“「新生」の主人公ほど老獪な偽善者に出会つたことはなかつた”(6)との感情を吐露している。
 自然主義者の胡散臭さを感じていたということかも知れない。

 その指摘は正しかったのではないか。
 テストで覚えさせられるから「破戒」の題名を知っているかも知れぬが、おそらく、読んだ学生は稀だ。
 一方、「金色夜叉」は読んでいなくとも、その内容を知っている人は多い。“この小説にちなむ「お宮の松」と、「熱海の海岸散歩する・・・」で始まる歌謡が一体となり、爆発的に流布し、主人公「貫一・お宮」はあたかも実在の人物のように国民の心をとらえて離さない存在”(7)になってしまったからだ。
「DS文学全集」でも、100冊に「金色夜叉」は残っているが、「破戒」は無い。
 漱石の読みは外れたのである。

 --- 参照 ---
(1) メディアクリエイト全国ランキング[2007.11.08]
  http://www.gpara.com/ranking/mediacreatebn/ranking_20071108.php
(2) http://www.aozora.gr.jp/
(3) http://www.nintendo.co.jp/ds/ybnj/booklist/index.html
(4) 相良美成(毎日新聞世論調査室次長): “2006年「読書世論調査」の概要” 中央調査社 [2007.3]
  http://www.crs.or.jp/59312.htm
(5-1) 夏目漱石: 書簡No.554「森田草平宛はがき 」(明治39年4月3日) 漱石全集第22巻 [1996年]
(5-2) 同上No.553「森田草平宛はがき 」(明治39年4月1日)
(6) 芥川龍之介: 「或阿呆の一生」“46” [初出1927年]
  [青空文庫] http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/19_14618.html
(7) “about ATAMI” 熱海市観光協会 http://www.ataminews.gr.jp/news/aboutatami.html
(標語の出典) 2007・第61回「読書週間」標語
  http://www.dokusyo.or.jp/jigyo/dokusyo/07/hyougo/hyougokekka.htm
(イラスト) (C) 1999 Y.Kishino 牛飼いとアイコンの部屋 http://www.ushikai.com/index.htm


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